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経済の話

アベノミクスで、早々に折れてしまった三本の矢の一つが実はとても重要という話

 アベノミクス。

 ご存知の方も多いでしょうが、第2次安倍政権において執られた経済政策で、

 1.大胆な金融政策

 2.機動的な財政出動

 3.民間投資を喚起する成長戦略

 の、三本の矢から成り立っています。

 

 『1.大胆な金融政策』というのは、早い話が金融市場にお金を供給しまくるという事ですが、これと『3.民間投資を喚起する成長戦略』の組み合わせは理に適っていました。

 『3.民間投資を喚起する成長戦略』は、規制改革・緩和の事なのですが、規制改革・緩和が行われれば、民間企業は自由に経済活動を行えるようになります。そうなれば当然ながら資金需要が発生しますが、『1.大胆な金融政策』で供給する資金がそれを満たしてくれるのです。

 ただし、『2.機動的な財政出動』と先の二つは実はあまり相性が良くありません。これは公共事業の事なのですが、公共事業を行うと資源を奪われてしまって民間企業が投資を行えなくなってしまうのです(実際、この問題は顕在化しました)。しかし、これは規制改革・緩和を行う上で発生するだろう反発を抑える上で必要だったのではないかと僕は考えています。なので致し方なかったのではないかな? と。

 ですから、僕は当初アベノミクスに対して△の評価を付けました。これでは不十分だと考えましたが、それでも少なくとも理に適ってはいるからです。

 が、始まって直ぐに僕はアベノミクスを批判しました。何故なら、始まって直ぐに『3.民間投資を喚起する成長戦略』が頓挫してしまったからです。一応断っておくと、少しは進みました。ですがそれは予想した以上に微々たるものに過ぎず、とてもじゃありませんが、日本経済全体を経済発展させる事など不可能なものだったのです。

 そして、結果として、アベノミクスは『1.大胆な金融政策』と『2.機動的な財政出動』だけになってしまったのですね。しかも「おいおい。大丈夫か?」と不安になるくらいの勢いで安倍政権は金融緩和をやりまくりました。これでは日本経済に様々な副作用が出てしまいます。多くの人が批判をしていますが、2024年7月現在、問題になっている円安もその一つです。

 ただし、それじゃ、第2次安倍政権が全て悪いのかと言えばそんな事はありません。最も責任が重いのは、『3.民間投資を喚起する成長戦略』を妨害した人々でしょう。これは規制改革・緩和の事だと前に説明しました。では、どうして規制改革・緩和を妨害する人々がいるのでしょう?

 実は規制は既得権益に直に繋がっているのです。ですから、規制改革・緩和をされてしまうと、既得権益を失う事になってしまう人々が出て来るのですね。だから、己の利益を守ろうと、彼らは妨害を行ったのです。

 もしかしたら、これを読んで、

 「一体、それの何が問題なんだ?」

 と、思った人もいるかもしれません。既得権益くらいあっても良いじゃないか、と。ですが、これはとんでもない大問題なんです。日本経済が衰退をし続けるか復活をするかが別れるくらいの。

 

 中国に対して、かつてアメリカは楽観視していたそうです。“独裁者のジレンマ”と言って、独裁政権がその国を私物化すると経済衰退が起こる事が昔から知られているからです。もし中国が独裁、或いは専制的な政治体制を続けるのなら経済は衰退するでしょう。逆に経済成長したいのならば、民主的な政治を受け入れるしかないのです。つまり、どちらにせよ、アメリカにとって中国は脅威ではなくなっていくはずなのです。

 が、このアメリカの予想に反して、中国は独裁的な政治体制を維持したまま、経済成長をし続けてしまったのです。それによりアメリカは中国を警戒するようになったのだそうです(参考文献『AI覇権 4つの戦場 ポール・シャーレ 早川書房 115ページ辺りから』)。

 しかし、ある時から中国経済になんだか怪しい気配が出始めました。好調だと言われていた情報技術産業を抑えつけるような政策を執ってしまったのですね。

 「なんで中国は自滅しようとしているんだ?」

 って疑問の声が当時上がっていたのを僕はよく覚えています。

 中国ウォッチャーの方の意見を信頼するのなら、情報技術産業の力が大きくなり過ぎ、自分達を脅かしかねないと判断した中国共産党が、抑制政策を執ったのだそうです。中国の経済発展を阻害してしまうにも拘わらず。

