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(12) ルール

読者の皆様、こんにちは!

連続投稿3日目は、第12話「ルール」をお送りいたします。

それでは、始まり、始まり。

厳しい現実を知る事になった例の探索が終了してから、1週間が過ぎた。

この地が島であると解った時には、さすがに落胆した5人ではあったが、いつまでも落ち込んではいなかった。

今回の様に脱出はおろか、救助の可能性すら低い、厳しい状況に陥ってしまった時、もしも、ただ絶望し、心を閉ざしてしまう様であるならば、やがていつかは、耐えきれずに心が壊れてしまうかも知れないだろう。

しかし、例え、今が辛くとも、現実をしっかりと受け留め、希望だけは、決して失わないという前向きな考えを持ち続ける事が出来るのであれば、困難にも耐え、やがては、明るい未来が開けてくるのかも知れない。


ただし、いつ訪れるのかは解らない救助のチャンスを待ち続けてゆく為には、精神面の問題だけで無く、長期戦に耐える事の出来る生活基盤の確保がどうしても必要だ。

それには、まず、この地で、みんなが生活し易くなる事を第一に考え、今、自分が出来る事を想像し実行してみる。

更には、お互いが支え合い、協力しながら、不具合を無くす様に努力する事で、生活は安定し、結果的に周りだけでなく、自分自身も救われる事となる。

今、5人それぞれには、そういった、お互いを支え、助け合っていきたいという想いが次第に強くなってきており、いつかは救われるという希望を信じて、5人は皆、動き始めていたのだった。



では、生活基盤確保の為に、5人がやれる事とは、一体何があるのだろうか?

実は、この地で暮らしてゆく上で、やらなくてはならない事は、意外とあるのだ。

まず、すぐに思い浮かぶ事といえば、食料の確保だ。

今の所、当面の食事を賄えるだけの缶詰や加工食品が、充分に備蓄されているとはいえ、それでも限りはある。

下手をすれば、いつ、やって来るかも解らない救助を待ち続けている内に時ばかりが過ぎ、やがては食料を全て食べ尽くしてしまう事も考えられる。

いずれ、食料を失ってしまう事を考えると、今の内から、ある程度の食料自給も、必要となってくるだろう。

幸い、この地には、既に耕作済の畑と作付けされた作物があり、まずは、これらの野菜を自給用食料として利用しない手はない。

今、この時期で収穫可能な作物については、トマトやキュウリ、ナスといった夏野菜があり、既に、たわわに実った恵みは、収穫され、早速、食卓にも上り始めていた。

ただし、こういった人の手によって品種改良された野菜というものは、植えっ放しで放置したままという訳には、いかない為、栽培には、それなりに手が掛かる事も考えておく必要がある。

ここで、栽培管理について、ざっと挙げてみても、水やり、追肥、摘芯、害虫駆除、除草などがあり、放任主義では全く上手くいかない点は、自然発生し、勝手に伸びる草とは全く違うといって良いだろう。

その為、作物の面倒をみる必要性から、畑には、雨の日以外には、必ずと言っていい程、5人の内の誰かの姿があった。

今は、まだ初夏の季節であり、作物も一定の収穫を見込めるが、やがて秋が訪れ、夏野菜が終わりともなれば、今度は、秋や冬に向けての野菜作りが必要となってくる。

現在、畑には、まだ何も植えられていない箇所とストックされた各種野菜の種がある為、これから先の作付については、充分に可能であろう。

また、これから栽培する野菜については、短期間であれば、秋植え用のジャガイモ、小カブ、ソバ、葉物野菜があり、冬期向けなら、大根や白菜などの冬物野菜が期待できる。

ただし、せっかく耕作済の畑と種子が揃っていても、経験者がいない事には、栽培そのものが、立ち行かなくなってゆく訳だが、今、ここにいる5人の内、唯一の農業経験者である大島がいた事は、和馬達4人にとっては、大きな救いであった。

大島は、農業未経験の4人に対し、農業の知識を一から教えてゆくかたわら、今の生活が長期になる事を想定し、農業に関する、ある試みについても実践しようと考えていた。

その試みとは、農業を継続して行く上で、必要不可欠である、種子の管理方法についての見直しであった。

実は、野菜の種子は、種類によって、保存出来る期間が異なり、2〜3年といった長期保存が可能な種類もあれば、急速に発芽率が落ちる関係から、1年程度しか保存がきかない種類の野菜もあるのだ。

当然、1年しか保存が出来ない野菜の種子は、例え、使い切れずに余ったとしても、翌年には、大半が発芽しない事により、全く使い物にはならず、新たな種子を手に入れるしかなくなってしまう。

これが、何不自由も無い、街中であるならば、また種子を買えば良いだけの話であり、特に何の問題も無いのだが、この地では、そういう訳にはいかず、種子が無くなってしまえば、それで終わりなのだ。

なら、種子を絶やさない様にするには、一体どうすれば良いのか?

