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金色の旅路  作者: ガエイ
第五章 ピーさん
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第五十七話「待ちぼうけ」

 未来人と聞くと銀色のスーツに身をくるんで、頭が少し大きい人をイメージしてしまうけど――いや、それは宇宙人だったかしら……?


 色んな文化に触れすぎて、元の世界の知識が結構曖昧になっていることがある。


「ピーさん、冷凍睡眠っていうのは解除してすぐに動き出せるようになるものなの?」


『否定。装置の解凍処理には想定解凍処理期間として七日程度必要となります。想定解凍処理期間を著しく超過するようであれば異常として認定し、別の工程処理が行われます』


 別の工程処理か……。蘇生か死亡か、それを判断して処分するって感じかしらね。


『それではこのまま解凍完了までお待ちください』


「最低で七日、長ければもう少しといった所でしょうか。小生はこういった状況が初めてなのですが、皆様は普段どのように過ごされているのでしょうか」


 キジナが見上げるように私の顔を伺ってくる。


「うーん、いつもならどこかへ出かけたり、それこそ月や年単位で暇になるんだったら、旅行に出かけたりするんだけど……」


「なーんにもないもんね」


 ステラと私がファーストエルサレムを眺めても、夜空と草原――そして今さっき射出された大きな冷凍睡眠装置しか存在しない。

 

 まぁ七日程度だったらこのままここに居座っても問題ない程度の時間ではあるけど……。


「ピーさん、さっきいたルンビニに戻ることは可能ですか?」


『否定。人間の解凍手続きが完了するまで、立会人の身柄は一時的に拘束され、ファーストエルサレムから外部への移動は禁じられます。言い換えるのであればファーストエルサレム内であれば自由に行動して構いません』


「重要事項を持った人間――ここでは幻体アンドロイドだっけか、それを野放しにするのは流石に駄目ってことね」


「まぁ、当然のことっちゃー当然ッスね」


「なるほど、それではこの場にしばらく留まるということでございますね」


 みんなもう当然のようにこの場で七日間を過ごすつもりでいるようだ。こういう時に異を唱える人がいないというのは楽で助かるわね。


「それじゃあ、解凍が終わるまでこの場でゆっくりさせて貰おうわ」


『了承』



◇ ◇ ◇



「今日で七日――と三日。合計で十日が過ぎたわね……」


 上空が宇宙空間で昼と夜の概念がないから、手元の時計とピーさんの体内時計による時間だから、多少誤差はあるかもしれない。


 八つの棺の近くで不機嫌になりながらも雑談をするアスカと大哉、ステラはラヴェルの膝まくらで楽しそうにしており、ラヴェルもステラの頭を上機嫌に撫でている。


 孤立していると言うべきか敢えて一人になりたがっていると言うべきか、キジナだけは一人で正座をして瞑想をしている。


 私は……。みんなを見守っているわよ!


「様子はどうですか? ピーさん」


 ラヴェルが少し心配そうな顔で空中で停止しているピーさんに声をかける。


 正直なところ、七日を過ぎてから毎日誰かしらが様子を尋ねている。


『不明。解凍処理は終了しているものの反応がありません』


「それなら『べつこーてー』ってやつは?」


 ステラがラヴェルの膝枕から宙をくるくると舞い、私とピーさんの元へ飛んできた。


『ちょうど日付が変更となった時点から心臓マッサージ等の蘇生措置を取り、心臓の鼓動が始まっていることを確認はしておりますが、その他の反応がありません』


「それは反応があるっていうんじゃないの!?」


 少し離れたところから聞いていたアスカが声をあげる。


 まぁ、それは私も思った、生きてるんじゃないの? それって?


『否定、我々は人間として日常的な活動することが可能となって始めて『変化』と認識しています。肉体的な反応があるだけではただの『物体』のままであり、アンラマンユとなんら代わりはありません』


