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影に飲まれるな。

馬車はガタンガタンと揺れていく。


誰も口を開かないのだから、この音だけが空気を支配する。


(気まずいのだろう)


青い声が私にだけ響くが、それには誰もが同意できる。


(そもそも、金が欲しければお主一人で行えば良いのではなかったのか)


(お金の心配は必要ありません。今のところは手元の金で賄えますし)


そう、ならば、今が良いのなら、次に考えなければならないのは次だ。


(名声が必要なんです。実力を証明したもの達と共に行動した事実、多額の金がかかった問題を解決したという事実、力あるものより強さを示すこと)


だからここにいる。


名声は欲しい。


他者に見上げられることの何と楽しいことか。


私は、アイドルになりたい。


この世界初のそれになれれば永遠の称号が手に入るような物であるからだ。







今回の問題は魔物退治であり、そのためには調査が必要である。


「焦げ臭いね」


近くに火山が見える、石材で作られた家が立ち並んでいた村を歩く。


崩壊した建物達は、白く粉々になって茶色い地面を染める。


「よくあるんですか、こういうの」


横にいる巨漢、つまりこのグループのリーダーへ話しかける。


「……なくはない」


素っ気ない声は、距離を測っているからだ。


「焼いて食うというわけでもないのに」


「……そうだな」


彼は自分の頬を両手で叩く。


落ち込んでいるのか、それともいつもこうなのか、初対面の私には判断できなかった。


「お前のことは調べさせてもらった。だから、あまり世の中に詳しくないお前のために、一つ一つ説明していく」


「はい」


「魔物と人、俺たちとアイツらは、互いに共生関係でもあり、敵対関係でもある」


「ほお」


「強き魔物は大地に恵みを、人には平和を。賢き人は恵みを使い作物を育て、平和に感謝し供物を捧げる」


相互的に支え合っているのだということはわかる。


「でも全部の魔物がそうではない、みたいですけど」


「ああ。これは互いに得とコミュニケーションが取れて成立する。相手に知恵がなければ人を殺す。こちらが供物を用意できないのなら、殺しあうしかない」


共存はできる、話し合いもできる。しかし根源は違うのだ、違う種類の生命体なのだと、彼らは知っているのだろう。


「人が魔物に仇なすのは、いつも後からだ。だから人が原因で争いは起きない。けれど魔物は動物だ、魔物は動物が魔力を持ったもの、だから習性には野生動物と同じものが当てはめられる」


「縄張り争い」


「そうだ、そして今回もそれが原因だと踏んでいる」


「ひどい有様、それでも巻き添えだけと」


滅びたのは村だけでなく、近くの平野も焦げつきている。


薄いキャラメルの色が、焦げたカラメルの色になっていれば、そしてそれの面積が村より大きければ、ここは巻き添え、被害の端だとわかる。


「……縄張り争いなら、勝つことを前提とした戦いなら、人を巻き込む理由がないのでは?どうせ勝てば支配できるし、支配した方が得なはずであるというのは、知能が低くともわかる話でしょう」


無論、動物であるなら理屈を理解できない阿呆がいるはずだが、この地域を支配しているものに勝とうとすれば、すなわち魔力を多く持とうとすれば、それは知恵の発展が相関して起きるのではないか。


起きたのなら、人とコミュニティを作れるのではないか。


今感じた疑問を率直にぶつけてみれば、彼は真面目に考え答えてくれる。


「わからん」


それで出たのが、その言葉なら、私はそれを受け入れよう。


「それを調査し、問題があるのなら解決し、遺品があれば回収を、そんなことをこなさなくてはならないから、俺たちのような上位が優先される。いかなる場合にも適応できるポテンシャリティを秘めた俺や、お前のような強き人間が」


「そうですか」


やればわかる、彼はそう言いたいのだ。






「あ」


「あ?」


死体の山を燃やそうとすれば、彼女は、アリストは音を出す。


ここの今まで、ただ私のそばにいただけの彼女は、私を見ている。


「どうかした?」


「同じ」


彼女の声は酷く歪だった。


壊れたスピーカーから聞こえる音みたいに、酷く人を不安にさせる。


喉のケアもしていかなくてはならない。


「同じのが、いる」


彼女は指を刺す。


刺した先には、人の影。


そして、死体の山。


「同じ……」


意味もわからず、私はその人ではなくなったものの塊を見つめて、見つめていれば、


そこから人が飛び出してきた!


「嘘!」


焦げ付いた体が再生して、麗しい肌が蘇る!


