日陰の匂い
球技大会当日。
俺は体育会で一人、隅の方に大人しく座って可能な限り元から小さい存在を、更に小さく小さくしていた。
現在体育館内には、男の教師を除けば男はたった一人、俺しかいないのである。
後は全員女子。
審判も、試合をしている人も、座り込んで喋りながら自分の試合に待っている人も、試合が終わって仲間内とぺちゃくちゃ喋りあっている人も全て女子。
この状況で俺のことを羨ましいというやつは、是非とも俺と代わっていただきたい。今すぐにでも。
女の花園とは決して良いものではない。
尋常じゃないほどに居心地が悪いのだ。
俺は球技大会が始まってすぐに南條先生のところへ行き、運動場の隅の方で休ませてくれと懇願したのだが南條先生曰く、仮にも体調不良で休んでいるやつが炎天下の休息をとるなんて怪しまれるぞとのこと。
それならば木陰で休むから大丈夫だと、もう一考してもらうようにけしかけたのだが、木陰に居るくらいなら体育館内で日差しを遮った方が遥かにいいだろうと一蹴されてしまった。
故に現在俺は、やけに甘ったるい匂いの漂う、この花園に閉じ込められてしまっているという訳だ。
ああ、帰りたい……。ていうか、みんな制汗剤使いすぎだろ。汗の臭いを抑えるはずが、余計臭くなったら意味無いだろうに……。
「気分はどうだい?」
俺は堪らず空いている窓から顔を出して新鮮な空気を体に取り込んでいると、背中越しに声が聞こえる。
「……本当に体調不良になりそうです。…………臭くて」
振り向き様にそう皮肉を帯びて言うと、この花園へ俺を投獄した南條先生がフッと笑みをこぼす。
「まあ、この臭いは私もあまり得意ではないな」
南條先生は鼻からスンスンとこの空気を吸い上げて苦笑いを浮かべる。
「そういえば南條先生って香水とかつけてないですよね」
ふと疑問に思ったことを吐露する。
「まあな。……も、もしかして私はなんか変な臭いとかするのか?」
南條先生は周りの空気を嗅ぐことに使っていた鼻を、自分の服をその鼻の元へと引っ張っていき自分の臭いを嗅ぎだす。
だが、周りの空気が邪魔して今一自分の臭いが分かっていない様子だった。
「いや、違いますよ。ただ、疑問に思っただけです。それに、南條先生は良い匂いですよ。少なくとも俺は落ち着く感じの好きな匂いです」
「そ、そうか……。そ、それならいいんだがな」
本心をそのままに伝えると南條先生は少し照れた様子で前髪をイジイジと触っている。
俺もうこの人の前で嘘つけないからなー。多少変態になってしまうかもしれないような発言でもしなくてはいけないなんて。ああ、僕って可哀想な子。
「南條先生。次、審判お願いします」
「あ、はい。わかりました。じゃあ三上、また後でな」
南條先生は他の教師からの呼び出しを受けて、バドミントンの試合が始まる直前のコートへと足早に向かって行った。
後でなにがあるんですかね……。
未来予想図がⅡまでいきそうにない未来を想像して、少しだけ武者震いをする。
「三上君……大丈夫?」
俺は再び体育会の隅に座り込んでこの臭いと一人で戦っていると、俺が減なりしている内容とはきっと違う意味で心配してくれているであろう小森音さんが声をかけてきた。……体操服で。
ありがとうございます。僕は今だけは元気です(にっこり)。
「ああ。……ちょっと熱っぽいだけだから平気だよ」
極めて邪な気持ちを隠しながら、俺は小森音さんが懸念しているであろう事とは別な理由で弱っていることを告げる。
「そっか。でも、三上君が見学してくれてよかったよ」
そう言っていつも通りの微笑みを向けてくれた小森音さんに、俺はちょっとした嗜虐心を覚えてつい意地悪を言ってしまう。
