走馬燈
私は、今から死ぬのだろう。
思い返せば、色々な事があった。
若き時には多くの失敗や恥もかいた。
老いてからも多くの苦難を乗り越えた。
幸せというには少し違うが、つまらない人生ではなかった。
ああ、
意識が飛びそうになる。
そう幾許もないうち、今生から別れを告げるのか。
見送る友は、ここにはいない。
それも仕方がない事だ。
残り僅かな人生、ここから動くこともままならない。
深く息をして、空を仰ぐ。
そして振り返る。
そう、私が、生まれたとき、0歳の時の話だ。
………………
私の記憶は生まれた瞬間から存在する。
母との繋がりを絶たれ、私を受け取った人間は、私を母の位置から遠ざけ、人間は言った。
「2500gと。」
その後、また母の近くに戻されて
「おめでとうございます。」
「ああ、良かった。生まれたよ。あなた」
「そうだね。頑張ったね。ああ、本当に良かった。」
私に感心と好意がむけられているのがわかった。
母とは別に複数の人がいて、今、私が生まれた事により
安堵したようだった。
この頃の私は、人の一般常識がなかったので、
なんの懸念もなく、その場で一番冷静な人間に聴いた。
「え?」
彼女は動揺し、慌てていたのを覚えている。
そして、怖気づき、されど表面的にはそれを悟られないように必死になっていた。
母にも聞こうと思ったが、その前に引き離されてしまった。
私は、新生児室に寝かされた。
ここには多くの子がいた。
この半生でここまで声が聞こえる場所もなかった。
少し立つと壁を隔てた向こう側から
「おお。あれか。アヤコの子は。アヤコにそっくりだ」
「まあ、可愛らしいわ。どことなく、タイチさんに似てるわ」
そう思い思いに褒め称えるように語りかけてきた。
だが、壁越しなのと方向が、目がまだ完全に見えず、誰がどこにいるかうまく捉えきれなかった。
暫しの時が流れ、
白い天井と透明な壁が見えてきた。時折、大きな人間に世話をされ、不愉快な股を改善してくれる。
現状を把握しようも
隣りにいる同世代の者は問いかけても
泣くか笑うか程度の反応をするだけで会話にならない。
世話をしてくれる女性は私の声を無視しているのか、
聞こえないようだ。
もうしばらく、様子を見よう。
そして、数日か過ぎた頃だった。
やっと母との再会だ。