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アイドルだから口説きも得意。

大会も終わり、人気がなくなりつつある闘技場に、光堂リンはいる。


「これで、しばらくは楽できるね」


「そうだね」


大金の紙幣を懐へしまい、さてこれからどうしようということになる。


「今日は泊まる?それともどこか別の場所へ行く?」


「……祭りはまだあるし、今日ぐらいは遊びたいな」


「いいよ。アリストもそれでいい?」


そう聞くと、頷きが返ってくる。


外へ出ると、ラストスパートなのか、客寄せが激しい。


「色々あるねえ」


「商業的に、ここは色んなものが集まりやすいんだ」


魔物の肉らしいものを買い、食べてみる。


おお、美味い。


「アリストも食べなよ」


小さい一口、そして何回も噛んだ後、呑み込む。


「美味しい?」


「もう一回」


小さい一口、噛む、呑む。


「美味しいんだ」


ジエーデにも食べさせれば、美味という感想が出てきた。


「料理の文化はあるのかな」


単純に考えれば魔物という種類の動物が追加されているのだから、素材は大量にあり、なのなら研究も大量に行われているのかもしれない。


別の屋台へ行き、次は魚を買ってみる。


珍しいことに刺身であり、フォークを渡された。


(魚は好きだぞ)


老人くさい水龍の声を聞きつつ、特に薬味もなしに食べてみる。


「新鮮でちょっと冷たいな」


「そういう魚なんですよ。表面が常に凍ってるような奴だから、鮮度がずっと保てて、寄生虫の心配もないですよ」


「だから生なんだ」


これもジエーデとアリストに食べさせる。


その後も、食べて、食べて、飲んで。


繰り返して楽しんだ。


中には面白い味、汚い伝え方をすれば美味しくないものもあったが、大体が美味であった。


それは素材がいいからだと、わかっている。


「アイスクリームまであるとはねえ」


デザートを食べ、ベンチで休憩している。


「ねえ、リン」


「なにさ」


「これから、どうするの?旅をするにも目指す場所があったほうがいいと思うけど」


「とはいってもここら辺のことなんて全然知らないしな」


「だったらさ、王都に行かない?」


「いいけど、なんで?」


「王都には色んなものがあって、特に貴重な魔物の素材は殆どがそこに集まるんだ」


「ほえ」


「そこで剣とか、買ってくれないかなーって」


期待の眼差しを向けてくる彼は、子供だった。


「いいよ」


「……ありがとう!」


「明日から向かうかあ」


いやあ平和だなあ。


アイスクリームを食べて、美味しいものを売っている屋台があって、たくさんの人が笑っていて。


「爆発だぁーーーーーー!!!!」


嘘だ、そんなテンポがいいことあるものかよ。


しかし事実闘技場の方から爆発がしたのだから、疑いようのない事実である。


「ねえ、あの爆発こっちにきてない?」


嘘だ、そんな不幸なことがあるものか。


「ジエーデ!アリストを連れて逃げろ!」


私はそのまま走り出し、人混みの流れに乗らないため建物の壁面を歩く。


「一番安全なのは、どう考えてもリンの側!」


ジエーデもそれに続き、アリストを抱えて建物の壁面を駆ける。


爆発の主は、手当たり次第魔法で辺りを破壊している、女だった。


「私と同じ黒い髪だから、ヒヨドリィナ!」


今日の昼ぐらいにお会いしたチャンピオンが、何故か無闇矢鱈に人を殺している。


「私に負けて自暴自棄にでもなったか!?」


私の声には反応せず、魔力を固めたレーザー光線で辺りと人を薙ぎ払っている。


止める為に彼女へ向かい魔法を撃つ。


圧縮された水が勢いよく発射されるが、大したダメージにならなかった。


「金属ぐらいなら打ち抜けるのに」


壁から離れ地上に降り立てば、より戦火が人として体感できる。


屋台の後、人の死体。


祭りは血祭りに変わってしまっていた。


「この感触は、乗っ取られているのか」


あの影の存在を微かに感じる。


「乗っ取られてはないわ」


しかし彼女はそれを否定する。


「受け入れたんだな、その影を!」


私が指摘して見せれば、高笑いというイエスが返ってくる。


何があったのか、いやそれはわかるよ同類だから。


「思い切ったね、生まれ変わりと呼べそうだ」


「そう?変えたのはあなたよ」


「それはどうも」


ひとまず周りの人は、生き残りはジエーデが自主的に回収している。