「……それって俺がドッジボールの試合に出ない方が俺たちのクラスが勝ち上がる確率が上がるからよかったの?」
そこそこ自虐的な事を言ってみると、小森音さんは身振り手振りをオーバーにして必死否定してくる。
「ち、違うよ!三上君は大丈夫だって言ってたけどやっぱり安静にしておいた方が良いと思ってたから……だ、だからそんなこと思ってないよ!?」
「冗談だよ」
予想以上の反応を示してくれた小森音さんに俺は満足して、早々にネタバラしをした。
……ちょっと城森を意識しながら。
「もー。変な冗談やめてよー」
ホッとしたように胸を撫で下ろす小森音さんを見て、俺はニヤニヤが止まらなかった。
イヤらしい意味など微塵もない、純真なニヤニヤである。
「なにが変な冗談なのですか?」
俺はニヤニヤした顔を小森音さんから隠すために俯いていたら、城森がいつの間にやら俺達のところへ来ていたらしい。
顔を上げるとそこにはいつもの黒髪ロングのストレートではなく、髪を結わえて所謂ポニーテール状態になっていた城森がいた。
……やっぱり美人だなこの人。
因みに前髪には可愛らしい花のヘアピンをつけている。
「麗花ちゃん聞いてよー……」
「…………?……どうしたんですか?」
突然小森音さんは言いかけていた言葉を押し殺す。
あ、そうか。小森音さんには城森に怪我の事言うなって言ってあったんだった。
そう言えばバレたこと言ってなかったな。
「小森音さん。実はもう城森に怪我してることバレてる」
「え!?そうなの!?」
「ああ。昨日いきなり……背中を殴られてそれでバレた」
「え!?殴られたの!?」
俺は何も間違ったことは言っていない。
あの衝撃は殴られたようなものだろう。
城森は俺の言ったことに対して不満があるのか、横槍を入れてくる。
「人聞きの悪い事言わないでください。私はただ軽く背中を押しただけです」
「不意打ちで食らったから、その軽目にしたはずの威力が上がったんだよ……」
「それはすみません。私の作戦はガンガンいこうぜから変わったことがないので」
「……これからはいのちだいじにでやってくれ」
確かに城森の行動とか言動を目の当たりにしているとそう思えなくもない。
というか、その作戦ネタどこから仕入れたんだよ……。
もしかしたら小森音さんとかにドラゴンをクエストするゲームでも借りてるのだろうか……。
「そんな事より紗莉亜さん。先程言いかけていたことってなんですか?」
「あ、えっとね。三上君が見学してくれてよかったって、私は怪我のことを心配してそう言ったんだけど、三上君が俺が出ない方が勝てそうだからよかったの?って冗談言ってきたんだよっ」
さっきの態度とはまた違い、小森音さんは少しムッとした様子で俺との出来事を話す。
「なるほど……。でも、強ち三上君の言っていることは合っているかもしれませんよ?」
「……ぐはっ」
「冗談です」
自分で言うのと、人に言われるのはダメージが違いすぎる。
思わず吐血した気になったじゃないか。心配しなくても気になっただけだから実際には吐いてないよ。
にしても本家の冗談はたちが悪いな……。
「あ、麗花ちゃん。そろそろ私達の前の試合終わるみたいだよ」
自分達が試合するであろう、俺達の居る場所から数えて三つ目のコートを見ながら小森音さんは城森に伝える。
「そうみたいですね。もう向こうに行っていましょうか。……三上君はそこで応援していてください」
城森もそこへ一瞥すると、小森音さんに同意して歩き始める。
「うん。じゃあ三上君また後でね」
「ああ。……遠目で応援しとくよ」
