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昔遊び系非魔法少女メズミアちゃん  作者: 明石竜


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最終話 メズミアパパから予期せぬ報告 そして決戦へ(前編)

土曜の朝、九時頃。

三姉妹、メズミア、伸歩、俊治の計六人で近くの大型ショッピングモールを訪れた。

「ワオッ! 日本のショッピングモールは大規模ですねー」

 メズミアは興奮気味だ。

「このショッピングモールは十年くらい前に出来たんだ。私が幼稚園の頃からしょっちゅう行ってるよ」

「普通のお店以外に、シネコンやボウリング場、カラオケボックス、歯科医院、学習塾、スポーツクラブなども入っていますよ」

 伸歩がこう伝えると、

「施設が充実し過ぎねっ!」

 メズミアはますます興奮した。

「早く映画見に行こう!」

 美羽はそう叫んでせかし、一人で先へ進もうとする。

「美羽、そんなに急がなくても朝一の回間に合うっしょ」

「シネコン、アタシ初体験よ。チタニーク星にはシネコンどころか、映画館すらないし」

 みんなでモール併設のシネコンへ向かっていく途中、

「きゃっ!」

 俊治のすぐ前を歩いていた花菜乃は軽く悲鳴を上げ、慌ててスカートを押さえた。

今しがた花菜乃のプリーツスカートが思いっきり捲られ、ショーツが露になったのだ。ちなみに地味な白だった。

「俊治くん、見た?」

「絶対もろに見たでしょ? 俊治さん、正直に答えなさい」

 花菜乃と伸歩が上目遣いで問い詰めてくる。

「うん、でも、わざとじゃないって」

 俊治は焦り気味に弁明する。

「分かってるよ。私、見られたこと全然気にしてないからね」

 花菜乃はにっこり微笑んだ。

 その傍らで、

「こら美羽、スカート捲りはやっちゃダメって学校でも先生に再三言われてるでしょ」

「いたたたぁっ。痛いよ日香里お姉ちゃん。ごめんなさぁい」

 日香里が美羽の両こめかみを拳でぐりぐりしている姿があった。

「まあまあ日香里、美羽は反省してるから許してあげて」

「カナノさん心優しい、チタニーク星人の気質を持っていますね」

 花菜乃の寛容さに、メズミアが深く感心していたその時、彼女の携帯の着信音が鳴った。

「パパからだ」

 メズミアは嬉しそうに通話ボタンを押す。

 すると、

『メズミア、緊急事態だ。TMS団全員が、もうまもなく地球に到着するみたいなんだ。ぼくの所にさっきメッセージが届いた』

 いきなりやや早口調でこんなことを伝えられた。

「えっ! マジで。明日到着する予定だったのに」

『後ろから直径五メートルくらいの隕石に衝突されたおかげで、宇宙船のスピードが上がったそうだ。日本で一番多くの地球人が住んでいる東京周辺をめちゃくちゃにしてやるから覚悟しとけと言っていたぞ』

