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真っ白になりたい真っ黒  作者: 静かな雨
10/10

真実の矛

雨はなんとも不思議な魅力を持っている。

夜、就寝するため身の回りにある音と光を全て消して、布団に入り目を瞑る。

だが、自然の音までは消すことはできず、こっちの意思に関係なく雨粒の弾ける音を聞かせられる。

なのにどうして雨の音は心地いいのだろう。人によっては嫌いな人もいるかもしれないが、俺は好きだ。

ある種自然という化物に、自分の音楽を無理矢理聞かされてるといっても過言ではないのにどこか憎めない。寧ろ好き。抱いてほしい。

また、雨は聴覚だけでは無く視覚でも俺を魅力してくれる。

雨が天から降り地を穿つその姿を、自室の窓や学校の窓から見ている時、俺は日頃思考を巡らせまくっている頭を文字通り空っぽにすることができる。

退屈で、でもどこか充実している……。

そんな時間を雨は俺にくれる。

更に雨の魅力は留まることを知らない。

豪雨の中、傘も指さずに走り抜ければ、あっという間にどこぞの主人公のできあがり。

あ、今の俺ってかっこよくね?という感覚がお手軽に体験できるのだ。

とまあこんな感じで、雨というものの魅力に取りつかれている俺だが、唯一そんな雨が嫌いな時がある。

それは……。

「……雨……降ってるな……」

学校への登校時に降る雨だ。

寝起きの俺に全く嬉しくない報告が、否応無く耳へと届く。

宛らはしゃいでいるように聞こえるその音に、俺は苛立ちを覚えつつ寝床から起き上がる。

現在、梅雨真っ只中の六月二日。

球技大会からはもう一週間ほど経っていた。

あの後、俺の予想通り……というか当然というか……。

城森と小森音さんは見事に優勝を果たした。

二回戦以降の相手はどれも、気持ち半端に勝ち上がったせいなのか、初戦の相手よりかはやる気が違っていた。

しかしながら、城森の動きというものは他の人達とは別格で、それを見せつけられた相手は自然と、やる気を無くしていっていた。

ただ、決勝戦の相手はここまできたなら優勝したいと思っていたのか二回戦、三回戦の人達よりかは城森、小森音ペアに食らいついていた。

それでも結局は、圧倒的な力という前にひれ伏すような形で、勝敗が決定した。

その直後、小森音さんはとても嬉しそうな表情を、城森は平然とした表情、それぞれ違う表情を見せていた。

けどなぜだか俺は、城森が小森音さんに向けていた目には、そこはかとなく暖かさを帯びているように感じた。

城森って案外こういうイベントで本気になるんだなとか思っていたけど、もしかしたら小森音さんと一緒に優勝したかったから…………。

そこまで思考して俺は首をぶんぶんと振る。

……またやってしまった。

どうしても城森に対しては、自分の綺麗な幻想を押し付けてしまう。

……顔でも洗ってくるか。

俺は起こすだけ起こして動かしていなかった体に力を入れて自分の部屋を後にする。

階段を降りている最中にふと気づく。

外から聞こえてくる雨足はどことなく勢いを増していた。




★ ★ ★




俺は汗だくになりながら漸く学校に着いた。

六月に入り段々と蒸し暑くなってきたこの時期の合羽チャリ登校は割りとしんどい。

これだから雨は嫌いなんだ!