城森の後を追って小森音さんは去っていった。
小森音さんの言った『後で』は、これほどまでに南條先生の『後で』とは違うものなのか。
全然未来予想図書けちゃう。未来予想図というか妄想図になる勢い。
俺は小森音さんと城森の姿を、試合が始まる前から視界の中に入れながらボーッと過ごしていると、俺からある程度距離が離れていて、しかしながら話し声なんかは聞こえるであろう絶妙な距離に、俺達のクラスの上位カーストの女子……詳しく言うと城森に対して敵対心バリバリのグループが、三人という少数精鋭でその場に陣を取り始めた。
名前は確か……奥から、川井夏実、牧沢湊、鈴木千夏だったかな。
「あーあっつ。あ、夏実ちょっとそのシーブリーズ貸してー」
「えーあんたいっつも私から借りるじゃん。たまには自分で持ってこいよなー」
「まぢで返さないでよ。ウケる」
「ねえ、夏実。それならさー裕太の話聞かせてくれたら貸してあげるってのはどう?」
「あ、湊それイイネ!ってことで千夏。裕太と今どこまでイッてんだよ」
「えー。別に話すことなんてないし」
「いやいやいや!この前家誘ったんでしょ?そっからどうなったのかの報告まだウチら聞いてないし!もう付き合って二ヶ月経ったんだし……したんじゃないの?」
「ちょ。ぶっこんできすぎでしょ!」
…………場所変えようかな。
でも、このタイミングで立ち上がるとなると、もしかしたらあの人達は俺が会話を聞いていて居心地が悪くなったのを察するかもしれない。
そうなったら……。
「うわっもしかしてあいつウチらの話聞いてたんじゃね?」
「まぢ?ウケる(笑)。それでどっかいったのかよ」「ていうか、千夏話聞かれてたんじゃない?」
「「「……キモッ」」」
みたいなことになってしまうかもしれない。
いや、別になってもいいんだけどさ。ホントだよ?
ただ、ちょっと……心の準備がまだというか。
無防備なところにロケットランチャーなんかぶっぱなされたらもう粉々だよ。というか粉すら残らないかも。
なんて俺は必死に自分自身の擁護に勤しんでいると、途切れることなく視界に入り続けていた小森音さんと城森の試合が始まろうとしていた。
俺は思考を止めて、二人の試合に集中することにした。決して自分が惨めになったというわけではない。
遠目からではあるがなんとなく、試合の第一打が小森音さんのサーブだということが分かる。
そう言えば小森音さんと話してたとき、特に緊張した様子は無かったな。
もしかしたらこういうの強いタイプなのかもしれない。
こういう……ある程度の人に見られている場面が。
漸く審判が手をあげる。試合開始の合図だ。
バドミントンのサーブは上から打ってはならず、全てアンダーで打たなければいけない。
サーブはいくつか種類があるが初心者はとりあえず、サーブミスをしないように大体ロングサーブを狙うのが基本らしい。
小森音さんはネットの掛け方を知らなかったからたぶん初心者だろう。
そしてロングサーブと逆のショートサーブ……即ちネット際を攻めるような打ち方は、ロングサーブより難易度が高い上に失点に繋がる要因も含まれている。
ただし決めることができれば、相手から返球でロングサーブのようないきなり振りかぶっての強打、という警戒はしなくてもよくなり、それに相手のラケットの面を見てどこに返してくるかを予想できたりするのだ。
お、小森音さんがサーブを打つみたいだな。
小森音さんが打ち上げたシャトルは、滑らかに弧を描いて相手のコートへと落ちていく。
第一打はうまくいったようだ。
相手は飛んできたシャトルをオーバーヘッド……つまり頭の上で対角線上にふわりと打ち返し……て?