「そ、それはそうかもしれないけど……」


 いやいや、違うでしょアスカ。なに言い負けてるのよ……。


「ピーさん、肉体的な反応があるって言ってたけど心臓は動いているんでしょ? なにか脳から信号は発せられていたりするの?」


『肯定。生命維持に関する微弱ながらも信号を確認はしているものの『精神波』と呼べるものの感知はしておりません』


 精神波……。脳の信号――精神という意味でもあるし、サイコリライトシステムの波動とも取れる。


 ピーさんを始めとした幻体が、もしサイコリライトシステムによって生み出されている存在であるのであれば――。


「ピーさん、ここにいる冷凍睡眠されていた八人――男性が四人と女性が四人かしら、全員の鼓動が再開しているの?」


『肯定、想定より遅延しているものの全員の鼓動と微弱な脳信号が発せられています』


「ありがとう、ピーさん。あと、ステラ、ちょっといい?」


「なぁにー?」


 さっき飛び起きたと思ったら、今度は膝枕ではなく草原まくらに変わっていた。ついこの間まで意気消沈していたとは思えない尊大な態度だ。


 そんなステラをチョイチョイと手招きをして呼び、数百メートルくらい移動してから耳元で囁きかけた。


星をみるひと(スターゲイザー)を使ってほしいの。まずは『人間』を対象にして、もし見つかるようであれば『いつもの二人』もお願い)


(いつもの? なんでこんなに小声なの?)


(念のためよ、ピーさんに聞こえてたら大変でしょ)


(うーん? どういうこと?)


(とにかくやってみて)


(はーい!)


 ステラが相変わらず珍妙なポーズを取ると、口パクで「星をみるひと(スターゲイザー)」と言っているのが見て取れた。


 口パクならポーズも控えて欲しい。


 ――さて、まずはどういう結果になることやら……。


 ステラの表情を見ると――


 なんだか、ちょっと驚いたような、嬉しそうな顔をしている。


 もう一度珍妙なポーズを取ると、今度は長いこと難しそうな顔をしている。


 わかりやすい娘だなぁ……。


(レイラ! レイラ!)


(何となく、答えは聞かなくてもわかるわ)


(そうなの!? すごい!)


 尊敬の眼差しでこちらを見てくるが、多分私じゃなくてもそれは一緒だろう。


(一応聞くけど結果は?)


(人間としては八人見つかったけど『いつもの二人』の方は見つからなかったよー)


 やっぱり……。ピーさんに聞こえていなければいいけど……。


 きっとピーさんたちが認識している『精神』とステラが探知している『精神』には感度か、あるいは物自体が違うようだ……。


 ステラからしたら冷凍睡眠から復活した人たちは『人間』だけど、ピーさんたちからしたらただの『物体』にすぎないということだ。


 こういうことは中途半端になるくらいなら逆にしっかりと言ったほうがいいのかもしれない。


「ピーさん」


『はい、なんでしょうか』


「自分勝手な話かもしれませんが、冷凍睡眠について気にしていた点については解決しました。再度凍結して元通りにしていただいて構いませんし、このまま解凍してご確認していただいても構いません。どうやら現時点の状態でステラは『人間』として認識できるようです」


『なるほど、我々の認識とステラ様の認識もしくは感度に誤差があるようですね。我々はこの状態ではまだ『物体』であると認識しております』


「そうみたいね、認識の差が生まれること自体は問題ではないわ。問題はここからなので相談したいんだけど、今から私はあなたに聞かれたくない話を仲間たちとします、そのため私たちはこれからあなたの知らない方法でここから脱出します」


『理解不能。冷凍睡眠については我々も有意義な情報の収集ができました、感謝いたします。現状で微弱な信号が発せられており、ステラ様がその状態を人間と認識できるということは精神の復活の見込みがあることでしょう。しかし、あなた方の目的が達成できているとは思えません。また、ここから脱出する手段などありえません』


「あり得ないかどうかは、気にしないでください。それにファーストエルサレムから無理やりどこかへ出ようと言うこともありませんのでご安心ください。それじゃあ、みんなピーさんから見えないところまで移動するわよ」


 私がピーさんに背を向けて歩きだすと、ステラが私の腰に抱きついて一緒に歩き出した。


 あ、一番重要なことを言い忘れていた。


 私は改めてピーさんの方を向いた。


「ピーさん、短い間だったけど、ありがとうございました。物凄く失礼なお別れの仕方だとは思うけど、見知らぬ私たちを導いてくれて本当に助かったわ」


 表情のわからない半透明の円盤に深く一礼をして、改めて背を向けた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! せめて少しくらいは説明しなさいよ!」


「そうッスよ! 姐さんには説明責任があるッスよ!」


「レイラ様がおっしゃるならそれなりの理由があるのでしょう。根拠や説明など後からついくるものです」


 そういいながらキジナが私のすぐ後ろをピタリとくっつくように歩みを進めてくる。


 突然かもしれないけど、この世界とお別れの時が来たようね。


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