「やっぱり東京周辺を狙うつもりなのね。やばいなぁ。今夜、より実践的な訓練をして決戦に備えるつもりだったのに」

『メズミア、頼もしい地球人の仲間達を揃えたんだろう? メズミア達だけできっと勝てるはずだ。頑張れ』

「ちょっとパパ、そんな暢気なこと言ってないで」

 メズミアは困った様子で伝えるも、電話を切られてしまった。

 メズミアも電話を切った後、この旨をみんなに伝える。

「もう来るのか。というか、隕石にぶつかっても壊れないってのが凄い」

「本当に高度な科学技術ね」

「私、怖いよぅ」

「花菜乃お姉ちゃん、銭湯に出たあのお姉ちゃんみたいなお兄ちゃんみたいな子どもばっかりみたいだから平気だよ」

「でも、集団だから手ごわいかも」

 花菜乃の不安は消えず。

「花菜乃さん、みんな付いてるから怖がらないで。わたしはいつかかって来られても大丈夫なよう、昨日から心構えていますよ」

「ワタシもーっ。武器は鞄に入ってるし。一回やってみたかったんだよね、こういうの」

「あたしも準備万端だよ。TMS団、早く現れないかなぁ」

 伸歩と日香里と美羽は早く戦いたがっているようだ。

「あいつらが来るまでまだもうしばらくは大丈夫そうだから、とりあえず映画見ましょう」

「メズミアちゃん、本当に大丈夫かな? そんな余裕の構えで」

「……たぶん大丈夫ですよカナノさん」

 メズミアは一瞬間を置いたが笑顔で自信たっぷりに答えた。

「花菜乃お姉ちゃん、映画を見て楽しい気分になれば、きっとTMS団と戦う勇気がわいてくるよ」

ともあれみんなは予定通り、シネコンへ。

辿り着くと、

「カフェまでついて、立派な映画館ね。チタニーク星にも出来たらいいな」

 メズミアは設備の豪華さに感激する。

「あたし、これが見たかったのーっ!」

美羽は壁にいくつか提示されてあるポスターのうち、対象のものに近寄る。

「えっ! あれが見たいの?」

 俊治は少し動揺した。

「俊治くん、かわいい女の子が大活躍するアニメ好きでしょう?」

 花菜乃は爽やかな表情で問いかけてくる。

「いや、俺は、べつに。政人と久光が好きなだけで……」

 俊治は俯き加減で主張した。

「私も大好きなの。美羽が見たがってることだし、かわいい動物さんもいっぱい出るみたいだし、せっかくだから見よう。九時半から始まるみたいだね。もうすぐだね」

 それは本日公開されたばかりの女児向け魔法もありのファンタジーギャグアニメだった。

「これ、CMで予告流してましたね。わたしもちょっと気になってたの」

「好きな声優さんも出てるし、けっこう面白そうじゃん。動物キャラがメインだから、大友ウケは悪いかな?」

「日本の子ども向け最新アニメ映画が見れるなんてラッキー♪」

「俺はこの辺で待っとくよ。チケット代の節約にもなるし、そもそも高校生の見るものじゃないし」

 俊治は当然、見る気にはなれず。

「俊治お兄ちゃんもいっしょにこの映画見ようよぅ。さっき俊治お兄ちゃんの三倍くらいは年上に見えるおじちゃんが一人で入って行ったよ」

「仕方ない」

 美羽に背中をぐいぐい押されチケット売り場の方へ連れて行かれる。

「美羽、これはどう?」

 日香里は他に上映されているホラー映画のポスターを指す。

「それは絶対嫌ぁー」

 美羽は顔をしかめ、すぐにポスターから顔を背けた。

「わたしもそれは見たくないです」

「アタシも、ホラー系は苦手だ」

「俺も、進んで見ようとは思わないな」

「私もこういう実写のホラー映画は苦手だよ」

「ワタシはけっこう好きだけどなぁ」

「日香里は感性がおかしいよ。小中学生三枚、高校生三枚」

 花菜乃が代表して、お目当ての映画六人分のチケットを購入。受付の人がその入場券と共に入場者全員についてくるオマケのおもちゃセットをプレゼントしてくれた。

チケット売り場向かいの売店でドリンクやポップコーンなどが売られていたが、みんな何も買わず、お目当ての映画が上映される5番スクリーンへ。

薄暗い中を前へ前へと進んでいく。

「花菜乃ちゃん、周り幼い女の子ばっかりだから、やっぱり、俺達は入らない方が……」

「まあまあ俊治くん。気にしなくてもいいじゃない。たまには童心に帰ろう」

 俊治は否応無く、花菜乃に背中をぐいぐい押されていく。

「俊治さん、気にせずに」

 伸歩はその様子をすぐ後ろから微笑ましく眺める。

 真ん中より少し前の列の席で、俊治は美羽と花菜乃に挟まれるように座った。座席指定なのでそうなってしまった。

 花菜乃の隣が日香里、美羽の隣がメズミア、その隣が伸歩だ。

(視線を感じる)

 俊治は落ち着かない様子だった。

 他に五〇名ほどいた客の、七割くらいは小学校に入る前であろう女の子とその保護者であったからだ。

 上映開始から四〇分ほど経った頃、

「カタツムリくん、頑張れ、頑張れ!」

 美羽はスクリーンに映し出された動物さんレースの様子を他の幼い子ども達と同じように凝視しながら必死に応援する。

 次の瞬間、

「うわぁぁぁっ! ぎゃあああっ!」

 美羽はびっくり仰天し、座席から転げ落ちそうになった。

「きゃぁぁぁっ!」

「あの、花菜乃ちゃん……」

「あっ、ごめんね俊治くん」

 花菜乃もかなりびっくりし、思わず俊治に抱きついた。

 スクリーンに突然、多数の血まみれゾンビの姿が断末魔の叫び声とともに映し出されたのだ。

 すぐに元の映画の映像に戻ったが、

「ぎゃぁっ!」「うわぁぁぁーん!」「マッ、ママァァァァァ~」「ぼくもう帰るぅぅぅ」

 泣き出す子どもが大勢出る。

「アハハハッ、何今の?」

 大声で笑い出す勇敢な幼い子どもも中にはいたが。

「何かしら? さっきのシーン」「編集ミス?」「びっくりした」

 保護者の方も動揺していた。

「怖かったよううううう」

 美羽もやはり泣き出してしまう。

「わたしもびっくりしましたよ」

 伸歩の心拍数はけっこう上がっていた。

「俺もびびった。別の映画のワンシーンが写ったのか」

 俊治は苦笑いを浮かべる。

「レアな体験が出来てよかった」

 日香里はくすくす笑っていた。

「アタシ気絶しそうになったよ。これは、TMS団のしわざに違いないわ。特殊なカメラを使ったイタズラよ。チタニーク星人にとっては、地球人がブルーレイデッキに入っていた子ども向けのアニメをこっそりエッチな映画のに取り換えることくらいた易いことよ。犯人はおそらくこの劇場内にいるはず」