気が付くとシャトルは、二人の相手のコートの床に横たわっていた。
前衛にいる城森が相手の打つ方向を読んでいたのか、右に横っ飛びをして強打を打ち込んだのだ。
その姿はただ、綺麗だった。
不純なものなど一切ないと言わんばかりの白銀のような輝きは、もしかしたら俺だけが感じているのかもしれないが……。
ただ、そう思ってから俺の中での城森の一挙一動全てに、キラキラするエフェクトがつく幻覚を見るようになった。
俺は目がおかしくなったかと思い瞼を擦る。くしくし、けけっ。
しかしながらこの光景を見ていたのは当然だが俺だけでは無く、休憩中の女子の目線の大半は城森に向けられていた。
しかも、あの二人まだ一点も取られてないし……。
十点先取のルールだからもうそろそろ終わるんじゃないか?
などと思っていると横から聞きたくもない会話が、否応無く聞こえてくる。
「アイツらまた調子こいてるじゃん」
「あーあのお嬢様ねー。うわっ今のとかまぢ過ぎるじゃん。普通に引くわ」
「小森音ちゃんもなんだかんだいってアイツと仲良くしてるよね」
「変なやつら同士気が合うんじゃね?……あ!もしかして……」
「なになに?」
「友達料とか貰ってたりして!」
「なにそれウケる!えーじゃあウチも友達になってこようかな!」
「無理無理。アイツ誰とも関わらないらしいから」
「っていいつつ小森音ちゃんとつるんでるとかウケる」
「あれっしょ。急にぼっちが怖くなってそれで……友達料あげるから一緒にいてーとか」
「まぢでありそうでウケる」
…………やっぱりさっきコイツらが来たときにどっか行けばよかったか……。
いや、まだ遅くはない。とりあえずここから離れよう。
そう思って立ち上がろうとする前に、突然不穏な空気が漂い始める。
「てか、小森音ちゃんだけじゃないでしょ一緒にいるの」
「あーあそこにいる三上?」
瞬時に思う。あ、これヤバイ。
「ちょっとウチ三上にアイツと仲良くなる方法聞いてくるわ!」
え、来ないで?マジで?マジで来るの?
「え、なにそれ。それならあたしらも行くし」
もぅマヂムリ……。
「ねーねー三上ー」
はい、おしまい。ちゃんちゃん。
……命乞いする間もなかった。
ゆっくり……だが、確実に三人は歩いてきて、俺の右側に揃って腰を落ち着ける。
「…………なに?」
「いや、三上ってさー城森と仲いいじゃん」
まあ、君たちよりはね。
「……はぁ」
「ぶっちゃけさー友達料とか貰ってたりしてんの?」
「え、夏実それ聞くのかよ。ウケるんだけど」
「だってまぢでありそうだからさー」
あー…………めんどくさ。
「……そんなものは貰ってない」
「そっかー。んじゃあさアイツの嫌いなところぶっちゃけてよ」
「……は?」
俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
「だーかーらー城森お嬢様のイヤなところだよ。一つぐらいあるっしょ?」
「……別に」
「えー一個もないとかあり得なくね?アイツだよアイツ?"普通"腹立つとか思わね?大体さー転校初日からあんなこと言うとか痛すぎるし」
「あーあれは本当に腹立ったわ。何様だよって感じだよね」
「ウチら別にアンタを構う気なんて更々ないんですけど。みたいな」
言えてる言えてるー。と三人はお互いに同調しあい、姦しさを増していく。
まあ、この人達はこの人達なりに色々あるのだろう。
共通の敵を叩いて、お互いの関係を確固たるものにするための作業の一部かもしれないし、ただ単に気に食わないから言っているだけかもしれないし、周りに合わせて孤立してしまわないようにするためなのかもしれないし。
陰口を言う理由はきっと、人によっては同じだったり違ってきたりするのだろう。
ただ、そんなことは俺にとってはどうでもいいし知ったことじゃないわけで……。
……もういいよな。
「ほら、三上もぶっちゃけなよ。あるんでしょ?実は」
