第四話 対TMS団戦作戦会議。昔のおもちゃは最強の武器だと思います。
同日夜八時頃。楠本宅。三姉妹とメズミアは、花菜乃のお部屋に集った。
さらに俊治と伸歩もここへお邪魔していた。
対TMS団戦に備えて作戦会議を行うことにしたのだ。
(なんか、女の子特有の匂いがぷんぷん……)
俊治は妙に緊張してしまう。女の子五人の体から漂ってくる、ラベンダーの石鹸の香りが彼の鼻腔をくすぐっていたのだ。
「TMS団に対抗するための、画期的な武器の数々を見せますね」
メズミアは鞄から水鉄砲、めんこ、あやとり、ヨーヨー、けん玉、折り紙、水風船、お手玉、おはじき、ビー玉を取り出す。
「水鉄砲と水風船以外は武器にはならないと思うんだけど」
俊治は笑ってしまう。
「しようと思えばしっかり武器になるよ。例えばこのあやとりを、こうやって投げれば……」
メズミアは真剣な表情で主張し、あやとりの紐を俊治に向けて投げた。
「うわっ!」
俊治はあっという間に紐で全身を縛り付けられる。
「……動けない」
自分でほどこうとしたが身動きを封じ込められてしまったようだ。
「俊治くん、大丈夫?」
「ああ、そんなにきつくないし」
「俊治お兄ちゃん、ボンレスハム状態になってるぅ」
美羽にくすくす笑われてしまう。
「あやとりの紐がまるで意思を持っているかのような動きでしたね」
伸歩は紐に感心する。
「紐で拘束されてる俊治お兄さんも、なんかいいねえ。漫画のネタに」
日香里はにやりと笑い、携帯電話のカメラに収めた。
「日香里ちゃん、撮るなよ」
俊治は迷惑顔だ。
「メズミアちゃん、俊治くんをほどいてあげて」
花菜乃に困惑顔で言われ、
「ごめんなさいトシハルさん、すぐにほどきますね」
メズミアは紐のとある箇所をぐいっと引っ張る。
すると俊治の体から全ての紐の結び目がほどけた。
「このあやとりもすごい科学技術が使われてるんだね。メズミアお姉ちゃん、あたしにもやらせてー」
「これはアタシが編み出した技だから、何百回も練習しないと出来ないと思うよ」
「メズミアお姉ちゃんオリジナルの技かぁ。すっごーい!」
美羽のメズミアに対する尊敬度が上がったようだ。
「最近はこういうので一度も遊んだことない子どもも多いらしい。俺もそんなに遊んだ記憶はないな」
「日本で昔のおもちゃと呼ばれるものも、チタニーク星では現代のおもちゃですけどね。トシハルさんは、水鉄砲の早撃ちは得意ですか?」
「どうだろう? 早撃ちなんて俺やったことないから分からんな」
「では、トシハルさんは水鉄砲で早撃ちの練習をして下さい」
「えっ、練習しなきゃいけないのか?」
「はい、TMS団には早撃ちの名手も大勢いますし、トシハルさんは男の子ですし」
メズミアはそう伝えながら水鉄砲を手渡そうとしてくる。
「俊治お兄ちゃん、あたしと今から水鉄砲で戦おう!」
美羽からも強く誘われたが、
「小学生じゃあるまいし」
俊治は全くやる気なしだ。
「トシハルさん、地球の存亡がかかってるんですよ」
メズミアににこやかな表情で伝えられ、
「その言うわりに深刻な感じじゃなさそうなんだけど」
俊治は呆れ気味にこう意見する。
「俊治お兄さん、美羽と水鉄砲で遊んであげなよ。俊治お兄さんも小学校の頃はよく遊んでたじゃん」
「確かにな。しょうがない。やってあげる」
「やったぁ!」
「よかったね美羽。ねえメズミアちゃん、TMS団が来るのは明後日だから、明日は近くのショッピングモールとかに遊びに行こう。メズミアちゃんをこの辺案内してあげたいし」
「お気遣い、ありがとうございますカナノさん。明日は一日中訓練をした方がいいと思うけど、せっかくの機会だし、明日は思う存分遊ぶよ。でも帰ってから最低二時間は訓練をしましょう」
メズミアは後ろめたく思いながらも、大いに喜んでいる様子。
「あたし、映画館と上野動物園も行きたいな」
「わたしは国立科学博物館へも寄りたいです」
「ワタシは秋葉原も。上野のすぐ近くだし」
「私は秋葉原はちょっと……」
「アタシ、リアル秋葉原行ってみたいな。地球の日本のオタクの聖地なんでしょ」
「ほら、メズミアちゃんも行きたがってるじゃん」
「しょうがないなぁ。俊治くんはどこか寄りたいとこはある?」