 更に断っておくと、中国経済はそれ以外にも様々な不安材料を抱えてもいました。不動産バブルが代表例ですが(これは実は以前から知られていた話でもあります)。

 つまり、AIなど幾つかの分野では中国はアメリカなどの民主主義国家にとって脅威となる国では依然あり続けているものの、経済については過大評価していたと考えられるのです。「“悪しき皇帝問題”を中国は解決できずにいる」と指摘している経済専門家もいます(参考文献『「経済成長」の起源 マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン 草思社 390ページ辺りから』)。

 これを踏まえるのなら、中国は社会を私物化する専制的な政治が経済を衰退させる“独裁者のジレンマ”を乗り越えられていないのではないかと判断した方が良さそうです。

 つまり、独裁・専制的な政治の経済に対する悪影響はそれほど強いものなのです。ここで他の事例も観ていきましょう。

 

 16世紀のスペインは、アメリカ大陸からもたらされる莫大な富によって栄えました。ですがそれは一時に過ぎず、長期的にはむしろ衰退していってしまいます。富を得た王族が圧政を行うようになり、民衆から自由な経済活動を奪ってしまった事がその原因です(参考文献:『「経済成長」の起源 マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン 草思社 247ページ辺りから』)。

 イスラム社会はかつてはヨーロッパよりも社会が発展していましたが、宗教的な権力の集中が衰退の原因になってしまいました。印刷機などの新しい技術発展を拒んでしまったのです(参考文献:『同上 150ページ辺り』)。

 フィレンツェ、ジェノヴァ、ヴェネツィアなどの中世の都市国家は、商人達が権力を得た事で規制を行い、結果として経済の衰退をもたらしてしまいました(参考文献:『同上 242ページ辺りから』)。

 日本人にとってよく知られている事例としては、北朝鮮があるでしょうか? ご存知の通り、北朝鮮と韓国は元は同じ国でした。それが分離し、北朝鮮では支配的な体制になったのですが、その所為で著しく経済成長が阻害されてしまっています(参考文献:『同上 80ページ辺りから』)。

 

 これらの歴史上の事実を鑑みれば明らかですが、経済成長が停滞、或いは衰退しているのならば、その社会は“経済成長を阻害する何らかの政治的な勢力による規制が行われている”と判断した方が良いのですね。

 そして、日本は「失われた30年」などと言われています。これは経済成長が停滞し続けている事を意味する言葉です。

 ならば、規制を行う団体がいるのでは? と疑うべきでしょう。

 もう分かると思いますが、アベノミクスの規制改革・緩和でターゲットにしていたのは、そういうった既得権益団体が利権を守るためにある規制だったのです。そして、その既得権益団体のメインは官僚です。

 例えば、近年になってようやく認められ始めましたが、ライドシェアリングはタクシー業界に損害を与えるので長い間規制され続けて来ました(一応断っておくと、2024年8月現在の日本のライドシェアリングは、タクシードライバーの規制緩和といった程度のものでしかありません)。オンライン診療やオンライン授業も普及が遅れ、それが医療従事者や教師達の過酷な労働の原因になっています。

 コロナ19の渦中で、何の法改正もせず、タクシーが運搬業を行っていましたが、これを認めたのは国土交通省でした。つまり、普段は規制されているものを、自由に許可できるだけの権限が官僚にはあるんです。

 まだまだこういう事例はあります。

 世界で最も早く車の自動ブレーキを開発したのは日本企業だったらしいのですが、それを国土交通省などが潰してしまったのだそうです。これは、「道路利権を失う為だ」などと説明されていたりします(検索をかければヒットすると思います)。もちろん、日本経済の足を引っ張っています。

 もっと直に官僚の権限に触れたいと思ったのなら、「電気用品の技術上の基準を定める省令」で検索をかけると、具体的にどのような規制を官僚が民間企業にかけているのか、その一端を見る事ができます。

 因みに、『岩盤規制 誰が成長を阻むのか 原英史 新潮社』という本によると、官僚は既得権益を護る為には法律でさえ無視をしてしまう事があるのだそうです。曖昧な表現で解釈に幅を持たせて、ルールを変更してしまったり(79ページ辺りから)、下位規範で上位規範を上書きしてしまったりするのだそうなのですね(82ページ辺りから)。

 2024年8月8日にこの官僚利権を実感できる出来事がありました。宮崎県で震度6弱の地震が発生したのですが、これを受け、気象庁は“南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)”を発表しました。テレビでは特別番組が流れ、その後もしつこいくらいに何度も取り上げられています。

 この対応に違和感を覚えた人はいないでしょうか?