川井はニヤリと笑って俺を促してくる。
まるで、お膳立ては完璧だろ?これで少しは言いやすくなったでしょ。みたいな裏を感じ取ってしまうような嫌な微笑みだ。
俺もそれに答えるようにニヤリと笑って立ち上がる。
「……お仲間が欲しいんなら他当たれば?アンタらだったらみんな合わせてくれるかもな」
お望み通りぶっちゃけてやった。
俺はどこかスッキリした心情でその場を後にする。
背中越しに聞こえる俺への罵倒の言葉は、不思議と俺の中には届かなかった。
★ ★ ★
「初戦突破おめでとさん」
「ありがとー」
「ありがとうございます」
俺はあのまま、拠点を隅から二人が対戦するコートの真正面へと場所を移した。
幸いここの周囲には、比較的会話や見た目が大人し目な人達しか固まっておらず、さっきのような不快感の海に溺れることはなかった。
ただ、隅にいた時より若干臭いがキツくなっているような気がする。
もうそろそろ鼻も慣れてくれないと困るんだがな……。
「三上君私達の試合見てた?」
程よく汗をかいている小森音さんが、首からタオルをぶら下げて俺の今しがたの様子を聞いてくる。
「ああ。応援なんていらないくらい余裕だったな」
「でしょ?麗花ちゃんのお陰で余裕だったよ」
へへへと小森音さんは笑って続ける。
「でも、やっぱり麗花ちゃんはバドミントンも得意なんだね」
「いえ、別にこれくらい……。私はただ経験があったというだけです」
あの動きを経験があっただけで済ますのか……。
試合の序盤で、既に相手は戦意喪失してたレベルだったのに。
「それでも凄かったよ!ね、三上君」
唐突に小森音さんは俺に同意を求めてきたので、俺は正直にそれに答える。
「ああ。……なんていうか凄い綺麗だった」
「……そ、そうですか」
そのまま思ったことを口にすると、俺は城森からふいっと顔を背けられた。
……ちょっと引かれたかな。あんまり正直すぎるのもよくないね。
「麗花ちゃんに比べたら私は全然だったよ」
あっけらかんとして言う小森音さんに俺は意を唱える。
「そう?小森音さんも結構上手かったよ。五点目ぐらいの時にサーブでネットすれすれに落としたのとかおおっ!ってなったし」
「あ、あれは自分でもナイスショットって思っちゃった!狙ってはなかったけどね」
照れくさそうにはにかむ小森音さんを見て、俺もつられてにへらとはにかむ。
「…………」
「な、なんでしょう?」
が、なぜか俺から目を背けていた城森が突然振り返って俺を睨み付けてくる。
ちょっとそんなに見つめないでくれよ。惚れちゃうだろ。
「……別になんでもないです」
「そ、そうか……。それより後何回勝てば決勝なんだ?」
城森のにらみつける攻撃で俺の防御が下がり続けていくのが耐えられなくなり、とりあえず適当な話題を引っ張ってくる。
あっぶねぇ。この状態で攻撃されたら一撃でヤられるところだった……。
「確か、後三回だったかな」
すかさず小森音さんが返答してくれる。
「そうか。この学校バドミントン部無いから、もしかしたら城森と小森音さん優勝できるかもな」
というか、城森のあんなプレーをみたら誰だって優勝候補だと思うよな……。
「わ、私麗花ちゃんの足引っ張らないように頑張るよ!」
「……それ前に聞きましたよ。それに私は紗莉亜さんを頼りにしてますから大丈夫ですよ」
「うう……。嬉しいけど逆にプレッシャーかかるよそれ……」
互いに破顔した表情を向け合う二人を見て、俺は少し前に言われた言葉を思い出す。
『アイツの嫌いなところぶっちゃけてよ』
嫌いなところ……ね。
「あ、試合終わったみたいだね」
「そうですね。……じゃあ行きましょうか」
「……行ってらっしゃい」
俺は何処か上の空で小森音さんと城森を送り出す。
既に水面下ではなく水面上に上がってきていたイヤな匂いは、とっくに俺の鼻を擽っていた事に俺は気付こうとすらしていなかった。