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8)デスボイス

「……」シーン


 ……あれ?

 毎度の感覚が訪れない。

 目の前からは、すすり泣く声がしてきた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい……」


 サングレは怯え切った表情をしていた。

 彼は震えながら何度も繰り返す。


「ぼくが、だめなコだから……。ぼくが、バカなコだから……」


 ぽろぽろと大粒の涙を流して詫びるサングレ。

 その姿に察した。


 そっか……、サングレは子供の頃は刃物突出の異能を上手く扱えなかったから、家具や衣服をボロボロにしてしまったり、人を傷つけたりしてしまって、両親に虐待されていたのよね……。(マフィアクターファンブックより)


 サングレが刺したくて刺したわけではないのは、目の前の彼の涙から伝わってきた。


 ガルーとアリアは私達を黙って見ていたけど、ここでとる行動は決まってるわよね!

 私はサングレに大きな声で告げる。


「サングレ! いいのよ! 気にしないで!」

「……えっ?」


 困惑している彼に私はケガした手を何でもないとでも言わんばかりに振って見せた。


「私、おっちょこちょいで毎日ケガしてるからわかるんだけど、これぐらいのケガなら、直ぐ治っちゃうの! 平気平気! それより」

「!」

 ビクッとするサングレに続ける。


「それより、急に抱きついちゃってゴメンね。ビックリしたわよね?」

「え……?」

 戸惑うサングレに私は間髪入れずにグイグイいった。


「私が悪いんだから、サングレに罪はないのよ」

「え、え……?」

「それに異能の力は、ゆっくり使いこなせるように練習していけばいいんだし! だから……」


 そう言いながら、サングレに両手を差し出す。


「これからもよろしくね!」


 彼の両手に触れて上下に揺らして握手する。


 私は『こ、これでいいのよね? これで死なないわよね!?』という心地だったけど、サングレは美しい夢でも見たかのように、瞳を見開いて輝かせていた。

 それからまた泣き出した。


「あ、あのっ! ぼ、ぼく……!」


 サングレは話したいことがいっぱいあるのか、涙まみれの顔で次々に語りだした。

 その一つ一つに私は頷いて応える。


「うんうん、今まで頑張ってきたんだよね。(訳・ファンブックで見たからね!)辛かったことも、嬉しかったことも、これからいっぱい話して、あなたのことをもっと教えてね(訳・ファンブに載ってない新情報をね!)」


 そうしていると、一部始終を見ていたガルーとアリアは子供らしからぬ様子で呟いた。


「ふーん……。サングレに刺されても突き飛ばしたりせずに、無抵抗でいるとか、面白ぇ女……」

「さとりの境地のカオ……。彼女は、いったいどうしてそこまでの精神力を……?」


 どうやら私がサングレに刺されて『あっ、死ぬわコレ! 紅龍様~』と衝動的に巻き戻り顔をしたのが彼らにとっては


『刺されたのに無抵抗でサングレを受け入れた聖人』


 に見えたらしい。

『う゛お゛っ! いっでぇッ!!』とか地声のデスボイスで叫ばなくて良かった~!


 まぁ、無抵抗なのは、あながち間違っていないのでいいよね! と、調子にのった私は、シスターらしさを見せるべく、サングレを抱え上げて鼻高々に自慢する。


「お~ほっほっほっ! ちびっこ達、見たかしらぁ? 私ほどのスーパー修道女になると、徳の力で痛みも感じな……あ、いッだァッ!」


 ドスッと、サングレの額から伸びた角みたいな刃物がこめかみに刺さった。


 プシューッと血柱を上げて倒れる私。


 サングレがまた「ごめんなさいごめんなさい!」と泣き出す。

 ガルーは「効いてんじゃねぇか!」と呆れている。

 アリアは黙々と食事の続きをし……おい! 私<<<<イモか!


 と、とにかく! 初めて私は彼らに殺されずに日を跨ぐことが出来たのだ!


 やった~! この調子で生存し続けて、いつか推し(紅龍様)の本妻の座を手に入れるぞ~! と、通信簿に『取り柄は理由もなく前向きです』と書かれたことのある私は床に倒れたままガッツポーズをとるのだった。

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