 メズミアは不機嫌そうに推測する。

「そうなのか。こんな悪質なイタズラしたやつ、どこにいるんだ?」

 俊治は周囲をきょろきょろ見渡す。

「美羽や他のいたいけな子ども達をあんなトラウマになるくらい恐ろしい目に遭わせて、私も許せないよ。見つけたらしっかり注意しとかなきゃ」

 花菜乃はぷっくりふくれていた。

「ちょっと探して来ますね」

 メズミアが席を立つと、

「私も探しに行くよ」

「俺も」

 花菜乃と俊治も席を立ち、5番館内を静かに歩き回る。

一番後ろの方まで進むと、

「へへへ、ホラー映画の映像写してやったぜ」

「地球の映画館のスクリーンを占領することなんて楽勝だよな」

 こんな声が聞こえて来た。

 メズミアの推測通り、TMS団のうちの二人のしわざだったようだ。

 そいつらは一番後ろの客席にいた。

 デジカメのような物体を手に持っていた。これで操作したらしい。

 二人とも八歳くらいの少年だった。

「ちょっとおまえらいいかな?」

 俊治はそーっと近寄り、デジカメのような物体を背後からさっと奪い取った。

「やっべ。見つかった」

「逃げろ」

「逃げちゃダメだよー」

 花菜乃はにこやかな表情で、席を立ち逃げようとした二人の後ろ首襟をガシッと捕まえる。

 そのままズズズッと引っ張って5番館外の通路へ連れ出した。メズミアと俊治もいっしょに館外へ出る。

「ダメでしょ、こんなイタズラしちゃ」

「やりたい気持ちはよく分かるが、公共の映画館でやっちゃダメだな」

 花菜乃はやや厳しく、俊治は優しく注意。

「ごめんなさーい」

「アイムソーリー、アベソーリー」

 少年二人は謝るも、

「この子達、確保っ!」

 メズミアは容赦なくこの悪ガキ二人の後頭部をあのピコピコハンマーで叩いて五センチくらいのミニサイズにし、指でつまんだ。

「元に戻してー」

「ぼく、反省してるから」

「ダーメ! 戻しません!」

 これにて二人の退治に成功。

「メズミアちゃん、ここまでするのはかわいそうな気が」

 花菜乃がそう言うも、

「ちゃんといい子にしてたら後で元に戻すから」

 メズミアの意思は変わらず。

「技術は高度だけど、子どもみたいな犯人なら捕まえるの簡単だな」

 俊治はにっこり微笑む。

「すっごいかわいい! この男の子達はこのあとどうするの?」

 日香里も劇場の外へ出て来た。

「この懺悔ハウスに強制収監よ」

 メズミアはそう伝えて、リュックから三〇センチ立方くらいの大きさの、ミニチュアの大阪城のような形のものを取り出した。

「形は違うけど、リ○ちゃんハウスやシ○バニアファミリーハウスみたいだね」

「懐かしい。花菜乃お姉さんや俊治お兄さんと昔いっぱい遊んだね」

「俺は無理やり付き合わされた感じだけどな」

 俊治は苦笑する。嫌な思い出だったようだ。

「まさにそれらをモデルに開発されたものだそうですよ。きみたちは中でしっかり反省しなさい!」

「うわぁっ、やめてー」「あーん、ぼくもうとっくに反省してるのにぃ」

煙突も付いており、メズミアはその穴にミニサイズにした少年二人を容赦なく放り込んだ。

「豪華なおウチだけど、閉じ込めちゃったらかわいそうだよ」

 花菜乃はさらに哀れむ。

「中は外から見た以上にとっても広くて快適だから。トイレも設備されてるし。中からは絶対に外へ出られないようになってるけどね」

 メズミアは爽やかな笑顔でこう伝え、懺悔ハウスと名付けられたミニチュアハウスをリュックにしまう。

「持ち運んでも、中のやつら大丈夫なのか? けっこう揺れるだろ」

 俊治も少し心配してあげた。

「その点も問題ありません。外から強い衝撃を受けても中には全く影響ないように出来てるので。上下逆さまにしても中の人は全く気付きませんよ」

 メズミアは自慢げに説明する。

「これもまたすごい技術だな」

「私、欲しくなって来ちゃった」

「ワタシも、ちょっと」

四人は席へ戻って再び映画鑑賞を楽しむ。

 その後は何事もなく上映終了。

「あのホラー映像のせいで、あれ以降のお話楽しく見れなくなっちゃったよ。またあんなシーンが出て来たらどうしようって思って」

 美羽はすむーっとしながら感想を述べた。 

「あれは台無しでしたね」

 伸歩は深く同情出来たようだ。

「とりあえずTMS団退治したしさぁ、これからゲーセンで遊ぼうよ」

「いいですねえヒカリちゃん。アタシ、日本のゲーセンは今まで一度も行ったことないので楽しみ♪ でもその前にまだ早いけどお昼ご飯食べましょう。腹が減っては戦ができぬということわざが日本にはあることだし」

みんなはシネコンをあとにし、モール内レストラン街のファミレスへ。

六人掛けテーブル席に俊治と花菜乃、美羽と日香里、伸歩とメズミアが向かい合う形で座ると、伸歩がメニュー表を手に取りテーブル上に広げた。

「わたし、天麩羅蕎麦にしよう」

「俺は坦々麺で」

「俊治お兄ちゃんが頼もうとしてるやつ、真っ赤っ赤でものすごーく辛そう。俊治お兄ちゃん、お口から火が出ちゃうよ」

「俊治くんは相変わらず辛い物好きだね。私はビーフシチューとパンのセットにするよ」

「あたしはお子様ランチにする♪ お飲み物はミックスジュース」

「美羽、四年生でしょ。そろそろお子様ランチは卒業しなきゃ。ワタシは小二の時には卒業したよ」

 日香里はくすっと笑う。

「べつにいいじゃん。大好きだもん」

 美羽は恥ずかしがるしぐさもなく主張した。

「お子様ランチはチタニーク星では四〇年ほど前に日本から伝わったみたい。アタシのママも子どもの頃食べたって言ってたよ。日本のお子様ランチと少し違って、デザートにソーダとチョコレートと生クリームを使って地球っぽく見立てたアイスクリームもついてるよ。プリンも雪を被った富士山っぽくデコレートされてるな」

「へぇ、あたしチタニーク星のお子様ランチも一度食べてみたいな」

「私も。すごく美味しそう」

「日本でも材料揃えれば簡単に作れるよ。アタシは、日本に来たことだし、握り寿司定食にするよ。あの、高いからダメかな?」

 メズミアは花菜乃の目をちらっと見た。

「全然気にしなくていいよメズミアちゃん」

 花菜乃は快く認める。

「ワタシはきのこのリゾットにしようっと。これでみんな決まったね」

 日香里がコードレスボタンを押してウェイトレスを呼び、注文を済ませる。

それから五分ほどして、

「お待たせしました。お子様ランチでございます。それとお飲み物のミックスジュースでございます。はいお嬢ちゃん。ごゆっくりどうぞ」

 美羽の分が最初にご到着。新幹線の形をしたお皿に、旗の立ったチャーハン、プリン、タルタルソースのたっぷりかかったエビフライなど定番のものがたくさん盛られていた。さらにはおまけのシャボン玉セットも付いて来た。

