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2 初めてのニンゲン

 公園を後にして、目的地へと向かっていく。

 先ほどの自然あふれる場所とは異なり、建造物に囲まれ、綺麗に舗装された地面の上を歩いていく。

 先ほどの公園と異なり少し閉塞感を覚えるが、ニンゲンの営みが感じられて私はなかなかに好きだ。


 あたりの建造物などを観察していると先輩が口を開いた。


「それにしてもニンゲンに遭遇しないな」


 確かに公園にも人の姿は見当たらなかった。

 おそらくここは居住区であり、今はそれぞれの活動のため遠出をしているものと思われる。


「慣れるためにも拠点に着くまでに一度はニンゲンを観察しておきたいですね」


 ニンゲンはどこかにいないものかとしばらく見まわながら歩いていると、前方から近づいてくる生命体を発見した。

 二足で歩行し、上部には対の腕が備わっている。最上部には丸みのある頭があり、その頂点からは髪が生えている。高さは概ね150から170センチ前後で、身体全体を様々な衣装で覆っている。

 間違いなくニンゲンだろう。


「ついに見つけましたよ先輩!」

「やっとお出ましか」


 観測対象との初邂逅に興奮する私に先輩が相槌を打った。

 今後の参考とするためにもここで多くを学ばなくてはと意気込む。


 ゆっくりと近づいてくるニンゲンをじっと眺める。

 あまり眺めすぎると怪しまれるだろうが、対象は手元を見つめることに夢中のようで、こちらには全く気付いていない。

 指でしきりに操作しているのを見るに小型の機器のようだ。

 何にせよ、じっくりと観察したい我々にとっては好都合だ。


 しばらく立ち止まって眺めていると、対象は5メートル先というところまで近づいていた。

 より近い位置で見ると、このニンゲンの個体情報が読み取れた。


 身長は150センチほどで、派手な色合いの服をまとまりよく着こなしている。

 顔立ち、体躯や装いを事前に学習した情報と照合してみるに20代の女性だろうか。

 手元に持っているのは長方形の板のようなもので、それをなでるように操作しているのでやはり何らかの機器のようだ。


 引き続き眺めていると、距離が近づきさすがに相手も気が付いたのかこちらと目が合った。

 2人してじっと眺めていたところだったので、少し怪訝な顔をしていた。

「怪しまれて目立つのはまずい」と思ったその時に、先輩がずいと前に出て声を出した。


「こんにちは!いい天気ですね!」


 遠くまで聞こえそうな大きな声だった。


 その時私はさすが先輩だと思った。こういう時に物怖じしないのが先輩の尊敬できるところだ。

 挨拶の言葉に初対面で使える定型文を添えた満点に近い声かけと言っていいだろう。

 これで怪しまれず、かつニンゲンとの会話を試みることができると思っていのだが、


「は、ナンパ?キモッ!」


 そう言うなり女性は足早に通り過ぎて行ってしまった。


 しばらくの間、ポカンとした表情で立ち尽くしていた。

 同じく放心していた先輩がつぶやくように言った。


「……さっきのは何がどうなったの?」


 状況がうまく呑み込めていないようだ。私だってそうなのだが。


「”ナンパ”というものはわかりませんでしたが、”キモイ”というのは”気持ちが悪い”という意味なので、良くは思われなかったみたいですね……」


「俺の声かけ何かまずかったか?」

 少し落ち込み気味の先輩が力なく尋ねる。


「いえ、私は最高の挨拶だったと思うのですが……。相手の状態や都合がたまたま悪かったのか、何か私たちの知らないニンゲンの作法に反したのか……」


 こうして私たちのニンゲンとの初接触はほろ苦いものとなった。

 ニンゲンから見ても擬態に問題がないこと、ニンゲンとの会話は問題なくできることが分かったという収穫はあったのだが、何とも言えない悲壮感が拭えなかった。


 ナンパとは何なのだろうか。

 先ほどの声かけがナンパというものに該当して、相手をひどく不愉快にさせる許されざる行為なのだろうか。

 ニンゲンとは思った以上に複雑な生物なのかもしれない。


 再び拠点へ進み始めたが、期待よりも不安が勝ったのか足取りが先ほどより重く感じた。

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