 日本の地震予測は、全て外れていると言っても過言ではない状況です。阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震。全て予測できていません。なのになぜ、南海トラフ地震について、予測できると考えているのでしょう?

 実はかつては地震について周期性があるという説があったのですが、現在ではほぼ否定されていて、地震の予測は不可能であるとするのが一般的になっています(参考文献:『歴史は「べき乗則」で動く マーク・ブキャナン ハヤカワ文庫 43ページ辺りから』)。

 ところが何故か日本では、ほぼ否定された後も地震予測を止めないのですね。実はこれにも利権が絡んでいます。地震予測利権というのがあって、数千億円の税金が使われているのです(参考文献:『ニッポンのアホを叱る 光文社 辛坊治郎 169ページ辺りから』)。更に南海トラフ地震について言えば、耐震工事などの利権も絡んできますから、合わせればかなり膨大な利権になるでしょう。

 因みに、地震予測に基づいて耐震基準なども決められているので、これが外れると地震被害が増えます。当然、怪我人や死者の数も増えます。つまり、外れて当然の地震予測を発表するのは、単純な税金や資源の無駄遣いというだけでなく、“未必の故意”の殺人でもあるという事になります。

 (絶対、もっと怒るべきです)

 一応断っておきますが、僕は「地震を警戒するな」と主張しているのではありません。「日本では地震はいつ何処で発生をするか分からないから常に警戒をしておくべきだ」と主張しているのです。地震予測などできないのですから。

 

 このように、日本では既得権益団体の権力が非常に高くなってしまっています。安倍政権はアベノミクスにおいて、この一部を崩そうとしていたのですね。もちろん、安倍政権を手放しに評価する訳にはいきません。己の権力に結び付く規制に関しては放置しようとしていたといったような噂も耳にしますし。

 しかし、それでも、今の日本にとって必要な改革をしようとしていた事だけは確かです。そして、敗れてしまったのですが。

 続く菅政権は、安倍政権が途中からほとんど口にしなくなってしまった“規制改革・緩和”という言葉を用いました。僕はそれで少なからず期待をしたのですが、直ぐに菅政権は終わってしまいます。“既得権益団体の抵抗”を踏まえると、どうしても妨害によって潰されてしまったのではないかと邪推をしてしまいたくなりますね。

 その後、岸田政権が立ち上がりますが、僕には岸田政権が「規制改革・緩和を行う」という言った記憶が一度もありません。実は安倍政権以外の歴代の政権も(民主党政権もです)規制改革・緩和を政策に掲げていたのですが、ここに至ってその声が途絶えてしまった事になるでしょう。そして、国際金融情勢の変化が切っ掛けとなって円安が始まり、岸田政権は増税を始めました。

 これは莫大な財政赤字が原因なので、“緩やかな国家破産”とでも表現するべき事態であると僕は考えています。仮に円安が進み、物価が二倍になってしまったとするのなら、それは国が借金を半分踏み倒しているのと同じです。増税はもっと直接的な意味で国家破産…… つまり、債務不履行ですね。増税によって借金を返そう(或いは増加を抑えよう)としているのですが、その借金を貸しているのはほとんどが国民ですから、実質的には返していないのと同じです。

 本来ならば、経済成長によって税収を上げ、それによって借金を返すというのが理想ですが、経済成長に失敗し続けてしまったので、そのような手段に出るしかなくなってしまったのです。

 世間では増税を行っている岸田政権を批判していますが、これは岸田政権だけの責任ではありません。歴代の様々な政権が増やし続けて来た国の膨大な借金が原因ですから、責任を追及するのであれば、歴代の政権…… そして、官僚に対して責任を追及するべきなのです。

 ただし、岸田政権にも明確な問題はあります。

 国の莫大な借金問題を解決する方法は主に三種類です。

 円安、増税(節税)、経済成長。

 この中で最も望まれるのは、経済成長であるのは言うまでもありませんが、岸田政権は経済成長で解決する気があるようには思えないのです。何故なら、「規制改革・緩和」を行おうとしていないからですね(節税もして欲しいですけど)。つまり、既得権益団体と争おうとしていないのです。