「とっても美味しそう♪」

 美羽は嬉しそうにお子様ランチを見つめる。

 それからすぐに、他のみんなの分も続々到着。

 こうしてランチタイムが始まった。

「あたし、エビフライは大好物なんだ」

 美羽はしっぽの部分を手でつかんで持ち、大きく口を開けて豪快にパクリと齧りつく。

「美味しいっ♪」

 その瞬間、とっても幸せそうな表情へと変わった。

「モグモグ食べてる美羽さんって、なんかクルミを齧ってるリスさんみたいですごくかわいいです」

「美羽、ほっぺがマンガみたいにぷっくりふくれてるわね」

「ミウちゃん、かっわいい」

伸歩と日香里とメズミアはその様子を見てにっこり微笑む。

「美羽、食べさせてあげるよ。はい、あーん」

 花菜乃はお子様ランチにもう一匹あったエビフライをフォークでぷすっと突き刺し、美羽の口元へ近づけた。

「ありがとう花菜乃お姉ちゃん。でも、食べさせてもらうのはちょっと恥ずかしいな」

 美羽はそう言いつつも、結局食べさせてもらった。

「俊治くん、私の少し分けてあげるよ。はい、あーん」

 花菜乃はビーフシチューの中にあった牛肉の一片をフォークで突き刺し、隣に座る俊治の口元へ近づける。

「いや、いいよ」

 俊治は困惑顔を浮かべ、左手を振りかざして拒否。右手で箸を持ち、麺を啜ったまま。

「あーん、またダメかぁ」

 花菜乃は嘆く。でも微笑み顔で嬉しそうだった。

「俊治さん、お顔は赤くなっていませんが、きっと照れていますね」

「俊治お兄さん、一回くらいやってあげなよ」

 伸歩と日香里はにこにこ笑いながらそんな彼を見つめた。

「出来るわけないだろ」

 俊治は苦笑いしながら伝え、引き続き麺をすする。

「赤ちゃんみたいで、恥ずかしいもんね」

 美羽は俊治の気持ちがよく分かったようだ。

「メズミアちゃん、警戒し過ぎ」

 日香里は、周囲を気にしながら握り寿司を頬張るメズミアを見てくすくす笑う。

「だっていつTMS団に襲われるか分からないし」

 結局、メズミアの心配はここでは杞憂に終わった。

みんなはこのあと、モール内のファミリー向けアミューズメント施設へ立ち寄る。

「やはりチタニーク星のゲーセンよりも豪華で賑やかね。プリクラも相当種類があるし」

 メズミアはかなり気に入ったようだ。

「メズミアちゃん、みんなで記念に撮ろうよ」

「いいですねえヒカリちゃん」

「わたし、プリクラ撮るの久し振りだな」

「私も」

「あたしはつい先週お友達と撮ったよ」

 女の子五人は最寄りのプリクラ専用機の前へ近寄っていく。

「俊治くん、いっしょに写らないの?」

「花菜乃ちゃん、状況的に考えて俺は写らない方がいいだろ。俺も写りたくないし」

「俊治お兄さん、女の子五人の中に男の子一人だからって恥ずかしがらなくてもいいじゃん。ハーレム王になれるこのチャンスを思う存分楽しまなきゃ」

「俊治くんもいっしょに写ろう。高校時代の思い出になるよ」 

「俊治さん、お願いします。俊治さんが仲間はずれになっちゃいますし」

「トシハルさんもせっかくなので写って下さい」

「いや、いいって」

 俊治は気が進まなかったが、

「俊治お兄ちゃんもいっしょに写ろうよぅ」

「分かった、分かった」

美羽に腕や服を引っ張られたりしがみ付かれたりすると断り切れなかった。

みんなはプリクラ専用機内に足を踏み入れると、前側に日香里と美羽とメズミア、後ろ側に俊治達三人が並んだ。

「あたしこれがいい!」

美羽の選んだイルカさんのフレームに他のみんなも快く賛成。

「一回五百円か。けっこう高いな」

俊治はこう感じながらも気前よくお金を出してあげた。

 撮影&落書き完了後、

「おう、めっちゃきれいに撮れてるじゃん」

 取出口から出て来たプリクラを真っ先にじっと眺める日香里。自分が見たあと他のみんなにも見せてあげた。

「お友達に自慢しよっと」

 美羽も大満足な様子だ。

「日香里ちゃん、俊治お兄さんとデート、ハートマークとかって落書きしないで」

 俊治は迷惑顔を浮かべる。

「いいじゃん俊治お兄さん、ほとんど事実なんだし」

 日香里はてへっと笑い、舌をペロッと出した。

「伸歩ちゃんは、相変わらず表情がちょっと硬いね」

「本当だ。伸歩お姉さん弁護士みたい」

「伸歩お姉ちゃん、がり勉少女っぽいね」

「あれれ? 笑ったつもりだったんだけどな。生徒証の写真はもっと表情硬いよ」

 伸歩は照れくさそうに打ち明ける。

「アタシも生徒証の写真は表情めっちゃ硬いよ。睨んでるような感じだな」

 メズミアがさらりと打ち明けると、

「メズミアさんも同じなのですね、よかった」

 伸歩に笑みが浮かんだ。

「伸歩ちゃん、今の表情いいね」

 花菜乃はサッと携帯電話をかざし、カメラ機能で伸歩のお顔をパシャリと撮影する。

「伸歩ちゃん、いい笑顔が取れたよ」

「花菜乃さん、恥ずかしいからすぐに消してね」

 伸歩の表情はますます綻んだ。

「花菜乃お姉さん、見せて見せて。伸歩お姉さん、本当にいい笑顔してるじゃん」

「あたしにも見せてーっ。伸歩お姉ちゃん本当にかわいい」

「ノブホさんのこの笑顔素敵♪ 消すのは勿体無いよ」

 日香里と美羽とメズミアは興味深そうにその写真を眺める。

「あーん、これ以上見ないでー」

 伸歩は表情を綻ばせたまま、頬を赤らめた。

(どんな表情してるんだろ?)

