私より強い人と出会う。
物事には順序がある。
順序には始まりがあって、始まりには起源があって。
起源には科学現象のようなものが、科学現象には神様が。
だから世の事象は起こるべくして巡りゆく、という捉え方がある。
それは間違いではない、6割が正しさを保持している。
が、現実は、つまり自己が観測できる範囲で起こることは、いつも突然だ。
そもそも諸行無常を簡単に受け入れられるなら、誰も不幸は気にしない。
目の前の悪魔、らしいものは、しかし白さと相待って、その二足歩行の様子からは想像ができない。
はたして鋭利に尖った両腕は、何を成すのか。
「人の魂食らって世に降り立てば、呼びしものが願いを求める」
「なれば悪魔よ、食らったもの達の願いを叶えよ」
舞台を見ているみたいだ。
美しくて、綺麗で、眩しくて。
悲しくて、嬉しくて、愛おしい。
物事に初めがあり、それが情熱になり人を突き動かすのなら、彼らが死にも理由がある。
それは私にはわからない。
彼らが何を願いここに集まり、何を求め魂を捧げたのか。
「世界を、この星にある人間の文明を全て壊してくれ」
ああ、破滅を願う気持ちすら、わかってあげられない。
舞台に立つもの、同じ目線に立つものとして、私のセリフは何を言えばいいのか。
「貴方は、敵ですか」
舞台演者は問いかけてくる。
鋭利な手先は、針のような手先が、私に息を飲ませる。
「私は、旅のもの、さすらうもの。ただ通りかかった見物人さ」
「なら、敵ではありませんね」
殺気の矛先別へ向き、緊張感は継続する。
「馬車」
アリストの声はこの場に合わないものを指す。
それは当然、死体となって横たわっている。
「旅の方達よ、なぜここに来たのかは問いません。私たちの願いを邪魔してくれないというのも、ありがたく思います」
「そうですか」
「ですが、私が、私たちが望むのが全ての人の死というのは、理解していただく」
「え」
「悪魔よ、彼らも殺してくれ。私も殺して、人類を抹殺してくれ」
「なるほど、わかりました」
「待って、待ってまって!」
突撃、それを回避。
音速とも呼べそうな突きを避け、焦りが私を駆け巡る。
「敵意はないのに!」
恐ろしく躊躇いのないひと突きから始まる戦闘は、恐ろしく規模が広がっていく。
「こいつ、強い!」
二本の腕が変形したかと思えば、円筒状のキャノン砲になる。
絶え間なく飛んでくる光弾を対処して、一抹の考えが私によぎる。
(めんどくさい!)
同じか、それ以上か、それぐらいコイツは強い。
変形した腕による突きを上半身を反らして避け、腕を掴んで背負い投げ。
地面に倒れた体を踏み潰し、そこから圧縮水で体を貫く。
(混合魔法!)
水と炎の魔法を組み合わせ、一瞬かつ連続で爆発を起こす。
自爆を組み合わせて攻撃をしたのだが、互いに無傷のままだった。
「ヒヨドリィナ!手伝って!」
情けなく私が呼べば、ヒヨドリィナは助けてくれる。
「龍装、水!」
青い衣を身に纏って、水の支配者たる装備を晒し出せば、付随した水流剣をヒヨドリィナに投げ渡す。
「2対1とて!」
魔法を放ち、行動の制限。
避けられない悪魔へ向かい脱力からの高速の蹴り。
どーんと打ち上がった体へ向かい、ヒヨドリィナが剣を振りかざす。
鋭い斬撃が悪魔の体を一刀両断。
しかし彼の体は一瞬で接合される。
私が隙を作り、ヒヨドリィナが斬撃を浴びせる。
しかし、しかししかし、ダメージが入らない。
(こちらさんの火力が少ないから致命打を与えられない。相手さんもそれは同じ!)
