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金色の旅路  作者: ガエイ
第六章 幕間
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第六十一話「特異点」

「――っというのが、我が知っておる神話の概要だ。事足りたか?」


 霊峰山れいほうざんに存在するような存在しないような、そんなサイコリライトシステムで出来ている巨大な館に戻ってきている。


 ついこの間旅立って「また数百年後に来ますね」なんて言ったばかりだから、少し気恥ずかしさがある。


 そんな館の本殿の板間に正座して少し見上げるようにサグメ様の姿を拝見し、背後には侍女の小柄な鬼が二人、槍を携えて立っている。


「あの……サグメ様、今の話って……」


「なんだ? 其方が知りたかった内容ではなかったか?」


 胡坐をかいて自らの足に肘をついて溜息をついていらっしゃる。


 確かに聞きたかったのはレイラフォードとルーラシードの神話についてだったけど……。


 レイラフォードとは何なのか、正直神代に近い並行世界に行っても何もわからないと思っていたのに、想像以上に早く答えを聞いてしまった……。


「なんというか、回答がすべて聞けてしまって拍子抜けといいますか……。なんというか……。神代というか古代というか、その世界に行こうと思っていたのですが、必要なくなってしまった感が……」


「流石はサグメ様でございます! ここまで的確に必要な情報をいただけるとは!」


 キジナは土下座をしながら、手放しにサグメ様の話した内容を褒めている。


 確かに聞きたい情報は聞けたけど、神様が人になったっていうのはなんとも信じてよいものなのかどうか……。


 そもそも、サグメ様はどうやってこの話を知ったのだろうか? サグメ様が長生きといっても精々三千年程度だ。いや、それでもすごいんだけどさ。

 でも、私の知り合いの九尾の狐であるヨーコは千年以上の時を過ごしているけど、そこまで詳しくはなかったし……。


 いったい何が違うのだろうか……。


「何故、我がここまで神代の事情に詳しいのか気になるのであろう?」


「流石は『見抜き』のサイコリライトシステムを持つサグメ様だけあって、私の考えなどお見通しでしたか」


「馬鹿者、能力など使わずともお主の顔を見れば猿でもわかるわ」


「うぅ……お恥ずかしい限りです……」


 思っていることが顔に出やすいタイプだというのはわかっているけど、流石に油断していたのかもしれない。


「なに、簡単なことよ。我は神の子――元は世界樹に住まいし国津神くにつかみが一柱、天佐具賣あめのさぐめの子、それが我『あまのサグメ』である」


「えっ!? サグメ様のお母様が神で、しかもお名前まで!?」


「我は母が亡くなった時にその名を継ぐこととなった。だが、元は神であった母と同じ名を名乗るなどおこがましい話よ。それ故、我は天佐具賣あめのさぐめではなくあまのサグメと名乗ることとした。あまかみではなく、神の使いであるサグメという小さき鬼だ」


「サグメ様の御母堂ごぼどうである天佐具賣あめのさぐめ様のお話は、小生もサグメ様から拝聴しておりました。しかし、レイラ様と言えどおいそれとお伝えすることはかたく、この度サグメ様の元で神々について伺うと聞き、レイラ様がこちらにいらっしゃるまでの間にあらかじめご事情をお伝えした次第でございます」


 隣で正座をしているキジナがサグメ様の方を向いて語る。


 せめて私の方を向いて話してほしいのだけど、予めサグメ様に話を通しておいて貰えた結果、ここまで具体的な話が聞けたのだから感謝しかない。


「我はまだほんの三千年程度しか生きておらぬが、神から人に堕ちた母から神々の世界――そして世界の理については毎晩聞かされて眠りについておったものだ。我は生まれつき『見抜き』のサイコリライトシステムが使えた故、世界の理を母が語っても別段問題はなかった」


 世界の理に関することを他人に話したら自らの命を失うこととなる。しかし、相手がサイコリライトシステムを使えたり、並行世界を渡れたり――要は既に一定の閾値しきいちまで世界の理に触れていれば、伝えても死ぬことはない。


「もちろん伝聞のうえ、全てを聞いたわけではないし、聞かされたすべてを覚えているわけでもない。幾億千万という年月の物語を晩の語りで覚えるなど無理がある」


「それは確かに……」


「寿命についてもそうだ、人に堕ち、近しい存在になったが腐っても神だ。母は幾億という月日を生き、我のような神の子であってもこれから幾万という月日を過ごすことになろう」