実は、種を絶やさない為の方法として、昔から行われてきた自家採種という方法がある。

これは、育てた作物の種子を実らせ、採種後、次回の種まきに再び利用するという、やり方だ。

ただし、この自家採種の場合は、現在の種子の主流であるF1品種とは違い、元々の親が持っている良い特性を必ずしも引き継ぐとは限らない為、味覚や成長などの特性が変わってしまう可能性が高くはなるが、それでも、その品種を絶やさずにはすむ。

実家で農業を営んでいる大島家でも、以前、実際に自家採種を行っていた事があり、大島も、この地で自家採種を実践してみようと考えたのであった。




さて、この地で手に入る食料には、栽培した野菜の他に、一体どの様な物があるのだろうか?

まず、ここでは、既にヤギやニワトリといった家畜が飼われているので、重要な蛋白源として、卵やミルク、場合によっては、貴重な肉を得る事ができる。

また、食料自給を考える上で、この地が、緑濃い島である事も大きな救いであった。

住居近くの森には、栗やマテバシイ、スダジイなどのブナ科の樹木が生えており、秋には、自然の恵みとして成った実の収穫が期待できた。

また、森の中を散策した和馬の話によれば、山桑やイヌビワ、山桃の木も自生している他、何種類かの山菜も見つけたらしく、食材として、おおいに期待出来そうである。

この島で、得られる食料については、山だけに限らず、海岸付近でも期待ができ、周囲が食材の宝庫である海に囲まれているという事は、食材探しに関していえば大きなメリットでもあった。

また、島の周囲は、岩礁地帯や砂浜があったりと、環境の変化に富み、そこに棲息している魚介類の捕獲については、かなり期待出来そうであった。

これから、重要な動物性蛋白質の供給源として期待されるであろう魚類の捕獲については、男3人による釣りの腕前が色々と試される事だろう。




ここでは、食料自給の他に、どうしても、やらなくてはならない、もう1つの重要な事柄がある。

それは、日常生活には、絶対に欠かす事の出来ない水の供給や電力供給を行っている設備類の管理だ。

離島であり、外部からの電力供給が全く望めないこの地は、必要な電力を確保する為に多数のソーラーパネルを設置してある訳だが、塩害に対する対策としての毎日のパネル清掃だけは、どうしても欠かせない。

これは、この時期の午後になると決まって吹いて来る、塩分と湿気を帯びた海風が、ソーラーパネルに当たる事により、塩分が白くパネル上を覆ってしまい、その結果、太陽光が遮断され、発電効率を下げてしまうのだ。

この発電力低下を防ぐ為には、ソーラーパネル上を覆う塩分の結晶を取り除いておく事が必要であり、どうしても毎日の清掃作業が欠かせなくなってくるという訳だ。




この他にも、手の掛かる設備として、大型ガソリン発電機や井戸などがあり、それらについても管理が必要だ。

発電機に関しては、ソーラーパネルが発電を行わない夜間に電気を使用した場合、蓄電設備に蓄えておいた電力の蓄電圧が下がる事により、自動的に大型発電機が作動するシステムになっているのだが、当然、ガソリンを燃料として消費して行く為、燃料タンク内の残量チェックと燃料補給は、絶対に必要となってくる。

では、井戸については、どうか?

地面から地下水脈へと向けてパイプを通し、揚水ポンプを使用して地下水を汲み上げている深井戸の場合は、便利な水道と違って、水が欲しい時に蛇口をひねって水を出し、後は全くのメンテナンスフリーという訳にはいかない。

もちろん、送水ライン的には、汲み上げた地下水を一時的に貯めておく、クッションタンクから送水ポンプを使ってログハウスへと圧送している為、蛇口さえひねれば、確かに水は出るのだが、クッションタンク内の水は使えば減る一方であり、誰かが深井戸の揚水ポンプを作動させて、クッションタンクへと地下水を汲み上げておかない事には、やがてタンク内は空になってしまうのだ。

その為、生活用水の確保の為には、井戸設備の管理と毎日の地下水の汲み上げは、欠かせない物となってくる。




今回、これらの発電設備と給水設備の管理については、以前の工場勤務の関係から機械整備の経験がある和馬と自動車整備士の資格を持つ雄太が、管理担当を引き受ける事となった。

他に、家畜として飼われている動物達の世話については、礼菜と麻美が担当し、畑や作物の管理も大島と共に兼任した。

こうして、この島で暮らす様になってから、5人は、最低1日1回は、生活維持に必要な、何らかの作業を受け持つ様になり、外で作業をする機会が多い為か、全員が日に焼け、更には体力もつき始めていた。

確か5人は、感染の疑いをかけられた事により、この島へと連れて来られた筈なのだが、明らかに、ここに来る以前よりも、更に健康的な体になっていったのだから、全くおかしな話である。

こうして、島での生活については、一定のルールを守る事で、特に不自由も無い状態で維持する事ができたものの、期待していた外部からの来訪者が訪れる事は無く、そのまま日は経ち、島で生活する様になってから、2ヶ月が過ぎ様としていた……。


最後まで、読んでいただきましてありがとうございます。

明日も、投稿しますので、お楽しみに!

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