やな奴との付き合い方
やな奴との付き合い方は、自分次第です。
やな奴。そんな奴は身の回りに溢れている。
十六歳の高校生、小田さんはつくづく学んだ。
どこに行っても、やな奴とはいるものである。
ネットにも、現実にも、変わらずやな奴はいる。
――だから、いちいち気にしていたらキリがない。
小田さんは思う。しかしこうも思う。
ーー…わかってるんだけど、実際気にしないのは難しいんだよなぁ。
ま、強く生きよう。小田さんは家を出た。
1話 女には冷たいくせに男には反応いい奴
自分は、割と話しやすい人間だと、小田さんは自負している。
普段からにこにこと過ごしているし、人見知りはしない。目を見て話し、ちゃんと反応もする。人とは一定の距離感を持っているので、誰か一人に対してベタベタすることはない。
それに小田さんは、あまり人を嫌いにならない。
しかし、嫌いにならないとはいえ、やな奴というのはいる。どうしても。
チャイムが鳴る。
一時限目は数学だ。小田さんは数学の授業が苦手だ。
なぜなら、小田さんは文系の人間なので、単純に数学が得意でないのが一つ。
もう一つはーー
「前回の授業では、平方関数と二次関数について学習しました。前回の授業の内容について、隣の席の人と確認してください。3分とります」
数学の数野先生が簡潔に話を終え、アップルウォッチで3分間を測り始める。
小田さんは内心、げっそりした顔をした。
小田さんの隣は、不登校で、いつも席を空けている。そのため、後ろの席の二人組と組んで、三人で話し合いをしなければならない。
小田さんはこれが苦痛だった。
が、表には出さない。小田さんは笑顔を貼り付けて、後ろに体を向ける。
「ねぇ、私からいいかな?」
小田さんの声に、返事はない。
気にしないふりをしながら、小田さんは説明を始める。
後ろの席の二人は、いつも猫背な永野永野くんとくっきり二重の園田園田さんだ。
永野くんは、悪い人ではないが、プライドが高く、自信がない問題が出てくると、だんまりになってしまう。他人の意見も聞く耳を持たず、一人の世界に浸ってしまう所がある。
園田さんは、はっきりした顔立ちの美人で、普段からすんとした表情をしている。だからといって冷たい人という訳ではなく、友達とはふざけ合ってカラカラとよく笑う。決して、冷たい人ではない…のだけれど………。
どうやら、小田さんのことをあまり好いていないらしい。
永野くんは顔とノートをすれすれに近づけた姿勢のまま、一人の世界に入ってしまっていて、園田さんはというと、頬杖をついてそっぽを向いている。
小田さんは説明を終えて、二人が何も話さないので、ありがとうございました〜と明るめに言って前を向いた。
すると、永野くんが急に体を起こし、ベラベラと饒舌に説明をし始めた。どうやら自分の中で整理が出来て、自信が出たようだ。
小田さんは、説明を聞くために再び後ろを向く。そして、心の中で大きなため息を吐いた。
さっきまでは感情の無い表現で壁を見つめていた園田さんは、今はまるで命を吹き込まれたかのように、目をキラキラ輝かせ、柔らかい笑みを浮かべ、永野くんの方に体を向けて、こくこくと頷いて聞いている。
笑顔の方が可愛いね、と思う一方で、小田さんは落胆する。やっぱり私のことは嫌いなのだろうか。嫌われるようなことをした覚えはない。
相性が合わないのだろうな、と割り切っているつもりでも、傷ついてしまう。
まるでいない人のように扱われるのは、心が冷える。永野くんは誰に対しても、こんな風だが、園田さんはあからさまであるから、どうしても気になってしまう。
自分にだけ態度が冷たいのだから、正直、園田さんは小田さんにとってやな奴である。
だからといって、嫌いだと断定して、こちら側まで冷たい態度をとってしまっては、関係は悪くなる道しかない。
なので、小田さんは園田さんに普通に接している。特別避けたり、積極的に行ったりはしない。
数学の授業では、数野先生が生徒同士で確認させたがるので、小田さんはこの時間が苦手だった。
家に帰り、夜ご飯を家族で食べる。
小田さんの家は、父と母、小学二年の妹と、小田さんの核家族だ。
「私さ、同じ班の女の子に嫌われてるっぽいんだよね」
小田さんはため息を吐いた。
「誰、それ?」
母が尋ねる。
小田さんは、園田さんという女の子がいること、そして、数学の授業での態度を話した。
「気にしなければいいよ、そんな奴。嫌われるようなことしてないのに嫌ってくるようなら、そんな奴に構う必要ない」
母は、不機嫌そうに眉を寄せた。
正論なのだが、あからさまに嫌な態度を取られて、気にしないというのも難しい。
そうなんだけどね…と小田さんが小さく言うと、父が口を開いた。
「クジャクじゃないか、その子」
「…え?」
クジャク?
「隣の席の男が話すときには、ころっと態度を変えたんだろ。お前が嫌いなんじゃなくて、ただ男好きなんだよ。クジャクは、自分をよく見せるために、羽を大きく見せびらかして、異性のクジャクに踊ってアピールするんだよ」
父は、両手を頭上から腰へ半円を描くように上下させながら、キメ顔になって腰と肩を揺らしてみせた。
ぶっ、と小田さんがたまらず吹き出す。
「あははははっ、おかしい。ふふふふっ」
次の日もまた、話し合いの時間があった。
二人は相変わらずだ。
小田さんも、気にしないふりをしながら説明をする。
目は合わないけれど、二人の顔を交互に見回しながら、続ける。
園田さんの顔を見たとき、昨日の父の話がふと思い浮かんだ。
(クジャク…)
すると、脳裏にクジャクの体の園田さんが現れて、キメ顔で踊り始めた。
「んんっ、ふ、」
ばかみたいで、ちょっと可愛いかも。
小田さんは耐えきれずに笑い出した。そんな小田さんに驚いたのか、珍しく園田さんがこちらを見た。
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