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5.ハーレイの興味

第一公子視点。一人称です。

そして、短いです。

時間は、25話の直後です。



レジーナに付き添われて、ユウノは一度もこちらを振り返ることなく去っていった。

その足取りには私たちに対する迷いも未練も見られない。

ずっと自分の価値を知らずに暮らしていたと聞いていた。己の力を知らず、ただただ下級のメイドとして働いていた。

 シークンどころか、キンドレイドとしての意識があったかのかも怪しい。

キンドレイドとしての自覚があれば魔人である私たちに畏れを抱くか、擦りよろうと考えるかのどちらかだ。たとえほかにクアントゥールを持っていたとしても、大公の長男と一一子という魅力に抗えるものは少ない。うまく取り入ることができれば、彼らのクアントゥールにもたらされる益も大きい。

公女となることを嫌がるユウノはその斜め上を行った。

私とミュウシャの相手を嫌がった。


「面白いな」

「ハーレイ兄様、ユウノ、気に入った?」

「ああ。とても。初めから私と目を合わせることができるとは思わなかったよ」


プレイムである自分を正面から見た娘。外見はミュウシャより育っていたけれど、中身は幼かった。

ロダの報告では、三百歳程度、となっていたがあれはもっと年少だね。五十年をようやく越したくらいかもしれない。

 アーバンクルの存在は総じて長命だ。その寿命に見合わず外見の成長速度は一定の所までは早い。種族にもよるが三十年もすれば、成熟する。いつまでも年少のままでは己の身を守ることができない。

 だから、外見で年齢を判断することは難しい。老年期に差し掛かるまで、肉体年齢にはほとんど変化がないからね。ユウノは一体いくつなんだろうね。

突然降りかかってきた公女という立場に戸惑い、逃げたがっていた。ダラス大公の娘になれると告げられ、反発するなんて面白い。

 まあ、父上のシークンはみんな反骨精神が旺盛だから不思議ではないけれどね。

 ユウノはどうして父に反抗するんだろうね。

幼さゆえに無知なのか、父を本気で忌避しているのか。

後者だね。彼女は、本気で父を嫌がっていた。あのヒトを罵る言葉は全て本物。

数万とも言われる年月を生きてきたあのヒトを、息子の私の前でああも罵倒できる者がいるとは想像すらしたことがなかった。


「兄様、楽しそう」

「可愛い妹ができたから、嬉しいだけだよ。ミュウシャも嬉しそうだね」

「ユウノ、可愛い」


こくりと頷く愛しい妹を抱き寄せる。膝の上に座らせ、頭に唇を落とした。


「妬けるね」

「兄様、説得力、ない」


ミュウシャがおかしそうに笑った。

確かにそうだな。

いつになくミュウシャが私以外な者を気にかけているにも関わらず、不快感がない。


「ユウノは面白いだね。するりと内側に入られたみたいだ」


私としたことが、気づかなかった。それすら不快ではない。

不安に揺れ頼りなく小さくなっていた娘。自分を取り巻く環境の変化に戸惑い、ついていけないと嘆いている。

 可愛らしい悩みだ。

 そして、自分を知らな過ぎる。

普通のキンドレイドならば、私とまともに会話などできない。唯々諾々と私の言葉に従うだろう。

それに対して彼女はどうだ。

第一に私を避けようとした。逃げられないと悟れば透き通った黒い瞳でしっかりと目を合わせて話をした。そのあたりは彼女の性格だろうね。興味を持って慰めてみれば、私を相手に父への不満を溢す。そして、最後に見せた強がりを感じさせる笑顔は、美しかった。

それが、私の気を惹くためのものではないことくらいは、わかった。


「あの子の場合、逆を望みそうだ」

「何?」

「ミュウシャの次に大切にしたくなってきたと思ったんだよ」


  弱くて強がりを見せて、顔を上げる娘。あの子の瞳が翳ることは、許せない。

こんな気持ちになるのは、ミュウシャと出会って以来だ。この長すぎる生の中で、五回にも満たない感動。

 ユウノを傷つける者は、全て排除してしまおうか。


「ユウノ、非運」

「ミュウシャ。どういう意味かな?」


どうしてユウノを哀れんでいるのかな、私の最愛の妹は。

 首をかしげると、自覚ない、兄様、面倒と返された。

 ミュウシャの言葉は、率直でそこが好ましいのだけれど今回ばかりは不本意だ。

 なぜなら、私に気に入られるなど非常に不運だろうということくらい自覚はしているからね。





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