ならば止めるか、それとも……


「契約というか、約束として、貴方と戦うように言われてるの」


黒色の剣を無から2本取り出し、構えて見せれば昼間以上の迫力がある。


一方私は丸腰なのだから、見かけ上は不利だ。


「龍装、水!」


青い光が私を包み、王のような外装を作る。


澄んだ空のように、濁りのない水のように美しい色合いで纏われたそれは、まさしく輝きを放つ。


水を模したイヤリング、青く美しい龍の尻尾、二枚の羽。


最後に出来上がるのは細身の剣。


青い宝玉が持ち手の部分に嵌め込まれた、銀色に輝く剣。


「名乗るのは初めまして、私の名前は光堂リン!キラメクアイドル!」


変身時の余波で火災は全部水で消化した。


太陽沈みゆく今は、暗さが空間を占めている。


合図なく始まった決闘は、私の先制攻撃から始まる。


剣の刀身が水に変化し、それをムチのように扱ってみせる。


私の筋力と水に込められた魔力が触れるものを粉々にしていくが、彼女はそれを二本の刀で捌く。


(強い)


影の出力のようなものが上がっているのか、動きにキレがある。


(惚れてるからといって手加減してないで、さっさと殺せばよかろう)


人の価値観を無視した声には同意したいが、生憎そういう気分ではない。


青龍さんの力を身に纏って戦っている以上情けないことはできないのだが、だといえど殺すつもりはない。


「人殺しがやりたいこととは、野蛮だねえ」


「いいでしょ、復讐なのよ」


「終わったらどうする」


「さあ?この影の赴くままよ」


「つまんないね」


「誰も私を救ってくれないから、こうもなる」


「そう。社会の不条理を全て受ければ、そうもなるよね」


「わかっているなら邪魔をしないで」


「邪魔はしてないよ」


近距離戦に持ち込み、投げ技を放つ。


「私の方に来ない?」


「嫌よ」


受け身を取り私から距離を取れば、魔法の射程距離になる。


彼女の近くに無数の剣が無から生まれる。


(なんでもありだな)


一斉に飛んでくるそれを、私も魔法を使い弾き飛ばす。


水の爆発を起こし、剣全てを破壊した。


「男は私の事を女として見る!女は私を男として見る!私個人は誰も見てくれていない!肩書と性別だけで私を見る!」


恨み怒りがこもった攻撃は重く、衝撃で足元が粉々になる。


半壊し、見渡しの良い景色になっていくこの街が、人の集合体である街が、彼女は嫌いなのだ。


「やっと手に入れた、幸福と呼べそうなもの!輝かしい人類最強の地位、それすら奪ったのは貴方!光堂リン!」


二刀流の剣をこちらに向かい投げれば、ブーメランみたいな軌道でこちらに迫り来る。


「こんなものじゃないよ!」


さらにもう二本、四本、無数に飛んでくる刃をバク転して避ける。


「こざかしい!」


避けるのも面倒になった瞬間、隙間を縫い相手との距離を詰めて向き合う。


私の斬撃が彼女を弾き飛ばす。


殺さないよう調整されたそれは、体力を奪ったはずだ。


「やはり貴方は、私の元へ来る方がいい!」


「何を!私を救うとでも!」


「救わないね!救えないね!」


「なら、関わらないでよ!」


「私を見ろ!私と共に歩けばいい!」


「プロポーズのつもりか!?」


「そうだ!私の側に来い!そんな影に頼らずとも、私がこの街を破壊してやる!私が次に生きる理由を与えてやる!」


「それのどこが、私の幸せなのよ!」


「私はお前に、惚れたよ!」


「なっ」


「女として、恋愛対象として見られたかったんだろ!セックスなんぞの関係でなくて!ただ寂しさを埋める為の、友達のような人が!」


「善人ぶって!」


「善人……?私は貴様のためになら、人殺しもできるけど」


「じゃあ、私をその気にさせてよ!生きたいと思うように、させてくれよ!!!貴方がいればそれでいいと、思わせてよ……」


「辛かったのだろう。私にそれはわからないけど、生きたいのはわかるよ。そして生き方が見つからないのもわかるよ」


剣を構えて、姿勢を低く。


「でも大丈夫!私が連れて行くよ!振り返った道が誇れるような場所に!」


走る。


今生一番の全力で。


私の剣が煌めいて、流れ星より美しい奇跡を描いて彼女を切る。


光の軌跡の後には、彼女の影が分離していた。


倒れる彼女を片腕で抱えれば、拳一つもない距離で綺麗な瞳が見える。


「私はアイドルだから、人を魅了するのには慣れているんだ」

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