大量の魔力を持つということは、再生能力が優れているということ。
多少のダメージは意味をなさない。
だから一撃で殺すことが大事であるが、そのためには多量の魔力による即死攻撃が必要である。
つまりとしては、実力差が必要なのだ。
だが、かの悪魔と、ヒヨドリィナと光堂リンの間に実力差と呼べるものはない。
だからこの次元の戦いは、大陸一つは滅ぼせるほどなのだけれど、やっていることは低次元なのだ。
そう、なにか、異質な異物体が乱入でもしない限りは。
「君は、私たちと同じ目をしている」
そう問われた。
「君も見捨てられたのだろう?」
そう、なのだろうと、リンと過ごしてわかった。
「私たちはみんな見捨てられた。奴隷として生きたもの、ゴミとして扱われたもの」
私は、道具として扱われた。
「恨んだりはしていないのか」
でも、リンにも、ジエーデにも、ヒヨドリィナにも、美味しいものにも、大きい布団にも出会えたよ。
「君は、強いな」
トランプ、できるよ。
「私たちが君みたいに、不幸を飲み込めたらな」
「こうして、金持ちになって、際限なく望むものを所有してみても、私たちの恨みは消えなかった」
「眠る度夢で親が出てくる。私を叩く、私を蹴る」
「そこでいつも目が覚めて、いつも他の呻き声が聞こえる」
「誰も彼もトラウマは消えない」
「幸福の背景にある不幸が、むしろ大きくなっていく」
「仲間の恨みは私たちの恨み、だから私たちは悪魔を呼んだ。この世全てを壊してくれる、悪魔を」
リンは、頼めば助けてくれると、思うよ。
「遅すぎたんだ。ヒーローはいつも遅い」
「君は、なんで生きられる?」
「痛かったこと、辛かったこと、苦しいこと、なんで乗り越えられた?」
「君は何を持っている。君は何を支えに生きているんだ」
わからない。生まれた時から、私は私だから。
「そうか。君のような人がいると分かれば、世界を滅ぼそうとなんかしなかった」
「遅すぎたんだ、何もかも。早すぎたんだ、何もかもが。ああ、こんな悲しいことはない。ずっとずっと、いつもいつも、私たちは不幸だ」
「強くなった!?」
悪魔の動きが機敏になり、私たち二人は一気に押される。
全力の突き、ヒヨドリィナに向けた攻撃を私が庇い、二人一緒に吹き飛ばされた。
「死んでる」
先程までいた場所へ着地すれば、館の主の死体が見えた。
彼の魂を代償に、悪魔は力を増したのだ。
「アリスト……?」
彼女は何処かを見ている。
彼女は何を考えている。
「私は、私」
そう呟き、彼女は館の主の死体へ触る。
「ずっと、ずっと、この世に生まれた時から」
「お前、アリストじゃないな!?」
私が叫び、この場の誰もが驚いたその時、彼女は目覚めた。
「リィナ!」
彼女の見た目は変わってない、変わっていない。
その瞳に宿る光も、何一つ変わってはいない。
けれども、アリストではない。
その証拠にリィナが蹴りによって吹き飛ばされた。
「うっ」
私の腹部に入った打撲は、私から魔力を根こそぎ奪った。
(一発で私の魔力が切れた!?)
次に来る攻撃をもろにくらい、地面を何回も跳ねて吹き飛ばされる。
龍装が強制的に解除され、似合わない地面を這いずり回る。
(リィナは生きている。私も生きている。けれど生き残れる保証はない!)
生まれて初めて自分より優れた存在を見た。
なんとか立ち上がり、脳をフル回転。
物事に起因あれど、それを私は知らないのだから、やはり苛立ちしか湧いてこない。
「龍装、炎!」
最後の力振り絞って纏った衣は、足掻くものへの手向の衣装だった。
炎をブースターから噴き出す、全力の加速、莫大な質量に加速を加えた、全力の攻撃。
「弱い」
指一本で受け止められ、即座に私の首根っこを掴まれる。
「貴方のすべて、私にちょうだい」
流暢に話すソレは、私の胸を手刀で貫いた。
悲鳴はあげない。
けれど痛みが駆け巡る。
痛い、痛い、辛い。
こんな惨めな思いをするのは初めてで、ただ眺めていることしかできないのは屈辱だ。
「ない。なにも、持っていないのね。それとも……」
そういい、私を投げ捨てた。
回復していく魔力が即座に再生のため使われ、傷口が徐々に縮む。
「これは」
そこに白い悪魔がやってくる。
しかし、勝てないのだから、私はせめてもの善意でこう言う。
「逃げたほうがいいよ」
「どうやら、そうみたいですね」
本当に、どうしてこうなったのだろう。
意味不明な流れで今私は大量の血を流している。
それでも死なないのは人を超えた証でもあるのだが、それすら超えた存在がアリストのガワを借りて存在している。
「どうです、悪魔と契約をしませんか」
「ない拒否権を確認しやがって」
悪魔は私の体に触れ、魔力を流す。
即座に無くなった傷口と、取り戻された元気が、私に立ち上がる力をくれる。
リィナを助けるためにも、目の前の存在をどうにかしなくては。
「二人で勝てるかな」
「無理ですね」