「アリスト!下がって!」


落下を加え、動く死体は私を蹴った。


重く、強く、痛さを促すその衝撃に、私は向き合った。


「大丈夫か!?」


不可解な現象を受け止めた他の人たちが私のそばに近寄るが、善意は今の私には邪魔なのだ。


裸の死体は彼ら彼女らに近づくため、私を無視して走り出す。


「させるわけにはいかない!」


(止めろ!)


それを阻止するために、私も走る。


だからすんでのところで攻撃を阻止できたし、未知の相手と他の人の間に立つ私という状況を作れた。


「ああいうの、寄生型とか」


誰かがそう呟くと、死体は喋る。


「敵か?お前らは私の敵か?」


「それは、」


「敵だ」


巨大な威圧感を、巨大な体から出す彼ははっきりと言った。


「リン、リンライト、お前は知らないだろうから言ってやるが、それは寄生虫のように人を仇なす」


「それは、確かに敵だ」


その会話を聞いた青年は、若々しい声で話す。


「なら、死ねばいい!」


影を纏う、文字通り黒い影が、蒸発した湯気みたいに浮かび上がって体に纏われる。


露わな体は闇に覆われ、その目が向く先ははっきりとしていく。


「あの青年の体が、乗っ取られているからこうなっている」


「救出は?」


「わからん。ともかくとして、この村と関係あるのを知るために拘束する」


「了解」


さっきまで、青、白と生命が持つものと真反対の色をしていた青年は、若若さが持つ命の色を手に入れていく。


侵食が進んでいるから、はっきりと話せるようになった。


「お前らは、その女の子と避難しろ!」


「はい!」


アリストと他の人は離れ、巨体と私と青年の三人だけが残る。


「来るぞ!」


速い!一歩の踏み出しで地面は抉れ、一歩の走りで私たちと彼の距離は詰められる!


拳による攻撃を受け流し避け、左下からの蹴りを左脚で受け止める。


残った右足で飛び上がり、蹴り飛ばす。


「ジンジンする……」


一発が重い。


この中で唯一の得物を持った巨体が青年へ襲い掛かり、青年はそれを迎えうつ。


互いに筋肉質な体から出される攻撃がぶつかり合い、音と風が巻き上がる。


「ちっ!」


巨体が押し負けた。


追撃受けぬよう急いで離れた体に彼の剣は無く、青年の右手に剣はある。


「借りるぞ」


黒い影は剣を包み、コーティングされた剣は黒と輝き色の大剣となる。


(巨体は役にたたん!避難させろ!)


「安心しろ、もうその巨体に要はない」


青年は、精気のない目でこちらを見る。


乗っ取られてあるから、肝心の表面的な生命感が感じられない。


速い!さっきよりも!


一歩は速く、強く、意志を保つ。


大剣の上からの斬撃を体を捻り避け、顎に向かいパンチ。


体勢をずらしたところへアッパー、腹部へ向けてストレート。


決まった攻撃は、確かに人間には効くのだろう。


しかし、彼の御体は依然として元気そのもの。


(体の作りが人間と違うのか?それとも魔力たるエネルギがあれば体を無理やり動かせるのか?)


カウンターの斬撃をもろに受け、ホームランが如く私は吹き飛ぶ。


「あの人間の形をしたものが力を持つこともだけど、それを受けて平気な私にも驚ける!」


高く地上を見下ろしていると、落下の力で回転していく私の視界に、火山が入る。


ここにきた時にも見た火山、そこには目を惹きつける何かがある。


あそこには何かがある。


私を呼んでいる、私は呼んでいる。


無意識が意識となれば、疑問となり脳を支配する。


(集中しろ!敵は居るんだぞ!)


青い龍の声は私を現実に引き戻し、目の前の現実は対処しなくてはならない。


「硬いなぁ!」


大剣の攻撃。


上から下に振り下ろす力は、上空の私を上から下に叩き落とす。


地面に打ち付けられても平気な私は、舞った砂埃の中で構える。


カウンターで殺す。


「来たっ!」


背後から来た突きを最小限の動きで避け、青年の首へ向かい膝蹴り、首へチョップ。


髪の毛を掴み顔を地面に五回打ちつけ、股間へ向かいボールを蹴るように撃つ。


苦しみの声へ構わず踏み潰す勢いで両手両足腹を踏みつける。


「次は殺す、降参しろ」


首元へ足を置く。


動けばすぐに首をペシャンコにしてやる。


「話を、聞いてなかったのか?」


「そうか、死ね」


「お前は下手を打ったんだよ!」


サンサンと照らす太陽が作る影が、青年の背後にあるそれが一瞬のうちに伸び、辺りを包もうとする。


(逃げろ!)


思いっきり後ろへ飛べば、影に包まれる青年が見える。


泣いているのは、何故だろうか。


そのまま影は飛んで行く。


その先は、火山であることが、すぐにわかってしまった。

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