何がために人と関わるのか。
「結局、わからずだ」
彼はそういい、肩をすくめる。
「なあ、リン。お前はどう思う」
何を、とは言わずともわかる。
何が、も言わなくてもわかる。
「お化けじゃないですか」
「そうかもな」
結局今は死体を焼いている。
聞けば埋めるわけでも無く、ただ全てを燃やし尽くす、骨すら焼き、残ったものは粉としどこかへ飛ばす、それがこの世界の一般的な葬儀らしい。
(消えた肉がどこかへ巡り、魔力を持つ骨がどこかへ飛び、魂が巡り巡り生まれ変わる)
魔力という人が持つエネルギーがあるのなら当然自体の扱い方も変わる。
燃えている。
燃えている。
炎は揺れる、炎は盛る。
色が変わり緑に、赤に、青へ黄色へ。
(これを見れば、人は火葬を選ぶ、多少グロテスクでもこれが美しいと、別れ方として相応しいと)
一重に魔力と言えど、その性質は様々らしい。
人により使える魔法が限られているのもそれが理由なのだろう。
水を操ることしかできぬ魔力、風を吹かすだけの魔力、そういうのだろう。
それが炎と反応して、色を変える。
そう、これは魂の色なのだ。
人個人が持つ魔力が作る色は、その人の色と言っていい。
(それが混ざれば炎の色はゆらゆら揺れる)
炎が一人でに消え、残った骨を皆で砕く。
それを集め、一人の人が魔法を使い飛ばす。
「ああ、死者よ、願うことなら大地へ戻り咲いてくれ」
別れの言葉と共に次の行動をする。
遺品整理、この滅びた廃村から残ったものを集めるのだ。
「本当は、寄生型の魔物とかなら、わかりやすいものだったんだ」
「そうですか」
「生きた者にしか寄生出来ないのは当然だし、人語を話せるわけでもない」
あれは歪だと、彼は言う。
「何処へ行ったんでしょう」
「さあな。リン、今から言うのは善意だからな」
「はい」
「アレのことは忘れろ」
「嫌です」
「死ぬかもしれないのにか」
「ええ」
「何故だ」
「彼、泣いていました。そして見えたんです、彼の心が」
「ヒーロー気取りか?」
彼は私の胸ぐらを掴み持ち上げる。
怒りだ、怒りの善意が私を見つめている。
「お前のようなやつは何人も見てきた!そして死んだ!俺たち人間は、ああいう超常的な存在には敵わないんだ!それを理解できず、己が力を過信し死んだやつは無数にいる!貴様もその一人になりたいのか!?」
顔面を殴り飛ばされ、私は地面に手を付く。
痛くはない、彼より私の方が強い。
しかし彼の思いは強い、それに対し私は向き合わなければならない。
「私だって、沢山見てきましたよ」
起き上がり、彼を見つめる。
言うのだ、私の気持ちを。
「アイドル、それが私の職業です。人を魅了し、人に幸せを届ける。そのために偶像となる、そんな職です」
見てきたんだ、沢山の仲間を。
「沢山の人がその肩書き、肩書をもつものが作る光に魅入られ、歩みを進める」
しかしそれは、簡単な道ではない。
「アイドルは他者のためにある、他者のためにしかない。だから常に他人を意識する。自分の外見、内側、何もかも全てが他人に好感を促すために変わっていく」
それは自分殺し、自殺と何ら変わりない。
それ故に人は限界を迎え、破滅する。
「ユニットを組んでいた時、嫌だ嫌だと叫ぶ仲間が引き連れていかれるのを見たことがあります」
あの叫びは防衛反応、理性が限界を迎えた証拠だった。
「その彼女が、私に、仲の良い私に、限界を迎え衰えた顔で言ってきたんです」
あれはいつでも思い出せる。
忘れてはならないからだ。
「私の、自分の足を折ってくれと」
「それとこれに、何の関係がある!」
「彼も、あの女と同様に己が死を望むようになる!自己の命を自分で折れず、他者に自己を殺すよう懇願する、哀れな知能動物に!」
それは愚かだ、哀れで、どう足掻こうが不幸で後ろ向きなのだ。
「だから私は助ける!自己満足のエゴを駆り立て、彼へ手を差し伸べる!」
「無理に決まってるだろ!あんなバケモノはほっといて、あの女と平和に暮らせば!」
「あれは人を殺す!だから止めるしかない!その役割を他者に押し付け平和を感じられますか!?何処へ行こうが無理ですよ!」
「お前に殺せるのか!」
「殺せる!彼が救いを求めるなら救う!諦めるなら、尊重しあのバケモノごと殺して消し去る!」
「……」
彼はもう、何も言わなかった。
理解したからだ、私の考え、私の信念、私が人を殺せることを。
熱く燃えたぎる私の意思は、嫌でも伝わってくれた。
熱い、暑い、心が跳ねている、動いている。
「呼んでいる」
ダブルミーニング、呼ばれて呼ぶ。
だから私には何が起こるかわかった。
火山が噴火し、その中から一つの影が浮かび上がる。
ドラゴン。
西洋で作られたデザインが、私の視界に入る。
それは、宝玉となり、私の目の前は飛んできた。
「貴様は、あの青年を殺すのか」
威厳と力に満ちた尊大な声は、私へ問う。
「彼が望むなら、殺します」
「そうか」
赤い宝玉はルビーより美しい。
噴火を続ける火山だが、それは全て宝玉へ集められている。
不思議だ、火山のマグマも、飛び出た岩石も、全て小さいガラス玉に取り込まれていく。
「俺も、あの青年には借りがある。そして、あの影にも。あの影に殺された恨み、俺の村を破壊された恨み、あいつを、青年を、ジエーデを見送りたい気持ちがある」
「なら、よろしくお願いします」
赤い宝玉が輝き、私の中へ取り込まれる。
熱さが私を支配する。
その熱が私を突き動かす。
「私が人を助けようとするのは、火葬をするようなものです」
巨体へ問いかける、今の不思議な現象を受け止めた彼は、優秀なのだろう。
「恨み殺されるのは嫌でしょう。ただ風化するのも嫌でしょう。だから私が彼を見送ります」
「そうか」
笑った、諦めでは無く、呆れたように。
「不思議なやつだな」
「ええ。自分でも思います」
「でも、それがお前の信念でも、無理しなくていいんだぞ。人の足を折ることが、ずっと正しいと思わなくても、あの青年を殺さなくても、いいんだぞ」
「……ありがとうございます」
「いいんだ。生き急ぐ奴を止められない男の、せめてもの言葉だから、自己満だよ」
「それでも、善意はありますから」
「多分、アイツは戻ってくる。人を殺すために。お前が今取り込んだ、炎の龍の力を奪うために。だから急げよ」
「はい。アリストをお願いします」
「ああ。じゃあな」
私は走る。
一歩で数百メートルは飛ぶ、二歩で何千メートルも跳ぶ。
さらば友よ、私は行くよ。
ただ人を助ける、偶像を演じるために。