 俊治は気にはなったが、罪悪感に駆られ見ようとはしなかった。

「アタシ、あのワニを倒すゲームで遊びたーい。チタニーク星のゲーセンでも大人気ですよ」

 メズミアはその筐体が目につくと、さっそく側へ歩み寄る。

「俺はこのゲーム苦手だな。反射神経いるし」

「パーフェクト目指して頑張れメズミアちゃん」

 花菜乃が快くプレイ料金を出してあげた。

「よぉし、地球バージョンのでもパーフェクト目指すよ」

 メズミアは興奮気味にプレイ開始。

 全部で五匹いるうち、最初はちょうど真ん中のワニがゆっくり飛び出て来た。

「とりゃぁっ!」

メズミアが専用ハンマーを勢いよく振り下ろし叩くと、

 いでっ! とワニは悲鳴を上げた。

「やっぱ簡単ね」

 しかしその後、二匹同時に出て来るようになると、

「あっ、一匹ミスっちゃった。地球バージョンは難しいな」

 メズミア苦戦。

「あたしこれ得意だよ。パーフェクト出したこともあるよ」

「やるねえミウちゃん、手伝って」

「うん!」

 美羽も参戦。

 その結果、

いで、いでぇ、いでぇっ!

三匹同時に出て来ても、俊敏な動作で全部叩くことに成功した。

ワニの飛び出し引っ込むスピードはますます速くなっていく。

倒した数が四十匹を越えると、

もう! 怒ったぞぅ!

こんな機械音声が。

「ここから難易度さらに上がるけど、全部倒すよ。メズミアお姉ちゃんは一番端お願い」

「了解♪」

 美羽とメズミアは専用ハンマーを振り上げ待機。

 さっそく五匹同時にすばやく飛び出て来た。

 次の瞬間、

「うっわぁ!」

「きゃぁっ!」

 美羽とメズミアは専用ハンマーを投げ捨て、慌てて筐体から離れた。

 飛び出て来たワニが筐体から離れたのだ。

 怒ったワニ、

許さないワニ、

痛かったワニ、

思いっ切り叩きやがってワニ、

おまえらも噛んでやるワニ! 

 俊治達の周りを這ったり飛び跳ねたりして暴れ回る。

「最近のはこうなってるの?」

「ブチッて切れた?」

 伸歩と日香里も驚く。

「いや、さすがにこんなことは起きないだろ」

「このゲームのワニさん、今まで数え切れないくらい叩かれてるだろうから、ワニさんの怒りが頂点に達したのかな? きゃぁっ!」

「あっ、危ないっ、花菜乃ちゃん」

 俊治は花菜乃の膝に噛みつこうとしたワニをとっさに蹴る。

 蹴られたワニは床に落ち、ごろーんと転がった。

「ありがとう、俊治くん」

「いや、どういたしまして。いってぇ。さすが強化プラスチックで出来てるだけはあるな」

 俊治のつま先はジンジン痛んでいた。

 ますます怒ったワニィィィ~!

