表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

練習用短編集というかプロローグ集

結婚症候群!

作者: ヒタク

 俺は坂井賢治さかいけんじ。至って普通で平凡でどこにだってありふれている高校二年生だ。あまりの普通さに我ながらほれぼれするぜ、的な男である。

 そんな俺だが、今の状態は正直、筆舌に尽くしがたいものがある。

 そこで俺を含めて状況が理解しやすいように一つ、いや二つほど現状を問題形式にして状況を分析していこうと思う。


 第一に、ここはどこだ?


 いやいやここは確かに俺の家のはず。というか俺の部屋だ。昨日はいつもよりも早くベッドに入ってぐっすりと寝たぐらいだし、寝不足で幻覚を見ているなんて不健康極まりないことは起こっていないはずだ。

 だが、目に入ってくる情報はその事実を否定する。

 確かに窓から見える景色はいつもの俺の部屋だということを主張している。


 しかしてその窓の内側の俺の部屋はというとこれまた異常な光景が広がっていた。

 ここらでちょっとばかし他の人に自慢できる俺の部屋を紹介しよう。

 俺の部屋は何と十畳の広さを誇る。これだけで俺の部屋を自慢したくなるところだが、まだまだ自慢できるところはある。

 それは蔵書――漫画ともいう――の数の多さだ!

 俺の部屋にある漫……ではなくて蔵書はかなりの数であり、なんとその数は三千冊を超える。正直、部屋の大半を占めているのはこれだ。

 俺はこのことを誇りにしており、つい昨日も新たなる蔵書を仕入れてきたところだ。


 ――だがしかし!


 その我が自慢の蔵書達はその愛しい姿を夢か幻かのように消し、代わりに普通ではあまり見かけないような物が我が物顔で置かれていた。

 それらの筆頭として挙げられる物――つまりは俺の部屋でより違和感を醸し出している物はいくつかあるのだが全部ではないが説明しようと思う。

 まずはテーブル。それは普通の卓袱台なら家に置いてある人もいるだろう。


 だが、これはないと俺は断言できる!

 それは――大理石のテーブルだ。

 これを起きた直後見せられた俺の心境を少しは理解してもらえると嬉しい。

 さすがにこんな物を今まで俺は見たことがなかった。もちろん、現実でということだが。

 そのテーブルの上には綺麗な花瓶が立てられており、その素晴らしい花を眺めながらここで食事をする者達には極上の至福を与えると思われる。


 そしてこれまた異彩を放っている物に机がある。

 ただの机と侮ってはいけない。確かに最初こそ、この机は木でできているから普通の物かと俺も思ったがそんなことはなかった!

 この机をよく見ればそれはすぐにわかる。何というか机の表面が黒光りしているのだ。

 そしてあろうことかその大きさも俺が初めて小学校に入った時に買ってもらった学習机の少なくても二倍はある。


 こんな机の上にもまた既に置かれている物があった。そこに置いてある物を幾つか挙げると、可愛らしい装飾の付いた筆箱。買ったばかりと思われる教科書。そして勉強熱心な者たちが使うという聖書――別名・参考書――があるのだ!

 俺には信じられない! こんな物を机の上に置くなんてこと。


 ――机とは蔵書を読破するための物ではなかったのか!


 他にも色々と場違いな物――俺の部屋的な意味で――が置かれていたりするのだが、それらを紹介しているといつまでも続くことになりそうだ。ここらで一旦切り上げよう。

 最後に最もこの部屋にとって異色な物を取り上げたいと思う。

 それは――ベッド。

 勿論これもまた、ただのベッドなどではない。大きさは驚きのキングサイズ。布団やシーツや枕は極上の物を使っているのかふかふかで実に寝心地がいい。俺が今日、起きた時にいつも以上に目がさえていたのはこれだけ極上なベッドに寝たからだと俺は思っている。


 そしてそのベッドの上にはなんと天蓋がついている。全く勘弁してほしいぜ。俺はそんな少女趣味なんて持っていないというのに。

 こんな普通ではあり得ないようなベッドなのだが最期に紹介したのには実を言うと理由がある。

 それはもう一つの問題にもかかわってくる、いや問題そのものなのだが――


「あれ? もう起きていたんですか。……これからよろしくお願いしますね、賢治さん」


 ――このベッドの上にいる笑顔が眩しい金髪美少女は一体誰だというのだ!?

