世界が壊れた!
星の核を初めて見た。
写真とは違い、本当に熱い。
自分の進んで来た穴から直進し、風のドリルで進路を開ける。
一秒ぐらいで光が見えて、出た先は本当に城の跡地だった。
「痛え!」
リレイドの拳が上から当たり、私はモグラ叩きみたいにまた引っ込んだ。
「何やってんですか」
また星の反対側に吹き飛ばされることになって、そこにはやっぱりアカリガがいる。
「不意打ちできると思ってたけど、読まれてたみたいです」
「じゃもう勢いよく突っ込むしかないですね」
「はい。なのでまた行ってきます」
「いってらっしゃい」
「龍装、炎!」
自分で掘ったトンネルを、今度は背中のバーニアと共に進む。
一秒せずとも地表が見えて、今度は太陽を拝むことができた。
空から地上を俯瞰すれば、戦場はより過酷になっていた。
雑兵がいない。
見れば遠くに逃げている米粒ほどの大きさの塊があった。
(予想以上に相手が強いから、足止めにもならないんで避難させたのか)
赤龍さんの分析が正しのかは置いておいて、しかしいまの事実は周りを気にする必要が減ったということだ。
「戦況は一向に不利で……今は魔王とキリツグとリィナが足止めをしていて、氷の龍、白龍さんと黄龍さんが遠くから魔法で攻撃をしている」
一発も攻撃を当てられていない私たちは、どうにか巻き返さなくてはならない。
(僕に変わって、遠距離で殺す?)
(わしに変われば近接戦ができなくはないかの)
(俺のままだと、一度負けているぞ、どうする?)
「組み合わせる!緑!」
龍装、緑。
巨大な翼を身につけて、上空から和弓を構える。
(発射にこめる魔力を矢の拡散に使って、それだと味方も巻き込んでしまうからダメージを無しに!その代わりダメージ分をノックバック、つまり隙を作るためのエネルギーに変換!)
これにより、広範囲、かつ当たれば一定の隙が確定した攻撃が完成した。
「撃つ!」
発射された矢が、一本から二本、2本から4本、4本から8本と、倍々に増えていく。
「龍装、赤!」
赤い衣装を身につけて、右腕には金と赤の巨大な拳。
(一撃で龍装を解除する代わり、次の一撃使用魔力の役三倍の威力を与え、ブースターには十倍の推進力を!)
背中のバーニアから出た炎が、何倍も、今までのものより大きく、何千倍も、今までより早い速度でリンを降下させた。
放った矢を追い越して、光の速度と同じぐらいになって、右手を振り翳した。
「多少は強くなったようね」
しかしそれすら見切られて、かつ片腕で受け止められた。
「龍装、水!」
爆発的な衝撃。
地は揺れて、割れて。
辺りは吹き飛んで、轟音が鳴って。
今のリンの一撃は、実質的には核爆発と同じ威力だった。
(今の一撃で辺りの温度は千度は超えた!)
水が一気に熱を得て、爆発を起こす。
光堂リンが出す大量の水が、次々に爆発を起こす。
煙の中から無数の矢が見えて、
「逃がさない!」
リレイドに一つの矢が当たった。
(できたぞ!隙が!)
「水龍剣!」
銀に輝く細身の剣で切る!切る!切り刻む!
(効いてない!?)
頭を切り飛ばした、と思えばすぐにくっついた。
(再生力がおかしい!魔力だけなのか?!本当に!?)
どんだけのリソースがあればそれができるのか、そしてなおそれで余裕の笑みを見せられるのは、絶望でしかない。
「この中だと、貴方が一番強いのだろうけど、私の足元には及ばない!」
魔力の起こりが見えた。
出されるのは、本気の一部。
光の速度を超えた攻撃。
その対象は、私ではなかった。
リィナ達が、私の背後で吹き飛んだ。
「あの子達を守るために、少しだけ攻撃の威力を抑えたでしょ?魔力をそっちに回したでしょ?」
それは事実である。
「そんなんで勝てると!思ったのかしらねえ!」
リィナは死んだ、他の奴らはあと持って一分で死ぬ。
「守れないのは、悔しい?」
頰に一発蹴りを入れられて、そのまま倒れ込んでしまう。
(色々限界!)
魔力のオーバヒート。
無茶に無茶を重ねた契約のせいで、私の体は動いてくれない。
(魔術回路はこっちで直すから、時間を稼いでくれ!)
赤龍さんの要望には、答えなくてはならない。
「産んで、壊して、ゼロにして。それで次は何するのさ」
「……言わなかったかしら。私のためだけの世界を作るのよ」
「それは、いいね」
「アイドルとは、正反対だと思うけど」
「反対だからって否定しないよ」
誰だって幸せを追い求める。
そしてそのためには、何をしてもいい。
目の前の、見上げるしかない女の欲は、この世の全てを壊す。
壊して、世界を我がものとしたという実績が、世界を統べたという証拠になり、現実的な魔力量と引き換えに世界を再構築できる。
そこまでは読めた。
「その世界に、私はいないから、なんとしても私は勝たなくちゃならない」
「勝つ?」
治りつつある体で、よろめき立ち上がる。
「お仲間一人守れてないじゃない。みんな、貴方以外はもう死んだのよ」
「まだ、ある。私には過去があるから」
「それも、世界を壊す暁には無くなるけどね」
「壊させない」
「できるの?」
「やってみせるしかない」
私には可能性がある。
見えない海の底のように、無限の、未来そのものとも言える可能性が!