「みんな、悪いんだけど俺、明日は久光んちで政人も一緒にテレビゲームする予定だから」
俊治は申し訳なさそうに伝えた。
「俊治くん、そんな体に悪いことせずに。私達と遊んだ方が絶対楽しいよ」
花菜乃は強く勧める。
「俊治さん、わたし達と付き合った方が絶対充実した休日を送れますよ」
「俊治お兄ちゃんもいっしょに遊ぼうよ」
「俊治お兄さん、お願ぁい! 俊治お兄さんがいてくれればナンパ対策にもなるし」
「トシハルさん、いっしょに遊びましょうよ」
他のみんなからも強くお願いされ、
「仕方ない」
俊治は断り切れなかった。しぶしぶ久光の携帯にキャンセルの連絡をする。
『あらら、残念ですが楠本さんからの誘いなら断るわけにはいきませんね。ぜひ楽しんで来て下さいませー』
久光は同情してくれたようだ。
(確かにショッピングモール巡りの方が楽しいかもな)
俊治はこの選択で良かったなと思いながら電話を切った。
その傍らで、
「マックスウェル山もはっきり見えるわ。百円の性能とは思えませんね」
伸歩はチタニーク星のあの望遠鏡で窓から天体観察。やはり性能に驚いていた。
このあといよいよ、俊治と美羽による水鉄砲戦が始まる。
戦いの舞台は、楠本宅のお庭だ。
「俊治お兄ちゃん、くらえぇっ!」
美羽は楽しそうに水鉄砲の引き金を引く。
「……」
俊治は顔に直撃を食らうも、反撃する気にはなれなかった。
「俊治くん、小学校の頃みたいにもっと楽しそうにやらなきゃ」
「いや、高校生が水鉄砲ではしゃぎ回るっておかしいだろ?」
「俊治お兄ちゃん、あたしを攻撃してみて」
「分かった、分かった」
俊治はやる気なさそうにしながらも、ついに引き金を引いた。
「俊治お兄ちゃん、動作遅いよ」
けれども美羽にサッとかわされてしまう。
「美羽ちゃん反射神経いいな」
俊治が感心したその直後、
「俊治お兄さん、それーっ」
「うわっ!」
俊治の背中がずぶ濡れに。
日香里が彼の背後から水風船を投げたのだ。
「俊治お兄さんも水風船でワタシを攻撃してみて」
「いや、なんかそんな気になれんな。水風船も小学生の遊びだし」
「トシハルさん、そんな心構えじゃ戦闘本番で痛い目に遭いますよ」
メズミアは微笑み顔で忠告する。
「当日本当にやばくなったら本気出すから」
俊治は余裕の心構えのようだ。
「俊治くんは本番に強いタイプだからきっと大丈夫だよ」
花菜乃はそんな考えである。
「俊治お兄ちゃん、くらえっ! 水風船爆弾五連発!」
「俊治お兄さん、やり返さないとどんどん攻撃しますよ」
「べつに俺そんなにダメージ食らってないし」
そのあと俊治は美羽と日香里から水風船攻撃を何度か食らわされた。けれどもやり返そうという気にはなれなかったようだ。
「美羽も日香里もやり過ぎはダメだよ」
「俊治さんも頑張れー」
「トシハルさん、一発くらい投げてあげて」
花菜乃と伸歩とメズミアは縁側に腰掛け、折り紙で鶴やカニやキツネなどを折って遊びながら、その様子を微笑ましく眺めていた。
「美羽、よかったわね。俊治ちゃんと遊んでもらえて」
「俊治お兄さん、これならどうだ」
日香里は俊治の後ろ首襟をつかみ水風船を隙間から入れ、さらに背中をぽんっと押す。
「つめたぁっ! 日香里ちゃん、背中に直接突っ込むなよ」
当然のように割れ、彼の背中はずぶ濡れに。
「俊治お兄さん、そろそろやり返したら?」
日香里は大きめの水風船を一つ、俊治に手渡した。
「さっきのは俺もいらっとしたからな、よぉし、日香里ちゃん思いっ切り投げてやる」
俊治は水風船を投げるしぐさをとった。
「きゃぁ、俊治お兄さん怖ぁい」
日香里はてへっと笑いながら俊治に背を向け逃げる。
「それっ!」
俊治はついに投げた。
しかし次の瞬間、
飛んでいる水風船に何かが当たり上空へ弾き飛ばされてしまった。
「俊治お兄ちゃん、すごいでしょう?」
美羽が水風船を狙ってプラスチック製のヨーヨーを当てたのだ。
「うん、俺、思いっ切り投げてかなりスピード出てたのに命中させたからな」
俊治はちょっぴり悔しそうに褒めてあげた。
その直後、
「んわぁっ!」
弾き飛ばされた水風船が俊治の頭上を直撃し破裂する。
「美羽、ナイス♪」
日香里はグッジョブの指サインをとった。
