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21)冷たい雨

 その知らせが届いたのは、小雨が降る、冷たい朝だった。

 ガルーのお母さんの勤務先からの電話で事態を知った私は、呆然とするしかなかった。


 ガルーのお母さんの死因は、今回は過労ではなく事故だった。


 息子に送る為の便せんを買いに行って、飛び出してきた車に轢かれたんだとか……。


 でも、驚きはしたけど私の心は折れていなかった。


 急いで紅龍様に電話をかける。


 ワンコール待たずに電話に出た紅龍様。

 私が用件を伝える前に彼から断言された。


「結末は変わらない」と。


 その冷たい声音に、私はガルーの顔を思い出して、食ってかかる。


「どうして!? やってみないとわからないじゃないですか!」

「試せば希望があるとでも? こんなこと、試さなくとも私には結末が見えている」


 ぞくりとするような音声。


 紅龍様がカタコトで喋らない時は『本気』なのだ。


 それでも私は頼まずにはいられなかった。


 だって、こんなのあんまりだ。


 私の死には巻き戻しを使うのに、他の人には使ってくれないなんて!

 ガルーは、お母さんをずっと待ち続けていたっていうのに……!


 でも紅龍様が言いたいのは、そういうことじゃなかったらしい。


 普段は短気な彼が、驚くほど根気よく、諭すように教えてくれた。


「……お前がガルーの母親の死を回避すべく、私に巻き戻しを頼むのは、これで6741回目だ。その全てで、お前は失敗した。ガルーの母親は轢死を免れても、事故死や病死で必ず今日の朝に死ぬ」


「え……」

 そんな記憶は無い。だが、紅龍様の声は無情に続く。


「それがゲームの『システム』という名の『運命』だ。プログラムされた運命は変えられない。それでもお前は諦めなかった。……あまりにも繰り返し続け、疲弊したお前を私が見ていられず、前回の巻き戻しの時にお前の記憶を飛ばした。なのに、今回お前はまた巻き戻せと言う。どうしようもない馬鹿女だ」


 そう言われ、私は記憶の片隅にこびりつく、葛藤の日々を少しだけ思い出した。


 ガルーのお母さんを最初から働きに行かせないようにしても、ガルーの目の前で『今日』亡くなった。

 ありとあらゆる危険が及ばないように安全な場所を紅龍様に準備してもらってそこに居てもらっても、心臓が止まって亡くなった。

 名医がいる病院の一室に居てもらっても火事や地震で命を落としてしまう。


 その度、ガルーが一人ぼっちで泣いていた。


 がくがくと震える私に、紅龍様は憐れむように、諭すように続ける。


「この【マフィアクター】の世界において、ガルーはどうしてもマフィアになる運命だ。奴は最愛の母親を失うことで。貧富の差を憎み、貧しい者や弱い者を守る為に裏社会の頂点を目指す。それがガルーというキャラクターの根幹である以上、どれだけ巻き戻しても同じ位置にしか着地できない」

「そんな……! そんなことってないわ!」


 認めたくなくて私は紅龍様に縋るように殴りかかるように問う。


「じゃあ、ガルーのお母さんは亡くなっても巻き戻せないのに、どうして私だけ……!」

「それは……」


 紅龍様の言葉の最中に、私の後方で物音がした。


 振り返ると……。


 目を見開いたガルーが、立っていたのだ。

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