アキヤマの1日 後編
閑話
事件の操作が今日は一区切り付き、お偉いさんは去った。
「起きてください~。偉い人帰りましたよ〜?」
交番で寝てたオッサンを起こす。
起きてそうそう、タバコを吸い出す。
「‥あの家の家族ってどんなだ?」
いきなり聞かれた。
「すっげーいい人夫婦でしたね。誰にでも笑顔で」
「そうなのか?旦那さん、不倫してたとかない?」
「え?それはないと思います。」
訝しげにオッサンは俺を覗き込んできた。
「まあ、そう見えたんだろーな」
このオッサンはアヤコさんを疑ってるみたいだ。
「アヤコさん疑ってるんですか?」
「まあな。普通にこのタイミングでこの時間に荷物持っていなくなるって、あからさまだろ?携帯も切れてるし、お偉いさんも同じだと思うぞ」
至極真っ当なことだが、まさかと思ってしまう。
状況からみて他人なら、俺も同じ意見だ。
完全に肩入れしている自分が、そこにいた。
オッサンは続ける。
「でも、おれが奥さん疑うのは、そういったもんじゃなくてな。ああ、難しいな。お前はわかりそうだと思ったが、勘違いか?」
は?
何を言っているのか?今日初対面のオッサンで勝手に
評価されてる。
そして、勝手に残念がられてる。
「ああ、忘れてた。俺はアワダだ。よろしく。」
今更自己紹介された。
「で。お前は?」
「アキヤマです。」
そうかといった感じで外に出ていった。
「アキヤマはさ。衝動で人を殺す。そんなときさ。
どうなってると思う?」
何が聞きたいかわからない。
いや、わかるけど、真意が不明だ。
「たぶん、怒りで冷静じゃない。または、パニック状態かと」
「そうそう。その状態なら、どうやって殺そうか?」
「衝動的に、手近なものかと」
「そうそう。ンで、死体は窒息。外傷無し。」
なんだって?絞め殺したとかそういった痕跡は?
「さあ、どうやったんだろね?」
荷物持って出たということは、衝動的ではない可能性もあるのか?
「でさ、喉の中見たのよ俺は」
喉の中を見た?
死体の?
触ったの?動かしたの?
この人、警察じゃない?
「俺の予想通り、喉の中も異常なしさあ。」
「人間の中にさ。たまあに、不思議なことできちゃうのがいるんだよね。」
今、現時点で俺は話が理解できない。むしろ、警棒を握った。
目の前の男も警察ではないかもしれない。
「俺は、それ専門で扱うワケ。まあ、理解はされないよな~」
苦笑いしてこちらを見て言った。
そして、間違いなく本物の警察手帳を見せて、
「そこは、大丈夫だから。安心しろ?」
.................
女帝曰く、その子供の周辺で不審な事故、事件が起きているらしい。
いやいや、殺人とかじゃあないそうで、
幼児虐待や横領の発覚、更には猥褻行為
事件ではなくとも、出勤拒否になる保母さんや突如として辞職する清掃員などなど
掘れば掘るほど出来事が起きている。
最近は、児童施設の代表も精神を壊して、辞任したそうで。
「たまたま、とは言えても、あの子の母親の事もあって、怖いのよね。」
頬杖をついて、女帝は俺に言った。
「明日、暇?」
非番ですね。
「あら?返事がないわ?」
行きたくない。
「了承ということで」
パワハラだ。
「アワダー、アキヤマ借りるね~?」
返事は聴こえない。
「オッケーだってさww」
嘘つけ。
こうして、俺の明日はなくなった。
そもそも、あの子には会いたくない。
アワダさんが戻ってきた。
「どうした?」
そうですね。アワダさんはこういう人でしたね。
暫し説明。
「明日、あの子に会うのか。」
「ハイ」
アワダさんはため息をついた。
俺も続いた。
「お前、大丈夫?」
「なわけ無いですよ。」
アワダさんの問に食い気味に返した。
常勤の退勤時間はとうに過ぎていた。
アワダさんが送ってくれるというので甘えて車に乗る。
「さっきの話だが、相手は絶対お前の事覚えてるぞ。」
「わかってますよ。だから嫌なんですよ。たぶん、前より相手はやり口うまくなってるし、周りで起きてるあれやそれも可愛いもんですが、絶対噛んでますよ。」
「ああ、間違いなくな」
諦めのようなアワダさんの声だった。
「今のままじゃ、何もできない。俺等はとりあえず、管理を徹底するだけだ。」
俺は何も言わなかった。
俺は、家に帰った。
明日は本格的にだるい日になる。
だから、速攻で風呂に入り、ビールを飲んで、すぐ寝た。