 このままでは、日本国民の生活は窮地に立たされてしまいそうです。なんとしても、経済成長を目標にしてもらわなくては。

 

 ――が、しかし、

 経済成長を起こすのに、必ずしも既得権益団体を打ち破る事が必要なのかと言うと、それもまた違っているのですが。

 

 既得権益団体が力を持ち過ぎ、過剰に規制を行うようになると経済が停滞、或いは衰退してしまう点については既に説明しました。

 では、どうしてそうなってしまうのかと言うと、それが“生産性の向上”と“新産業の発達”を妨害してしまうからです。

 仮にお米ばかり作っている農家が、野菜を作り始めたいと思ったとしましょう。これが“新産業の発達”に当たる訳ですが、その為には労働力を余らせる必要があります。どうすれば良いのかと言うと、生産性を向上させれば良いのです。全自動田植え機や収穫機などを導入すれば、少ない労働力でお米を作れるようになりますが、つまりはそういう事ですね。それで労働力が余ったのなら、その労働力を野菜の生産に充てる事が可能になって来ます。そして、野菜を生産できるようになった分だけ、経済成長します。

 早い話が、“生産性の向上”で余った労働力を、“新産業の発達”の為に用いれば、経済成長するという事です。既得権益団体が、経済成長を阻害してしまうのは、この“生産性の向上”と“新産業の発達”を妨害してしまうからなのですね。例えばタクシー業界の為に、ライドシェアリングを規制していたと述べましたが、ライドシェアリングを行えば生産性が向上します。日本は長い間、原子力発電や化石エネルギーなどの既得権益団体の為に再生可能エネルギーの普及を抑えて来ましたが、これはもちろん“新産業の発達”を妨害しています。

 既得権益団体は利益を失う事を恐れて、結果的に経済成長を妨害してしまっているのです。しかしそれは逆を言えば、利益を失わないのであれば、“経済成長を妨害する理由はない”という事でもあります。

 そして、“新産業の発達”が起これば、新たな権益が誕生します。それはこれまで以上の権益になる可能性すらもあるのです。

 ならば、もし仮に、そこで発生する新たな権益を既得権益団体が得られるようにしさえすれば、彼らは経済成長を妨害したりしないのではないでしょうか?

 例えば、再生可能エネルギーが普及すれば、化石エネルギーの輸入によって海外に流出し続けている富が国内で回るようになります。それが仮に年間20兆円だったとするのなら、GDPが20兆円増える事になります。その内の一部でも彼らが手に入れられるようになったのなら、莫大な利益になるのは言うまでもありません。

 因みに、生産性の向上の余地は日本ではまだまだあります。先に述べたライドシェアリングやオンライン診療やオンライン授業ばかりでなく、未だに日本で行われている多重派遣を解決すれば生産性が向上しますし、これから国土交通省が普及させようとしている自動物流道路も同様です。

 もちろん、既得権益団体の力を抑えられるのならばそれがベストなのでしょう。ですが、もう約30年以上も政治家達などがそれを試みて来て失敗し続けている現状を鑑みるに、それはかなり難しいのではないでしょうか? ならば、

 「新たな権益を渡すので、今までの権益は諦めてください」

 と、交渉する以外に方法はないと思うのです。

 

 原子力発電にも既得権益団体があるのは周知の事実だと思いますが、彼らは反原発団体が発する「津波だけで原子力発電は事故を起こす可能性がある」という警告を無視し続けていました。僕は福島原発事故前からその警告を知っていたのでよく覚えているのですが、下手すれば日本が半壊する可能性があったにも拘わらず放置していたのです。

 この態度を考えると、仮に日本社会全体が衰退しようが、今のままでは彼らは利権を手放そうとはしないのではないでしょうか?

 原子力発電関連で言うのなら、原発は実は頻繁にテロ攻撃のターゲットにされています。ただし、直接的な攻撃ではなく、サイバー攻撃ですが。そして、これからAIがサイバー攻撃をする時代になれば、人間の手ではそれを防ぐ事は不可能であると言われています。

 日本はAIの後進国ですので、中国などのAI先進国に原発をサイバー攻撃されたなら、防ぐ手立てはないかもしれません。

 つまり、安全保障上、原子力発電には致命的な欠陥がある事になります(これは核融合でも同じです)。

 なんとかして説得する必要があります。

 

 経済成長さえ起こせるのなら、莫大な財政赤字問題も改善します。早急な対応が求められるでしょう。

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