芽生え
第12回大阪ショートショート大賞(http://writing-s.txt-nifty.com/osirase/2010/09/12-b4b5.html)に応募しようと思って書いた作品です。手ごたえがなかったため自らボツとしました。
昔の人は、自分で食べ物を作っていたのだと言う。青い石の道にはひび割れがなく、あちこちに捨ててある錆びた鉄の塊は、かつてそれに乗って人々がすごい速さで遠くまで出かけ、帰ってくることができたのだと言う。空は、今のように朝から晩まで厚い雲に覆われてはおらず、青く澄んで、太陽というものが地面を照らしたのだと言う。
今では、ミウたちに食べ物を作る方法はない。食べ物は、あちこちの壊れかけた石の建物へ入って取ってくる。耐腐食性プラスチックのパッケージに入った食べ物は、以前は何百何千と見つかって、それだけで何ヶ月も暮らすことができたが、最近はさっぱり見つからず、戦争になることが多い。
食べ物がどうしても見つからず、蓄えが乏しくなれば、別グループを襲ってその蓄えを奪うより他にない。返り討ちで全滅する可能性もあるし、成功しても怪我人が出る。深い怪我を負った者は、治すすべもなく、大抵はそのまま死んでいく。
ミウは、食べ物を自分たちで作れないかと考えた。聞いて回ったところによると、昔は動物を飼うか植物を育てるかして食べ物を作ったのだと言う。飼って食用になるような動物はどこを探してもいないので、ミウは植物を育てようと思った。入れる限りの建物に入り、植物の種を探した。種はなかなか見つからず、まれに見つけても腐っていたり、いくら植えても芽を出さなかったりした。
あきらめずに探し回るうちに、ミウは妙な種を見つけた。他のどの種類とも似ていなくて、妙に大きく丸いそれは確かに何かの種のように見えたが、詳しいことは何もわからなかった。説明書きはほとんどかすれてしまって読めなかった。
ミウはそれをあちこちに植えたが、やはり芽は出なかった。それでも、取り憑かれたようになって、ミウは種を植え続けた。考えられる限りの場所に植え続けていたある日、とうとう最初の芽が出た。
芽の出た場所は、墓場だった。墓場と言っても、毎日のように出る死体を埋めているというだけの場所だ。ミウは、残りの種を墓場に埋めた。次々と芽が出た。死体の埋まっている真上に植えた種は、必ず芽が出るのだった。
芽は育ってやがて花が咲いた。生まれて初めて見る花は大きくて、とても綺麗だった。
ミウは、嬉々として種を植えた。苗床になった人ごとに、色々な異なる花が咲くのが面白かった。綺麗な女性に綺麗な花が、たくましい人に大きな花が咲くとも限らなかった。
生き残りの男の一人が、さすがにとがめだてた。
食料が残り少ない。他グループからの襲撃も増えてきた。死体に花を植えて喜ぶのもいいが、次はお前が死体になるかも知れないぞ。
ミウは、彼に種の一つを渡して頼んだ。
自分が先に死んだら、死体の上にきっとこれを植えて欲しい。
そして続けた。
何よりも、自分にどんな花が咲くのか知ることができないのが残念だ。もしもこれから死ぬのなら、そのことだけが心残りだ。