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僕のアルコール依存症

僕のアルコール依存症(2)

作者: 酒井順

 

第1話 入院


 独居室は、正確には保護室というそうだ。監禁室ともいうらしい。


 入院の形態は3種類ある。

1つ目は、任意入院だ。

これは、病人が自分の意思で病院に行き、入院手続きをする。

これの特徴は、いつ退院するかの判断権を病人が持っている事だ。


 次は、医療保護入院だ。

これは、保護者によって入院させられるケースだ。

アルコール依存症の場合、この入院時に記憶が曖昧なのは当然かもしれない。

これは、入院期間が定められている。

病人の意思で退院する事は出来ない。


 そして最後に、措置入院だ。

これは、基本的に自傷他害のおそれがある場合とされている。

アルコール依存症の場合、多くが飲酒による暴力などだ。

これは、行政判断によるので、行政の長の許可が無ければ退院出来ない。


 僕の最初の入院は、医療保護入院になる。

期間は、2ヶ月とされた。


 監禁室の生活は、1週間に満たなかったと記憶している。

その時の生存の記憶はほとんど無い。

ただ、悪夢が再現していた。

 迫りくる恐怖感と闘っていた。

主治医と話した事は覚えているが、何を話したのかは覚えていない。


 やがて、離脱症状が緩和されて一般病棟に移る。

しかし、一般病棟とはいえ、そこは閉鎖病棟だ。

外部への出入りは、自由に出来ない。


 看護師さんから、今後のスケジュールを説明される。

断酒のための治療プログラムがあるらしい。


 定期的に医師の回診がある。

そこで、僕の心と身体の異常がアルコールによるものだと、知らされる。


第2話 プログラム


 治療プログラムが始まる。

ここで、否認という言葉を聴く。

始めて入院する多くの患者が「自分はアルコール依存症ではない」と言うようだ。

医師の治療はこの否認を解く事から始まる。

 多くの人が、是認すると「烙印を押された」と感じるようだ。


 僕には、否認も是認も無かった。

あったのは「異常の原因が分かった」という安堵感だけだった。

結果として、医師との会話が噛み合わない。

医師から「貴方はアルコール依存症です」と言われても「そうですか」と答えるしかない。

 医師は不審を持っていたようだ。

「本当に分かっているのかな?」

今、思えば医師の不審は大当たりだった。

 僕は、事の重大さに気付いていなかった。

「断酒すれば、異常がなくなる」とだけ考えていた。

 医師の役割は「否認を解けば80%終り」というのが、通例らしい。

僕は否認をしていない。

 医師は不審を感じても手の打ちようがない。


 1週間単位で、治療プログラムが行われた。

内容は医療機関毎に違うらしい。

この事を知るのも数年先の事だ。


 内容をここで書く事は、無意味だと思うので書かない。

そのプログラムに、僕は抵抗感があった。

プログラムの納得のいく説明がない。

プログラムの内容についても意味を見出せない。

 原因の多くは、僕の脳内にあったと思う。

退院してから実感するのだが、脳が正常に機能していない。


 僕は、農家を営んでいた。

農作業の手順違いをよくした。

手順違いは、全ての遣り直しを意味した。

脳が正常に機能していないから、手順が踏めない。

 結果として、農作業が間に合わず作物にも影響が出る。

そして、収入にも影響が出る。


第3話 スリップ


 スリップとは、アルコール依存症者の再飲酒の事をいう。

仲間内では「失敗」という。


 僕は、最初の入院から3回スリップした。

そして、3回目のスリップの時、再入院した。

事の重大さに気付いたのは、この時だ。


 1回目のスリップは、何日かで止める事が出来た。

未だ、自己抑制がきいた。

 2回目のスリップは、1か月くらいかけて止める事が出来た。

ようやく、自己抑制がきいた。


 最初の入院から3回目のスリップまで2年、間がある。

3回目のスリップの時だ。

1日目は1合の日本酒を飲酒した。

2日目は2合の日本酒を飲酒した。

3日目は4合の日本酒を飲酒した。

4日目以降は、記憶に残っていない。


 記憶は定かではないが、スリップ期間は1~2ヶ月だと思う。

生きているのが、嫌だった。

目が覚めて、意識のある事が辛かった。

目が覚めると、離脱症状も襲って来た。

また、悪夢の再現だ。

 僕が、今ここにいるのは、生存本能の為せる業としかいいようがない。

意識では、死にたかったのだから。

 意識をなくすために飲む。

意識が戻るとまた飲む。


 底つきという状態が訪れる。

これは、全てのアルコール依存症者に訪れるのではないらしい。

身体がアルコールの摂取を拒絶する。

飲んだアルコールは、全て吐き出してしまう。

結果として、離脱症状が収まらない。


 飲酒運転で病院に駆け込んだ。





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