 その少女を説明するのに余計な言葉を使う必要はないと思う。

 ただ、圧倒的に綺麗なのだ。

 だが、それでも細かく説明するとすればまず、髪はさっきも述べたように金髪。丁寧に手入れをしているのか寝起きだというのに全くはねている所がない。むしろ髪全体が輝いているような気さえする。


 そして顔は白磁のような綺麗な肌。その上に綺麗なサファイアを乗せたかのようなこれまた美しい青い目。目の下にある鼻は端正であり、少し高いそれは頭の良さも醸し出しているような気がする。そして口。それはふっくらとした美しい薄桃色の唇。先ほど話す際に見えた歯は並びが整っており、口の中でさえも非の打ちようがなさそうだ。

 声さえも透き通るようで耳に心地が良い。

 着ている寝間着も思わず目をそらしたくなるほどの可愛らしさを見せつけていた。

 そんな俺が今まで見たことがないような美少女なのだが、一つ疑問がある。


 ――何故ここにいる!?

 俺の心がざわめき、焦り始めた時、少女は口を開いた。


「いきなり押しかけてきてすみません! 私の名前はマリエル=ベルトラム。結婚症候群を発症してしまってからあなたのことを見てしまいました」


 ここで一度、美少女は俺の方を向きながらも顔を赤く染める。


「なので私と――――結婚してください!」


 言い終わってから、さらに顔を赤くしながらも私のことはマリーとでも呼んでくださいね、などと綺麗な笑顔を見せる少女、マリー。

 俺は突然の告白に驚き過ぎて頭の中が真っ白になってしまった。




 ――結婚症候群。通称マリー・シンドローム。

 この病気は女性ならば誰にでも発症する可能性のあるものであり、発症すると激しい心臓の動悸。急激なめまい。居ても立っても居られない何か義務感のようなものを感じる。

 そしてこの病気の何といっても一番恐ろしいこと。それは病気を発症してから最初に見た異性と結婚しないと死んでしまうということだ――




「はぁぁあああああああああああああ?」


 俺はマリーの言うことに心底驚いた。

 何せ、結婚症候群は女性なら誰にでもかかる可能性のある病気とはいえ、この病気は滅多にかかることはないのだ。

 具体的に言うと、一千万人に一人という絶望的な数字だ。

 それでも何故俺のようなごくごく普通な高校生がこんなマイナーな病気を知っているのかというと、この病気にかかると結婚しないと死ぬ――というところに原因はある。


 実に馬鹿げたあほらしい症状だ。俺も実にそう思う。そして、テレビ局がこんなネタにできそうな――面白そうなことを見逃すはずがない。

 そんなわけでこの病気は発症件数の少なさの割によくテレビで放映される病気なのである。俺もテレビでよくこの病気のことを見るからこそ、存在を知っていたというわけだ。

 だがしかし、いくら俺でもこんな美少女が俺の所に来るなんてことは信じられない。

 それも俺のことを最初に見たから結婚してくれだ? 俺に都合が良すぎていつドッキリでした、というカメラが入ってくるのか待ち構えたくなる。むしろ、もうすでに周りをうかがっている俺がいたりする。


「本当なんです! 信じてください!」


 マリーが必死になって言うけど、こんなさえない俺の所に来るなんて……。

 どうしようもなく信じられず、ループし続ける俺の思考が見えたのかマリーが俺に言う。


「本当なんですよ! なんなら私のここを見てください!」


 ぶふぉっ、思わず吹いてしまった。

 マリーは俺にその豊かな胸を突き出してくる。

 この青春真っ盛りの純情すぎる俺のことを知っての狼藉か!

 頭の中はそんな訳も分からない思考に支配され、ぐるぐると迷走をし続ける。


「ほら、ここ!」


 マリーは俺に変わらず胸を突き出してくる。

 俺はそれを目に入れることを拒否する。

 俺に、俺にそんな恥ずかしい所を見せないでくれ――――ッ。


「ほら、ここですよ! この首筋の所です! ここに♀の記号があるでしょ!」


 ――え?


 ビークール。落ちつけ。しっかりとしろ。倒れるなよ、俺!

 俺の思考を支配していたピンク色の渦はいつの間にかどこかに消え去っていた。

 俺はマリーが指でさしている首筋の所を見てみた。

 確かにそこにはしっかりと♀のマークがついている。というか浮き出ている。

 そこの部分はちょっとだけ皮膚が盛り上がっており、♀の記号の形を作っていた。

 確かにテレビで結婚症候群にかかった女性は首筋に♀のマークができると聞いたことがあった。――同じように男にも♂のマークが首筋にできているとも。

 俺は咄嗟に鏡台――これも前にはなかった――に向かい、着ている寝間着の首筋辺りの布を下におろし、鏡に映した。

 ――結果として、俺の首筋にもバッチリと♂のマークが浮かび上がっていることを確認できた。


「本当に、結婚症候群なの、か……?」

「はい! だから、これからよろしくお願いしますね。賢治さん!」


 マリーの弾むような声が俺の頭の中に響き、俺は信じられないという気持ちが頭の中を渦巻いていた。



 意見・感想・誤字報告ありましたら教えてくださると助かります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