「その子の一族が『鬼』というわけですか?」


 改めてサグメ様の頭に生える二本の角を見ると、それが神々しいもののように思えてくる。あの角は幾千という歳を数え、これからも数え続ける存在なのだろう。


「この館におる者たちそれぞれ生まれは違うが、似たようなものだ。ただ、神の実子である我よりかは幾分過ごせる時は短いようだが……」


 私は背後を振り向くと、槍を携えて立っている二人の鬼の侍女が顔色一つ変えずにいた。


 自分の境遇を知っているのだろうか、知ったうえでここにいるのか、それとも私みたいに知らずにここにいるのか……。


「我の母、天佐具賣あめのさぐめは吉凶を占う――つまり物事を『見抜く力』をもつ『人』となった。母は人の身となっても幾億年という命を持っていたが、それでもやはり最期はあった。そして我は母にとって末子であった故、看取ったのも我であった……」


 看取ったということは、サグメ様のお母さま――かつて神であった人がこの三千年以内まで生きていたということになる……。もちろん、この並行世界の話であって、私が過ごしていた世界ではないけど神という存在はそこまで身近だったのか……。


「サグメ様の『見抜く』力は、お母様と同じ『見抜く』能力だったんですか?」


「左様、神は万能であったが、人に堕ちた神は力を失い、特定の能力のみしか行使できぬ程度まで堕ちてしまった。そして、神の子もまた同じ能力を持つ」


「では、私たちが人によって違う能力を持っているのは……?」


「其方が全てを守る力(インビンシブル)と名付けた防衛能力もまた、そなたの遠い先祖の神から堕ちた者が持っていた能力なのだろう」


 いままでは『強く願った能力が手に入る』と思っていたけど『秘めている能力を強く求めた時』にサイコリライトシステムに目覚めるということなのかしら……?


 いや、強く願った能力が手に入るという内容は正解ではないけど間違いでもないという感じかしら。


 ラヴェル達のいた魔法が当たり前にある世界では魔法を選択して取得すると言っていたけど、無意識のうちに自らが使える魔法を選んでいたり、使うことの出来ない魔法は才能がないという扱いにされていたのだろうか。


『魔法を得る』という現象に対して、それに沿うような理屈が後からついてきたのでしょうね。


 あと、全てを守る力(インビンシブル)は私が名付けたわけではない、名付け親はヨーコだ。


「サグメさま、もしわかれば一つ伺いたいのですが」


「何だ、申してみよ」


「私は様々な並行世界を旅してきましたが、異なる世界に同一人物がいることが多く感じます」


 ステラの兄であるオロ=ヴェローチェさんは、私が手紙を渡したオロさんがいたし、ニューヨークでステラ達と戦ったというオロもいた。そして、そのオロがいうにはそっちのオロさんの並行世界にもステラがいたらしい。


 どの並行世界にも『宝石店ヴェローチェ』は存在し、時代こそ違えどもステラ達は存在している。世界への影響力が強い存在ほど、どの並行世界にも存在するものだとヨーコやサグメ様から聞いたことがあった。


 でも、実はステラに何度か調べてもらっているけど『私』と『ユキナ』はどの世界にも同一人物が存在しない。

 だからこそ、『ユキナ=ブレメンテ』がいれば間違いなく本人だと断定出来るわけなんだけど……。


 どうして私やユキナには同一人物がいないんだろう……。


「存在が強い者は他の並行世界にも存在するというのは母から聞いた話ではあるが、逆に数多の並行世界で唯一無二の存在であるという詳しい理由は、我もわからぬ。だが、考えうるは二通りだろう」


「――と、言いますと?」


「一つは神のごとき唯一無二の存在であること。もう一つは存在が希薄すぎる、言い方を変えれば欠陥品といったところか」


「欠陥品……ですか……」


「うむ。いや、まぁ言い方が悪かったな、すまぬ。神が子を成し、そこから延々と連なる系譜が生まれるが突然変異というものは稀に起こる。大それたことではない、自然界でもよくある話だ。その突然変異の更に突然変異、その繰り返した先に存在するのが其方らなのだろう」


 黒いはずのカラスに突然白色が生まれ、白色のカラス同士が偶然掛け合わされていった結果、他の世界には存在しない唯一無二の別の真っ白な鳥になってしまった……という感じだろうか?


 相変わらず、例えが下手だから、上手く理解できているのか不安になる。


「確かに特異な存在ではあるが、別になんということはない。自分と同じ者がいるなど気色悪いだけだ、羨ましい限りよ」


「なるほど、つまり私は『特異点』ということですね!」


「ふむぅ……。まぁ、間違いではないが……」


 やったぁ! サグメ様は複雑な表情をしているけど、なんか特別な存在になれた気がしたぞ!


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