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世界を滅ぼすためだけに。

沈んでいくのがわかる。


深く、深く、身動きできずに沈みゆく。


手持ちの物を放り投げても、私は沈んでいく。


軽く、軽くなっているというのに、なぜか私は沈みゆく。









打撃の3連打、それにより肩、脇、首の骨が折れる。


魔力を、使いそれを治すが、今度は蹴りにより筋肉が潰される。


(このままじゃいつか魔力切れする!)


防戦一方、いや、守れているのかも怪しい。


「風魔法」


空気の刃が私を無数に切り裂き、私の魔力が体を再生しようとする。


「焼却」


傷口が、私の全てが燃やされて、それを治すのにより魔力を使う。


その瞬間だった、脳が悲鳴を上げたのは。


(脳の酷使のしすぎだ!)


赤龍さんの悲鳴を聞く暇もなく、私に向かうは正拳突き。


「ちゃんとしてください!」


私のアリストのようなものの間に悪魔が割って入り、庇ってくれた。


今は二人して吹き飛ばされている。平原を超え、山を超え、気がつけばそこは海の上。


揺らついている、不安定な脳は一向に正気を取り戻せない。


大勢の魂生贄に、悪魔はこの世に降り立った。


魂たちが織りなす悲鳴が、アリストを変えた。


ならば私も変わってしまうのか、この気持ち悪さはなんなのか。


自分という存在がぐらついている。


自分とは?


他者からの評価が自己なのは、わかりきっている。


自己とは内ではなく外からの目線で判断される。


そう、だから、ずっとアイドルとして人前に立ってきた私は、他者に媚び、他者を魅了し、他者のために行動する、そんな人間なのだ。


しかし今はどうだ。


観客もいない、私は輝いていない。


変わっている、昔の自分と今の自分は、違っている。


ひどく冷静になってきた脳は客観性を示して自己理解へ使われる。


転生、巡る命。


宗教の話でなく現実として我が身に起きたことのあるそれは、確かに私を変えていた。


脳の揺れが小さくなる。


私は、私を保てていない。


常に私を見る誰かがいた。


アリスト、ジエーデ、ヒヨドリィナ。


けれど彼らはここに居らず、居るのは私に興味のないお二方。


うちにいる青と赤の存在は、内側なのだから自己の存在根拠にはならない。


だから、いまここで、揺らついた存在へ軸を打てるのは、


(私だけなんだ)


自分の全てを理解しているのなら、その自分の思考には客観性がある、はずだ。


この世界で、私一人が目指す願いは、








その場の誰もが、彼を見る。


そしてアリストのガワを持つものが語る。


「光堂リン、貴様は一体何者だ!」


全力、今持てる力の限界を引き出した攻撃。


魔力をそのまま放出し、ビームのように使う攻撃は、光堂リンの体を大きく飲み込み、後ろにある海を爆発させる。


「揺らついて、空いたスペースに入り込んだのはお互い様だ」


しかし彼は生きている。


ひどく深い色の眼差しで、この世を見ている。


「私も、アンタも、転生したのね」


光堂リンは、その存在は天へ手を翳す。


そこに光と闇が集まって形を作り、水、火、風、土、氷が肉付けされた。


それで完成されたのは、棒のようなものだった。


持ち手にトリガーが付き、全体的に黒い色の物。


それには鍔があり、柄があるのだから、刀だということがわかる。


しかし肝心の刃がない。


柄を手に取った瞬間、鍔から光の刃が飛び出す。


「私も、お前も転生したてで不安定……そこをつく」


空中に浮遊していた状態から、何もなしに加速する。


高速、光速。


0にも満たない秒数の中で、一回だけ、その刀は振るわれた。


それはアリストを両断せず、目立つ外傷はない。


なのにアリストは苦しんでいる。


不安定な行動は、火傷をした後転がり周るように見えた。


「私が、置いて行かれてしまった」


アリストは苦しんだまま撤退し、光堂リンはその場で倒れてしまった。


悪魔はリンを抱えて、海の上で一人ポツンと立っていた。


「取り敢えず、ヒヨドリィナとかの元に」









落ちて落ちて落ちていく。


崖を下る岩のように、ただ落ちていく。


沈んで沈んで沈みゆく。


息を切らした人のようにただ深く。


意識があるまま沈んでいくのは、怖い。


しかし死ぬ時などいつもこうなのではないか。


ただ自分を殺す原因を、目で見えずとも感じてしまって、そこで。


そこで、どうなる。


死んだ後はどうなる。


魂でもあって、転生するのか。


それとも何もないのか?