 蹴られたワニは涙目で、俊治に反撃しようとしてくる。

「うわっ、なんか他の四匹も俺んとこに来たぞ」

「トシハルさん、アタシに任せて。これは間違いなくTMS団のしわざね」

 メズミアはけん玉で応戦しようとした。

 その時、

「その通りだ。これぞゲームセンター荒らしだぜ」

 どこからともなく小学五、六年生くらいの銀髪の少年が現れた。

 五匹のワニはピタッと動きを止めたのち、そいつのもとへ這って近寄り、急に大人しくなる。

「元に戻っていいよ」

 少年がそう言うと、五匹のワニはあの筐体に引っ込んでいった。

 手懐けているかのようだった。

「おまえのしわざか。またガキじゃないか」

 俊治は迷惑顔だ。

「微妙にジャニ顔でワタシの好みじゃないけど、新作マンガのキャラに使えそう」

 日香里はさりげなく呟く。

「銀髪のお兄ちゃん、ダメだよ、こんなことしちゃ。危ないでしょっ!」

 美羽、怒り心頭に発す。

「わざとやったのね」

 メズミアも怒っていた。

「まあね。なんか、これだけいたらおれ、ケンカしても勝てそうにないや。ごめんね」

 少年は逃げようとした。

「おい待て」

 俊治はその少年の腕をさっと掴む。

 次の瞬間、

「うわっ、なんだこれ?」

 俊治は両サイドから白い雲状のものをぶっかけられた。とっさに両手で目を覆う。

「きゃっ!」

 花菜乃、

「何これ? 生クリームじゃないよね? バラエティ番組で罰ゲームされる時ブシャーッて吹き出る真っ白なドライアイスの霧とも違うっぽいし」

 日香里、

「体中べたべただぁー」

 美羽、

「これはひょっとして、綿飴かしら?」

 伸歩、

「絶対そうね。この味は」

 メズミアも巻き添えを食らった。

「どうだ。まいったか地球人。これはぼくちん作の綿飴銃だよーん。この間の理科の授業で先生は竹鉄砲作れって言ってたのを無視して作ったんだ」

「綿飴って、雲みたいにふわふわした手触りかと思って触ったらべたべたする砂糖の塊なんだよな」

 手にライフルスコープのようなものを持った九歳くらいの少年二人組が、俊治達の近くにいた。

 一人はメガネをかけ紫髪坊っちゃん刈り、もう一人はぼさっとしたピンク髪だった。

「おまえら、サンキュー。おれもちょっと被害受けたが」

 少年は俊治の捕縛から逃れ、綿飴銃で攻撃して来た少年二人の側へ。

「あの、雲の正体は水蒸気なのでふわふわした手触りじゃないですよ」

 伸歩は服にまとわりついた綿飴を手で取り除きながら一応伝えておく。

「あんた達、これくらいでアタシ達が怯むと思った?」

「べたべたはするが、ダメージはないな」

 メズミアと俊治、怒りの表情。

「にっ、逃げろ」 

「おう!」

「了解だよん」

 タタタッと走り去る少年三人、

「美羽、あれやるよ」

「うん!」

 日香里と美羽はリュックからすばやくお手玉を取り出すと、休まず少年三人に向かって断続的に十数個投げ付けた。

「あいてっ!」「痛いよーん」「ぎゃふっ!」

 そのほとんどが少年三人の背中や後頭部やお尻、膝裏に命中。

「美羽、日香里。お手玉を節分の豆みたいに使うのはよくないよ」

 日香里は困惑顔で注意する。

「花菜乃ちゃん、緊急事態だから大目に見てやって」

 俊治は優しく説得。

「中の小豆はあとでわたし達が美味しくいただいた方がいいですね」

 伸歩は苦笑いでこう意見した。

「悪い子はお仕置きよっ!」

「やっ、やめろっておれ反省してるのに」

「ぼくちんももう二度とやらないよん」

「おいらもさ」

「どうせ口だけでしょ。そりゃっ!」

 メズミアは少年三人に向かってあやとりの紐を投げまとめて拘束したのち、容赦なくピコピコハンマーで少年三人の後頭部を叩いて五センチくらいのミニサイズに。

「中でしっかり反省しなさい!」

「ぎゃぁっ」「ちょっと待ってー」

 一人ずつつまみ上げ、懺悔ハウスに放り込む。

「降参です。しかしぼくちんたちを倒したところで、今、ぼくちんの仲間たちは秋葉原を荒らしまくってるよーん」

 最後につまみ上げられた眼鏡の少年がそう伝えると、

「ワタシ達のアキバを荒らしてるだって! みんな、今すぐアキバへ行こう!」

 日香里は怒りを露にし、こう強く懇願する。

「そうね。情報ありがとう、ぼく」

「あのう、感謝状としてぼくちんだけは閉じ込めないで欲しいのですが……」

「ダーメ」

「やっぱりー。うぎゃぁっ」

メズミアはにこっと笑って眼鏡の少年を容赦なく放り込むと、

「みんな、これに乗って。電車より速いよ」

 休まずリュックに片付けてコンパクトになった畳を取り出す。

屋外に出てから、二メートル四方くらいの大きさにふくらませた。

 みんなそれに乗り込むと、すぐに出発。

「俊治くん、アラジンになった気分で楽しいでしょ?」

「俺は、なんか今にも落ちそうで怖いけどな」

「大丈夫ですよトシハルさん、不安定なようでかなり安定していますから。例え天地ひっくりかえっても乗ってる人は落ちないようになってるんです」

「そうなのか。というか、誰かに見られたらやばくないか?」

「大丈夫です。アタシ達以外の人達からはカラスが何羽か飛んでいるようにしか見えないようになってるので」

「それもすごい科学技術だな」

 俊治は深く感心する。

「それにしても服やお顔がべたべただよ。綿飴は美味しいけど」

 花菜乃は自分にまとわりついた綿飴を美味しそうに頬張りつつ、不快な気分を伝える。

「それなら大丈夫です。チタニーク星製の掃除機で吸い取りますから」

 メズミアはリュックから取り出すとさっそくスイッチを入れた。

「きれいに取れたね。風が気持ちいいよ」

「べたべた感がなくなったな」

「わたしもすっきりしたわ」

「あたしもう少し食べたかったんだけど」

「ワタシもー。掃除機の中、綿飴の塊が出来てるんじゃないの?」

「出来てるけど、食べない方がいいと思うよ。他のゴミも交じって衛生上良くないので」

みんなの周りにつむじ風のようなものが生じ、見事自分も含めみんなにまとわりついた綿飴の除去に成功。

「残念。メズミアお姉ちゃんのリュックって、ド○えもんの四次元ポケットみたいに何でも入ってるね」

「このチタニーク星製のリュックは大きさ以上にたくさん入るようになってるの。取り出し易く重さも感じさせないような仕組みになってるよ」

 メズミアは自慢げに伝える。

 こうしているうちにあっという間に秋葉原上空へ到着。

JR秋葉原駅電気街口付近に着地した。

みんな降りた後、空飛ぶ畳はメズミアの手によってすぐさまコンパクトにされ再びリュックに。

「ここがリアル秋葉原かぁ。ものすごい人ぉ! みんなアニメが大好きなのかなぁ?」

 メズミアは興奮気味になる。

「ワタシ、部活動の一環でもよくアキバに来るよ。月に三、四回くらい」

「わたしもそれくらいの頻度ですよ」

「日香里お姉ちゃんと伸歩お姉ちゃんの大好きな街だもんね。花菜乃お姉ちゃんはあまり好きじゃないみたいだけど」

 楽しんでいる様子の日香里と美羽、

「だって人が多過ぎて落ち着かないもん」

「俺も、なんとなーく居辛い。早くこの街から出たい」

花菜乃と俊治も今までにアキバを何度か訪れたことはあるが、街の雰囲気に相変わらず慣れず。

「あっ、なんか凄い行列が出来てるぅ!」

 メズミアは大声で叫ぶ。駅すぐ近くにあるとあるお店の入口付近に、大勢の男性とごく少数の女性が群がっていたのだ。

「美味しいシュークリームでも売ってるのかなぁ?」

 花菜乃も興味深そうに行列をちらりと眺めてみる。

「それを望む人と明らかに客層が違うだろ。何かのアニメ関連のイベントがあるんだと思う」

 俊治は苦笑いで推測した。

「いつもの休日のアキバと変わりないみたいだけど、TMS団はどこにいるのかな?」

 日香里は一応、周囲を見渡してみた。

みんなは中央通り沿いに差し掛かると、北方向へ歩いていく。

「今のとこTMS団いないようだし、ワタシ、ちょっとここに用事あるから」

日香里の希望により、みんなはすぐ近くにあったアニメグッズ専門店に立ち寄ることに。

発売中または近日発売予定のアニメソングBGMなどが流れる、賑やかな店内。

「やっぱアタシの住んでる街のアニメグッズ専門店『アニメのオトモダチタニーク』よりグッズの種類が豊富だぁ」

 メズミアは大満足している様子だ。

「池袋本店はもっと規模でかいよ。ねえメズミアちゃん、チタニーク星でもアニメキャラの中の人、声優さんはやっぱ人気ある?」

 日香里はこんな質問をしてみる。

「はい、地球と同様熱心なファンもたくさんおられますよ。ただ、チタニーク星では当然のことながら、生の声優さんと触れ合える機会はありません。声優さんのイベントに参加出来るのは羨ましい限りです」