声には出さずぶつくさ考えながら合羽を脱ぎ、自転車に掛けて気休め程度に乾かしておく。

雨の日は合羽を着るだとか、鞄にカバーを被せるだとか、色々と面倒な準備があって普段学校に着く時間よりも遅くなる。

とはいえその準備というのは、遅刻する程のロスではないので、俺はいつも通りのペースで歩を進めながら教室へ向かう。

四階の一番隅にある一年一組の教室を目指して階段を登り、さくっと我が教室の前に着きガラリと扉を開けて場所が変わったばかりの自分の席へと座る。

昨日の六月一日に席替えが行われ、俺は廊下側の前から二番目という、いいのか悪いのかよくわからない席になった。

「あ、三上君!」

腰を下ろして無香料の冷却スプレーを体に吹き掛けていると、小森音さんが何やら慌てた様子で俺の名を声に出す。

「小森音さんおはよ。……なんかあったの?」

「そ、それが……」

小森音さんがおずおずと指を差した方向を見ると、そこにはあの川井、牧沢、鈴木の三人と……城森の姿があった。

城森の席は昨日、窓際の一番後ろから今座っている、窓際から数えて三番目の一番後ろ……用は真ん中の列の後ろになった。

それはまあ別によかったのだが、その城森の周りの席になったのが、あの三人の内の二人である川井と鈴木だった。

城森の前が川井で、その隣が鈴木という中々に面倒な配置になっている。

そして今そこに牧沢も加わって、三人が城森を取り囲むようにして椅子に座っている。

その光景を見て疑問に思った俺は、牧沢の席を一瞥した。

そこには牧沢の椅子が待ちぼうけを食らっている様子が映し出されていた。

ということは牧沢は今、自分の椅子では無く、どこか近場の自分よりカーストの低い人間の椅子を使っていることになる。

この行動は中々に酷い行いである。

あれは遠くない昔のこと……。まあ、二週間くらい前の話なんだけど。

俺はある日昼休みが始まってすぐに催してトイレに向かった。

見も心も文字通りスッキリして戻ってくると、俺に唯一忠誠を誓ってくれていた椅子君の姿がそこには無かった。

一瞬パニックになるも冷静に辺りを見回していると、俺の席のすぐ後ろであの三人ではないがそこそこカースト上位の女子達の内の一人が、俺の椅子君を使用して弁当を広げている姿を発見した。

その女子は毎回自分の椅子を持って来ていたのだが、きっといつも通り持ってくる際に俺がいないことに気付いて何の気なしに使ったんだろう。

俺は椅子君を返してもらおうとその女子に声をかけようと思ったのだが、これで返してもらってその女子を背後に感じながら弁当を食べるのはちょっと心地がよくないだろうと察して、一日だけ俺に忠誠を誓ってくれた椅子君の所有権をその女子に譲ることにした。

…………それが大きな間違いだった。

次の日俺は自分の席でいつも通り弁当を食べていると、昨日俺の椅子君の所有権を譲った女子が俺に声をかけてきた。

「え、椅子使ってんの?」

見りゃわかんだろ。と思わず口から溢れ出そうになったのをぐっと飲み込んで、それをオブラートに包み直してから俺は言葉を発した。

「使ってるけど……」

だが、この俺の言い方はどうやら相手にとっては不服だったようで、その日の昼休みの後ろの女子達の会話は、俺がいかに嫌みなやつかで盛り上がっていた。

俺のすぐ後ろで自分のことをグチグチ言われている現状が二日続いた時、俺のプレパラートの心は悲鳴をあげてしまい、次の日から俺は情報交換部の部室で弁当を食べるようになった。

ただ、これが思いの外良策だったみたいで、今まで過ごしていた、喧騒な教室にいるより遥かに心地が良かった。

だから、席が替わりあの女子グループが俺の背後にいなくなった今日も、俺は昼休みにあの部室に入り浸るつもりでいる。

…………だいぶ話がそれてしまったので戻そう。

小森音さんが狼狽えた様子になっているのは、十中八九城森に対するあの三人がしている行動だろう。

あの三人は城森の事をよく思っていないどころか嫌っている。

それは、あの球技大会の時に身を持って感じたことだ。間違いはないだろう。

そんな三人が城森を取り囲んで談笑……。

こんなの嫌がらせ以外の何物でもないだろう。

話している内容は周囲が喧しい上ここから距離があるので理解できないが、城森が気にもせず読書に耽っているところを見ると、あの三人を完全に無視しているのだけは分かる。



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