脳は所詮ただの装置、そこに魂はなく、電源の切れたパソコンみたいに音を発さなくなるのだけなのでは。


じゃあ私はまだ死んでいないのか。


意識があり、下へ向かっているとわかるなら、ギリギリのラインで耐えていると、言えるのではないか。


私が目指す願いは、やはり変わらない。


結局自分本意な生き方しかできない。


だから、世界なんかどうでもいい、むしろ滅ぼしてやろうかと思える。


だから沈むのはダメなんだ。


そう理解して、再び生きることを決断する。


決断できたということは、生きる為の軸が見つかったということで、それは自己を確立させる根拠となる。


瞬間、私の体は浮いていく。


私を縛っていたものがなくなり、ただ上がっていく。


(私は天才だ、赤ん坊の頃からこの世の知識の大半を持っていた)


幼稚園の頃には大学受験ぐらい余裕でできただろう。


しかしそれは、気味の悪い話である。


人間には確かに優れた知能があるが、それは成長して手に入るものである。


だから教育格差なんてものがあるし、人は本を読むわけである。


それなのに私が生まれた家庭は平均年収より低い所得を持つ家庭、生まれてこの方本すら読んだことはない。


しかし私は頭がいい。


まるで私はロボットだ、コンピュータだ。


誰かに仕組まれて、生きているみたいだ。










「リン!」


私を読んだ超えと同時に目を開ければ、夜明け空が出迎える。


「リィナ」


私の意識を確認した後、彼女は私に抱きつく。


「ごめん」


守れなくて、何もしてあげられなくて。


「いいよ」


心臓の音が聞こえる。同じ音を、私も鳴らせていたら嬉しい。


あったかい。優しい熱を噛み締めて、今は生きていることに感謝する。


「光堂リン」


このムードに似合わない悪魔は、私光堂リンの前に立つ。


「どうなったの」


「……貴方があの女を撃退、その後気絶したのでヒヨドリィナの元へ連れて帰りました。彼女の治療は私がすませ、今まで貴方が目覚めるのを待っていました」


「……そう、ありがとう。けど私記憶がなくて、具体的には海に行ってからのが」


「でしょうね」


抱きしめ合ったまま会話してみるが、ヒヨドリィナの様子はどうなのだろうと見てみると、寝ていた。


(疲れていたんだな)


結局私も一睡もしていないのだから、疲れてしまった。


「生きし物に魂があるとみなし、それを形取った物を魂といいます」


「はあ」


「それを魔力で作為的に作り、さらには大気へ放出。この際に行われた契約が、魂へ不変成を持たせ、かつ適合する素体を探し始める。それに見合った幼体があれば、その中へ入り込みいつか脳が魂が持つ情報全てを受け止められると判断された時、寄生虫のように意識を奪う。これが転生の、上位者が行うプロセスの方法です」


「アリストも、そうだと」


「彼女の場合は、やや例外です。虐待でもされていたのなら、栄養が足りなく脳が魂に対して不適切な形となり、しばらく成長するまで、元の綺麗な形になるまで待つことになります」


「私が連れ出して、健康的な生活をさせたから」


「本当はもっと遅く目覚めるか、そのまま死んでいた魂が、器として成熟したアリストの体を奪い行動を始めた」


「そっ、かあ」


「貴方も同じだ」


「へ?」


「死を察知し、自己の揺らぎを手に入れて、貴方の意識が不安定になった。そこに魂が入り込み、体の主導権を手に入れた。それはアリストを撃退してくれましたが、器として完成してない貴方の肉体に居るのは数秒が限界で、主導権は元に戻った」


「だから、記憶がない」


「そういうことだとは思いますよ。私は長年生きて来ましたが、まさか転生体に二人もかち合うとは」


やれやれと、呆れて首を振る悪魔は、両腕を変形させる。


それは人の手と同じ形をしていた。


「私のやることはこの星の人類の殲滅、貴方がしたいのは元の居場所は帰ること。アリストの体を持つ物はこの世の全てを手に入れること」


「手をくめますね」


「そう。私が壊そうとする物を、彼女は手に入れたい。貴方が帰りたい場所を、彼女は手にしたい。言わばあれは共通の敵ですね」


「そして私たち個人では、彼女に勝ちようがない!」


「そう!だから手を組みましょう」


「いいよ」


私は悪魔の手を取り、決断する。


この星が滅ぼうがどうでもいい。


私は地球へ帰る。その為に身の安全を守るためだけの力は必要だ。


リィナを抱えたまま起き上がり、手のひらを強く握る。


「私の名前は光堂リン。凛として、燐と煌めいて、琳と綺麗な、そういう人間」


「私の名前は、灯ヶ紡。アカリガが姓名で、名はツムグ」


「よろしく」


「よろしくお願いします」

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