第五十二話「知らない枝葉」
大樹を縦というか上というか、とりあえず根と反対の方向に向かって進み、みんなと揃って適当な世界へ入る。
光の輪をくぐって世界に入ると、私の隣には大哉がいる――と思ったのだが、なぜか今回は全員が同時に同じ場所に出現していた。
「あ、あれ!?」
「なんで皆さんが同じ場所にいるんですか!?」
私とラヴェルが同時に驚いたことで、他の三人もおかしいことに気づいたようだった。一方でキジナに関しては驚いているのかどうかわからず、何も表情に出ていなかった。
そもそも、キジナの出現地点については詳しく聞いていなかったが、恐らくあの屋敷と想定すると日本の中部地方の山間部だろうから私や大哉と近いだろう。
周りを見渡すと地平線まで人工芝のような草で覆われた果てしない緑の大地。しかも、その大地自体は明るく光り、空気の透き通った美しい夜空が浮かぶ不思議な空間だった。
人もいなければ建物もないし、動物も樹木も全くなにもない。
まるでクリエイティブ系のゲームでスタート時点の状態だった。いや、それでも太陽があって樹木くらいは生えているか。
「うーん、考えられるとしたら、私達の出現地点が全て一緒になっている――とか……?」
少し思案してみたがそれくらいしか心当たりがなかった。
初手からここまでイレギュラーなケースに遭遇するのは、流石に想定外だった。
「そんなことあるんスか?」
「無くはないって感じかしら、以前私とステラの出現地点がやたらと近いことがあったのよ。その時は大陸移動の影響なのか、ヴェネチアと東京が存在するはず場所の距離が近かったみたいなのよね」
「出現地点って緯度経度の指定だと思ってたけど、地点というか属性指定なんスね」
「そういう感じになるわね、私や大哉の場合だと『その世界で東京タワーが建設される場所』という属性が付与されている場所になるわ」
「確かレイラがアタシ達の世界に来た時はヨカヨカ村の近くに出たんだっけ? 東京って上海と近いところなのよね? 結構ヨカヨカと上海って環境が違うわよ」
世界の出現地点はあくまで『その世界にもし何々があったら』という地点になるから、極端に言えば南極に東京タワーが建ってたら南極に出現することになる。
そのため、ラヴェルたちの世界に東京タワーがあったらという地点が赤道付近だったということだ。
逆に考えると、今の状態は全員の出現すべき地点が全員同じになるような属性が付与されている地点ということになる。
例えば、地球が私達のいる範囲まで小さくなっているとか、
「まぁアレコレ考えていても仕方ないわね、とりあえずステラ。星をみるひとでレイラフォードとルーラシードの場所の探索をお願い。近い方へ向かいましょ」
「オッケー! 超ぅ! 広範囲ぃ!! 星をみるひと!!」
毎度のことのように珍妙なポーズで気合を入れてるステラに、星をみるひとで探索を行ってもらったのだが、今回はステラが少し険しい表情をしている。
「むむむ?」
ステラが手を顎にあてて悩んでいるようだった。
「どうかしたの? ステラちゃん」
「うーん、いつもならもう見つかるくらいの時間なんだけど……。いや、なんかそもそも星をみるひとの感覚も違うというか……」
「どういうことなのよ?」
「地球って丸いじゃん? だから、ワタシの出した太陽のような光が地球を覆っていってどこかで最後に光同士がぶつかるんだけど、今はどこにもぶつからずに広がり続けているんだよねぇ」
「未来の地球は大きさが変わってるとか?」
「それにしては範囲が広すぎるような……」
スッと気が抜けたように、右手を天に掲げていたステラが肩を落とした。
「ダメダメ、全然みつからないや。いつもの大きさなら地球三つ分くらいの範囲調べたよ」
「レイラフォードとルーラシードがいない世界ってことなんでしょうか?」
ラヴェルが心配そうな顔をして私の方を向いてくるけど、私もそんな世界には遭遇したことがない。
もちろん存在にイレギュラーがあるということは稀にあるだろうけど、それにしても全くいないなんて……
レイラフォードもルーラシードも必ず世界に存在しなければならないものだ。存在そのものがないということはあり得ない。
「レイラ様、レイラフォードとルーラシードが容易に見つからないというのであれば、別の世界に行き先を変更すべきではないでしょうか?」
スッと無表情なキジナが目の前に現れて提案をしてきた。
この子って喋るんだという当たり前のことを思ってしまった。
確かに言う通りなのかもしれないけれど、この世界が全てイレギュラーなところから始まっているから、気になってはいる。今後、どんな世界と出会っても対処出来るようにしたいというのが半分と、もう半分は気になって楽しそうだからという好奇心だ。
好奇心を押さえられる旅人なんて存在しないのだ。
「うーん、イレギュラーはイレギュラーで原因を調べて、危険そうであれば世界を変更するっていうのはどうかしら?」
「なるほど、それであれば問題ないかと思います。要らぬ口を挟んでしまい、申し訳ありませんでした」
キジナが深々とお辞儀をする。
こういう対応は丁寧であるけれど、もう少し距離感が近くてもいいんじゃないかなとも思う。
「ステラ、もう一度星をみるひとで探索をしてもらっていい?」
「別にいいけど、次は何を調べるのー?」
「一番近くにいる『人間』よ」
「なるほど、近くにいる人に色々聞くってことですね」
「まぁ、順当な調査よね」
ラヴェルとアスカは私の言葉を文字通り受け取っているけど、大哉はその言葉の意味を理解しているようだった。
「姐さん、もしかしてポストアポカリプスってことっすか……?」
「もしかしたらってね……。違うと良いんだけど」
ステラもよくわからないまま星をみるひとを使う準備をしているようだった。
「それじゃあいくよー! 星をみるひと!!」
気合が入っていないあたり、効果範囲もそこまで広いという想定のようだ。
別に気合が入っているから遠くまで調べられるとかそういう代物ではないと思うけど……。
「むむむ」
「参ったわね……」
ステラが唸った時点で私は色々と諦めてしまった。
「やっぱりっすか……」
「そうみたいね……」
大哉もどうやら察したようで苦笑いをしていた。
「どういうことなんですか?」
「いないのよ、人間が。この世界には」
「え!?」
ラヴェルが投げかけた質問の答えに、流石のアスカも驚いたようだった。
「レイラフォードやルーラシードどころか、人間自体が滅んだ世界なんでしょうね。でもこれだけ綺麗に広がる空間があるということは何かが存在するとは思うんだけど……」
「やっぱりロボットとかぁ?」
「そういうものが有り得そうっていうのが現代人の思いつく範囲の限界よね。人類は何らかの理由で滅亡してロボットだけが生活してる世界って感じ?」
「なんか、魔法が当たり前にあったアタシたちの世界も、根幹世界から見たら大概変わってたのかもしれないけど、ここはそれ以上の世界ね」
アスカは考えるのを放棄したような、そんな呆れた顔をしている。
無理もない、私ですら考えるのを放棄したいくらいなのだから。
「ステラの星をみるひとでは無機物は調べられないし、虫とかも含めた小動物を手がかりに歩みを進めて行くしかないわね」
「レイラ様、やはりこの世界で調査を続けるのですね」
キジナが再度確認をしてきた。
「えぇ。未来世界での調査方法が確立したら、他の似た世界観でも赤い糸を紡ぐことが出来るようになるからね」
「なるほど、そういった前向きな理由でしたか。小生としたことが思慮が浅く、失礼いたしました」
というのは建前でやっぱり好奇心が勝っているだけだ。
こんな面白そうな世界、考えるのをやめて探検したいに決まってるじゃない!!