 メズミアがやや残念そうに呟くと、

「ワタシ、声優さんのイベントはそんなに魅力は感じないんよ。特に女性声優の場合、客はディープな男の人ばっかりで怖いから」

 日香里は苦笑いを浮かべながら伝えた。

「ああいうの、男の俺から見ても怖いよ。政人や久光がよく見てるアニメイベントのブルーレイで声優さんが挨拶する度にうをぉぉぉーっ、とかオットセイみたいに叫んで、声優さんが歌ってる時はうぉうぉ叫びながらペンライト振り回してすごい激しく踊ってる集団」

「私は恥ずかしがり屋さんだし怖がりだから、声優さんは絶対無理だなぁ」

 俊治と花菜乃も苦笑いを浮かべる。

「話を聞く限り、声優さんのイベントはけっこう過酷そうですね」

 メズミアは声優さんとイベントの参加者に尊敬の念を抱いたようだ。

「ワタシも声優を職業としてやるのは無理。でもアフレコ体験は楽しかったよ」

「わたしも同じく」

「あたしもすごく楽しかったーっ。日香里お姉ちゃん、今年の夏休みも連れてってね」

「うん、もちろん連れてってあげるよ。メズミアちゃんもぜひ」

「出来れば参加したいなぁ。チタニーク星ではそういう機会ないから」

「きっと楽しめると思うよ。それじゃワタシ、トーンと原稿用紙買ってくるね」

 日香里はそう伝えてお目当ての画材道具コーナーへ。

 他のみんなは食玩コーナーへ立ち寄る。

「ワン○ースの新しいお菓子が出てるね。買おう」

「わたし、このチョコレートを買うわ」

「あたしはこのガム買おうっと」

「アタシは、このお饅頭お土産に買うよ。アニメに関係ない普通の東京土産もいっぱい売られてるのね」

「俺は十個中八個が激辛のクッキー記念に買おうかな。でも買い辛いな、このパッケージじゃ」

 楽しそうに物色する五人、続いて文房具などのキャラクターグッズコーナーへ。

「下敷きとノートと、ボールペンも買おう」

「美羽、無駄遣いはし過ぎないようにね」

「はーい」

 美羽がお目当てのグッズを籠に詰めている時、

「お待たせー」

 日香里が戻って来た。籠にはB4サイズの漫画原稿用紙と数種類のスクリーントーンが。

「日香里お姉ちゃんは今回はグッズ買わないの?」

 美羽が尋ねると、

「うん。黒○スとか銀○とか暗○教室とかの新作グッズ欲しいのいっぱいあるけど、ここは我慢。今月の小遣い無くなっちゃう」

 日香里は商品棚から目を背けた。

「それじゃ、そろそろお金払ってここ出よっか?」

 花菜乃がそう言った直後、

「あっ! ちょっと待って」

俊治はコミックコーナーにいた誰かに気が付き、近寄っていく。

「やぁ、俊治君ではあ~りませんか。奇遇ですね」

 久光であった。

「政人は一緒じゃないみたいだな」

「つい二〇分ほど前まで一緒にいましたよん。昼飯を食いに行くと言ってと○のあなの前で別れましたぁ」

「そっか。それにしても久光、また同じやつ保存用、鑑賞用、布教用の三つ買うつもりなのか」

 俊治は久光が手に持っていた籠の中を眺め、呆れ気味に呟く。

「俊治君、この三つは全く違うものですよん」

「タイトル同じだろ」 

「これはラノベをコミカライズしたものなのですが、作者と出版社がそれぞれ違うのですよん。アニメを三話まで見て面白かったので、原作コミカライズ版も買おうと思いまして」

 久光はにこやかな表情で主張した。

「表紙は確かに違うけど、なんか、どれも同じような絵柄に見える」

 俊治は若干呆れ顔だ。

「俊治君、全く違うではあ~りませんか。目をよ~く凝らしてみましょう」

 久光に軽く鼻で笑われてしまった。

「こんにちは久光さん、やっぱりいたわね」

「やっほー、久ちゃん、奇遇だね」

 伸歩と花菜乃は嬉しそうにご挨拶。

「どっ、どうもぉ」

 久光は緊張気味にご挨拶。

「あーっ、俊治お兄ちゃんのお友達の丸尾くんもどきだぁ! 久し振りだね」

「久光お兄さん、お久し振り。また痩せたような」

 美羽と日香里も久光の姿に気付くと、彼の側にぴょこぴょこ駆け寄っていく。

「あっ、どうもどうも」

 久光はかなり緊張気味だ。彼の心拍数、ドクドクドクドク急上昇。小中学生くらいの現実の女の子は特に苦手なのだ。

 そんな彼に、

「トシハルさんの親友のヒサミツさん、直接会うのは初めてですね」

 メズミアは爽やかな表情と元気な声で挨拶した。

「こちらの青い髪の子は、いったい?」

「ワタシと同じ中学のお友達よ。カナダ人なの」

 日香里は久光が混乱しないように、こう嘘の内容も伝えておく。

「そうでしたかぁ」

 久光は居心地が悪くなったのか、

「じゃっ、じゃあね」

会計を済ませるとそそくさこのお店をあとにした。

「久ちゃん逃げちゃったね」

「久光さん、そんなに慌てなくてもいいのに。シャイな性格をなんとかしてあげたいです」

 花菜乃と伸歩は彼の後ろ姿を微笑ましく見送った。

「伸歩お姉さん、久光お兄さんに絶対恋心持ってるでしょう?」

 日香里はにこりと笑い、伸歩の肩をポンッと叩く。

「日香里さん、そんなことは全くないからね」

「いててて、ごめんね伸歩お姉さん」

 きっぱりと否定され、両ほっぺたをぎゅーっと抓られてしまった。

(ノブホさん、照れ隠ししてる)

