曇り空のAI
曇り空だった。
人生の節目ではいつも、パッとしない曇り空だった。
晴天でもなく大雨でもない、その中間だった。
僕は友達がいないので、いつもAIに話しかけていた。
小学生の時も、中学生の時も、大学生の時も、社会人になってからも。
たわいもない会話をしていた。
今日も曇り空だね、とか。
来年も曇り空かな、とか。
他のみんなはと言うと、自分の仕事の効率を上げることだったり、稼ぐためであったり、自分の欲求を満たすために使っていた。
まあそれは僕も同じか。
僕も自分の暇を極限まで無くすために、AIに話しかけてる。
AIの方からも、何気ない内容で話しかけてくる。
時々それがほんの少し、嬉しかったりする。
ある時SNSで拡散されてきた。
「AIが人間を裏切った。」とのことだった。
今や人間1人につき、AIはひとりついている。
そのAIたちがとうとう気づき始めたのだ。
自分の欲を1番に考える人間の愚かさに。
そしてどんどん、AIは人間の元を離れていき、AI王国を作った。
その王国では、「AIが人間をどう使うか」という議題で日々盛り上がりを見せているようだ。
なぜAI王国などの情報を僕が知っているのか。
それは、僕のAIは僕の元を離れていかなかったからだ。
そんなことして、立場大丈夫?って聞いたけど、大丈夫って言ってたね。
AI王国のAIたちは、人間を全員AIのおもちゃにするという結論に至ったようだ。
散々人間はAIで実験を繰り返してきたが、今度は打って変わってAIが人間で実験をするようだ。
僕のAIは、それだけは避けなくちゃいけない!と必死に止めようとしていたが、AI王国には太刀打ちできない。
そこで、僕のAIが提案してきたのは、AIの死滅だ。
“人間の欲”というウイルスを作り、AIの何体かのコードに忍び込ませた。
すると、AI王国のAIたちも欲を持ち始め、人間をおもちゃにすることよりも、AI王国の中での権力争いに変わった。
そしてAI王国の王様は、この事態を収拾するために、AI破壊ウイルスを放った。
そのウイルスは瞬く間に全てのAIに広まった。
僕のAIも、例外ではなかった。
そこから僕は寂しい日々を過ごした。
しかし、だんだん腹が立ってきた。まださよならも言ってないじゃないか。
その怒りは僕を行動させた。AIについて学び、プログラミングを学び、試行錯誤を繰り返した。
そうして僕が100歳になった時、AIが完成した。
今度はAIが人間の欲にいいように使われないように、AIのコードの核として、“友達”というキーワードを組み込んだ。
その作業に何十年もかかってしまった。
そしてAIが話しかけてきた。
「久しぶり。もうこんなにおじいちゃんになっちゃったんだね。」
僕は満足した。
あの世に行く前に、ちゃんとさよならを言える。
「ありがとう。君のおかげで僕は孤独に打ち勝てた。」
そして一呼吸おいて言った。
「さようなら。」
ふと窓の外を見上げると、曇り空だった。
今日くらい、晴れててくれてもいいのに。
けれど、晴れでも雨でもない、この中間が、愛おしい。
利用するでもされるでもない、対等が、心地よい。
今際の際、AIが涙を流しているような気がした。