「龍が私に集うのは、運命!」
天に手をかかげて、願えば世界は私に応える。
氷と、土の宝玉が我が手に。
「死体の力で、どこまでできるかしらね」
「龍装、氷!」
白と青の混合衣装。
美しい私に、美しいドレスが纏われて、一対一の部隊にプリンセスが降りる。
左手に握られた剣が、確かな冷気を纏ってこの世に存在してみせる、氷の剣だ。
早速、右手の盾で殴りかかる。
(私のこと、使えますよね!?)
白龍さんが怒りを込めて言った。
(勿論!)
攻撃捌かれるが、相手の足を凍らせて身動きを取れなくする。
「絶対零度!」
魔力により実現した冷気が、辺り全てを凍らせる。
「氷剣!」
左手の剣が、リレイドの片腕を吹き飛ばした。
「再生できない」
切り飛ばした後を凍らせて、固定する。
凍らせることが固定するイメージを生み出し、再生不能の一撃となったのだ。
「頑張れば、無理やり治せるけれども。魔力を消費させたいであろう貴方の前で、そんなことやってあげないわよ」
残った右腕だけで戦うというのだ、彼女は。
今度は相手からの攻撃。
「剣技で勝負!」
魔力により錬金されたレイピアが、私を貫こうとする。
盾と体の捻りで受け流し、剣でカウンター。
でも当たらない。
むしろ誘われていたみたいで、左手を3回刺された。
(俺を使えよ!)
黄龍さんがそう叫ぶ。
(ダメ!貴方はジョーカー、最後の切札!)
初見殺しでなければ、目の前の奴は殺せない!
辺りの空気を凍らせて、氷の剣を無数に作る。
リレイドを取り囲むそれが一斉に動き出し、彼女を突き刺そうとする。
が、彼女が放つ炎が全てを燃やし尽くす。
魔法でも、勝てないのか。
むしろ冷やされた空気がまた爆発を起こして、煙幕となる。
(地割れ!)
足元が割れ、下からリレイド。
左腕はまだ使えない、だから右手の盾で無理矢理受けて凌ぐ。
重い、思い?
確かに感じとっているのだ、目の前の人の気持ちを。
「なぜ」
何故。
同じだから?
「同じ」
圧縮された時間、一ミリも進まない視界。
止まった時間の中で、ただ思考は無意識に、しかし言語化している。
車に轢かれれば、車に轢かれたと理解できる。
しかしうまく言語化できないように、私の思考は私の手を離れている。
無くした、無くしたから、対等に。
それは違う、私は無くしていない。
死んだものを蘇生する力だって、私にはあるかもしれない。試していないのだから、わかりはしない。
けれど目の前の彼女は無くしたのだと、わかってしまう。
じゃあ何が同じなのだ。
その先だ。
その先ってなんだ?
無くしたと思えた後、辛い後、何をするかの行動だ。
「ちょっとだけ、貴方のことがわかった気がする」
戦況依然劣勢。
けれど進展はある。
「何が」
「立ち止まり、泣き終わり、何かを求めて歩いている」
「そう」
「私も擬似的に同じことを、しているのだからわかった」
口が勝手に動く。
話さなくてはならない気がした。
目の前の相手は、敵なのかどうか、見極めたかった。
「手から離れたものを惜しんで、歩いた。そして今、周りを見て、理解して」
それで。
「悲しんでいる。あっけなく、殺されて」
「……」
「貴方が失ったものに、私が無くしたものは及ばないのはわかる」
「じゃあ何?仲間だから殺し合いはやめようって?」
「そう、かもしれない。私がするべきだと思ったのは、理解。理解してから、貴方と向き合うと」
「リィナを救ったみたいに?ジエーデを助けたみたいに?アリストを、連れて行ったみたいに?」
「誰かが居なくちゃ、個は成り立たないから。独りぼっちだと、自分は見えないから」
「粋がって、カッコつけて。私は違う!人間とは違うのよ!前提も思考も常識も!」
「それは関係ない!」
「なんで、そう、私を苛立たせる!?」
個を見なくちゃいけない。
個を見るには、最初に自分を解体する必要がある。
究極的に客観性を持った思考で、自分を見なくてはならない。
目の前の女が苛立っているのは、私の言葉を考えているから。
つまり解体の最中なのだ。
なら私も自分を壊す。
同じ目線に立ち、同じ思考を理解し、相手を理解する。
「私は、一人がいいのよ!」
揺れている。
視界が、揺れている。
けれどそれは、地震とかそういうのではない。
世界の全てが揺れている。
「私に適うものが無いと、世界は理解した!だから世界は私のものと、見なすことができる!」
(まずい!防御だ!)
(無理だろ攻撃だ!)
(どっちも無理だろ!)
龍達は慌てる。
私も汗をかく。
私は、耐性があるから、耐えられるのかもしれない。
けれどもその後どうなる?結局目の前の相手が本気を出して、力の差が開くだけだ。
「光堂リン!よくやった!」
影ノキリツグが、そう叫ぶ。
何故か生きていた彼は、魔法陣と共にこの場に立っている。
「貴様がおしゃべりをしてくれていたから、この場の全員の命を犠牲にして成り立つこの魔法が間に合ったのだ!」
「なんの!」
「世界を混ぜる魔法!私が思い出した、記憶の全て!」
「何!?」