「美羽ちゃん、ここまで狙ってやったのか?」
全身ずぶ濡れにされた俊治は苦笑いを浮かべて問いかけた。
「うん! 狙ったのーっ!」
美羽は満面の笑みを浮かべて嬉しそうに答える。
「ミウちゃん、めっちゃ上手いね。TMS団戦でもじゅうぶん対応出来るよ」
「美羽さん、見事なコントロールでしたね」
メズミアと伸歩は折り紙の手を止めてパチパチ拍手。
「美羽、ヨーヨーをあんなに自在に操るなんてすごいよ。ん? きゃっ、きゃぁっ!」
花菜乃も拍手を交えて褒めていると、突然口をあんぐり開け、甲高い悲鳴を上げた。
「花菜乃ちゃん、どうした?」
俊治は少し心配そうに問いかけた。
「俊治くぅん、蛾が、私の鼻にとまったの。とって、とってぇ~」
「花菜乃お姉さん、相変わらずオーバーリアクション過ぎ」
日香里はにこっと微笑み、そっと掴み取ってあげた。
「私、昔からよく虫に襲われるの」
「花菜乃さんには虫さんを惹きつける魅力があるってことね。名前に花が付いていますし」
伸歩はくすくす微笑みながら言う。
「私、虫だけはどうしても好きになれないよ」
花菜乃は今にも泣き出しそうな表情だった。
「花菜乃ちゃん、俺にもその気持ちはよく分かるよ」
俊治も同情するものの笑ってしまう。
「俊治お兄ちゃん、これあげる。牡丹のお花のところにいたよ」
「ん?」
美羽は俊治の手のひらに何かを乗っけて来た。
「うわっ!」
ぬめっとした感触がじかに伝わり、俊治は慌てて地面に投げ捨てる。
カタツムリだった。
「投げたらダメだよ俊治お兄ちゃん。殻が割れちゃう」
「いきなり渡されたからしょうがないだろ」
俊治は迷惑顔だ。
「俊治お兄さんも虫怖いんじゃん」
日香里はくすっと笑う。
「怖くはないけど」
俊治はやや顔をしかめた。
「カタツムリは私大好きだよ。羽がある昆虫さんは高速でびゅんって飛んでくるのがダメ」
花菜乃はにっこり笑顔で打ち明ける。
「カナノさん、TMS団員には、地球の昆虫好きな子もいるから、昆虫攻撃を仕掛けてくるかもしれませんよ」
メズミアはにやついた表情で警告してくる。
「嫌だなぁ」
花菜乃は暗い気分になった。
※
俊治と伸歩は自宅へ帰り、三姉妹とメズミアは日香里&美羽のお部屋へ。
「ミウちゃん、今日はマ○オのゲームで遊ぼっか?」
「今日はいいや」
「あれ? ミウちゃん、なんか元気ないね」
「美羽、急に大人しくなったね」
「俊治お兄さんと遊び疲れちゃった?」
メズミアと花菜乃と日香里は、ついさっきまでとは様子が違う美羽に疑問を抱いた。
「なんかあたし、急にすごくしんどくなったの。熱があるみたい」
美羽はゆっくりとした口調で答えた。
「美羽、本当にお熱があるよ。大丈夫?」
花菜乃は美羽のおでこに手を当ててみた。
「まあ、なんとか」
美羽はそう答えるも、ぐったりしていた。
「あらら、美羽。風邪引いちゃったか。でもそんなに高熱じゃないっぽいからきっと一晩で治るわ」
日香里も美羽のおでこに手を当てて、安心させるように言う。
「美羽、これからぐっすり寝れば、明日の朝までには絶対治ってるからね」
花菜乃が勇気付けるようにそう言うや、
「ミウちゃん、これ舐めてみて。チタニーク星製の薬用ドロップ、地球のいちごに近い味で風邪などに良く効くよ。チタニーク星よりも遥かに空気が汚染されてる地球で体調崩した時のために念のために持って来てたんだ」
メズミアは鞄から赤いドロップを取り出した。
「ありがとうメズミアお姉ちゃん、いただきまーす」
美羽は一粒受け取るとさっそくお口に放り込んだ。
「甘くてすごく美味しい♪」
するとなんと、美羽の顔色がみるみるうちに普段の状態へと戻っていったのだ。
「急に元気が出て来たっ!」
美羽はにっこり笑い、ガッツポーズを取る。
「お熱も下がったみたいだね。ドロップ効果すごい!」
花菜乃はおでこに手を当ててみて、ホッと一安心出来たようだ。
「ありがとうメズミアお姉ちゃん。あたしの風邪あっという間にすっかり治っちゃった」
「アタシ、当たり前のことをしただけよ」
メズミアはちょっぴり照れた。
「想像以上の解熱効果ね。ワタシ、こんなに効果あるとは思わなかったわ。ド○ゴンボールの仙豆みたいね」
日香里は効能にかなり驚いていた。