 メズミアはふふっと微笑む。

 みんなこの店から出て、中央通りを南に向かって引き返していると、

「あーっ、くっそ。身分証明書がないと買えないとは残念なりー」

 とある漫画関連商品販売店から、一二歳くらいのぶくぶく太った少年、

「せっかくおら達が一八歳以上に見られるように催眠術かけたのになぁ」

 八歳くらいのやや太った丸顔の少年、

「明らかなんだから売って欲しかったよね」

十歳くらいのやせ細ったメガネの少年、

合わせて三人がしょんぼりした様子で出て来た。

「ひょっとして、きみ達、チタニーク星のTMS団の子?」

 日香里は近寄って問いかけてみた。

「そうなり」

「なんだこの根暗っぽいブス、アキバは喪女の来る場所じゃねえぞ。喪女は池袋にでも行ってろ」

 八歳くらいの少年が言う。

「坊や、ワタシは池袋もよく行くけど、アキバの方が好みなの。きみ達、一八禁の同人誌買おうとしてたでしょ?」

 日香里はニカァッと笑ってそう主張し、顔を近づけ問い詰める。

「……うん」

 八歳くらいの少年は怯えた様子で答えた。

「あんた達、ガキなんだから矢○先生のToLov○るで我慢しなさい! 下手な一八禁コミックよりもエロいわよ」

「そりゃそうだけどさぁ、おら達はスリルを味わいたくて」

「日本でそんなことしたら、お巡りさんに捕まるのよ」

「年齢制限はちゃんと守れ。ガキの頃からいかがわしいマンガやアニメばかり見てたら、俺の親友の政人や久光みたいになっちゃうぞ」

 メズミアと俊治は協力して少年三人の頭をすばやくピコピコハンマーで叩き、五センチくらいのミニサイズにした。

「すごく太ったお兄ちゃんは、日本でお相撲さん目指したら? 史上初の宇宙人力士になれるよ」

 美羽はしゃがみ込んで、こう勧めてみた。

「いや、おいら、力士なんて無理なりー。稽古としきたりが厳しすぎるようだし」

 一二歳くらいの太った少年は苦笑いしながら主張する。

「相撲は地球の日本でそこそこ人気あるらしいが、ホモでマゾのスポーツだよな。裸でマワシ一枚で抱き合ってるし」

 八歳くらいの少年は同情する。

「お相撲は紙相撲でやる方が楽しいよね。きみたちに忠告。ぼくらを倒したところで、ぼくらの仲間達が今、東大とスカイツリーと両国周辺で悪さしてるからね」

 十歳くらいの少年はにやついた表情で伝えた。ひそかに美羽のうさぎさん柄パンツを覗いていたのだ。

「TMS団のやつら、いろんな場所を手分けして荒らし回ってるのね。これは、アタシ達も手分けした方が良さそうね」

 メズミアはこう提案した。

「わたし、東大を担当するわ」

伸歩は積極的に希望する。どこか嬉しそうだった。

「私はスカイツリーがいいな」

「あたしは両国がいい」

「ワタシも両国担当しようかな。相撲の街だからいいBLネタ探せそうだし」

「俺は、どこにしようかな?」

「では、ノブホさんは東大、カナノさんとトシハルさんとアタシはスカイツリー、ヒカリちゃんとミウちゃんは両国ってことで。スカイツリーは空中戦になるかもだから、申し訳ないけどヒカリちゃん、ミウちゃん、ノブホさんは、電車を使ってくれませんか?」

「分かりましたメズミアさん」

「両国はアキバから近いし、もちろんOKよ」

「あたしもOK」

「おまえら楽しそうにして余裕だな。あっちで悪さしてるやつらは、おら達よりずっと手ごわいぜ」

 八歳くらいの少年は自信たっぷりに言う。

「それはどうかしら? アタシ達だって手ごわいわよ。それじゃ、エロ坊やたち、中で反省しててね」

「やめてぇー」「わぁーん」「入れないでー」

 メズミアは他に捕まえた団員達と同じようにそいつらを懺悔ハウスに放り込んだ。

「では、これでアタシがさっきやったように小さくして、この懺悔ハウスに閉じ込めてね。このタイプのは上部のふたを開ければ中に入れられるよ」

 それをリュックに仕舞うとピコピコハンマーを取り出し、美羽、日香里、伸歩に手渡したのち小型の懺悔ハウス、横浜ランドマークタワー型のを日香里に、神戸ポートタワー型のを伸歩に手渡す。

「伸歩ちゃん、一人で大丈夫?」

「大丈夫ですよ花菜乃さん、では行って来ますね」

伸歩は自信たっぷりに伝え、地下鉄末広町駅の方へ向かっていった。

「それじゃあ行って来るね。やっつけたら連絡するよ」

「どんな敵が出てくるのかな? ワタシわくわくして来たぁーっ!」

 美羽と日香里はJR秋葉原駅から両国へ向かうことに。

「美羽も日香里も気をつけてね」

「両国だけに、ものすごいデブがちゃんこ屋荒らしてたりして」

「トシハルさんの推測、当たってるかも」

花菜乃、俊治、メズミアは空飛ぶ畳に乗ってスカイツリーへ向かっていく。


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