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金色の旅路  作者: ガエイ
第四章 天のサグメ
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第四十四話「最古のレイラフォード」

 ユキナと会合し、それぞれ大なり小なり傷を負った我々一行は次の目的地を決めなければならなかった。

 だけど、今のみんなの状態ではまともに活動できるとは思えない。

 こういうときは『あそこ』へ行って、一度気合を入れてもらったほうが良いのかもしれない。



「それじゃあ、次はこの世界に行くわよ。私は何度か来たことのある世界だから、多少は案内出来るわ。この世界樹が生まれて、早い段階で枝分かれした果ても果ての世界よ」

 大樹を背にして皆の前で説明をした。

 普段は空間を泳いで遊ぶステラも、今日は黙って私の話を聞いていた。

「つまり、俺たちがいた世界からかなり遠い世界って事っスか」

「そういうことになるわね。もちろん、ここよりも更に遠い世界はあるけど」

「何度か来たことあるって言うんだから、何かここに行く目的があるのよね?」

「それは世界に入ってからのお楽しみよ」

「……もしかして、今の私達に何か教えてくれるんですか?」

 流石はラヴェル先生、鋭いところをついてくる。

 やはりラヴェルも口にはしないが気づいているようだ。


「それじゃあ、世界に入ったら私のいる場所が待ち合わせ場所ということで。ステラはラヴェルとアスカの案内を頼んだわよ、大哉は出現地点が私と同じ東京タワーだから一緒に行くからね」

「アスカさぁーん! しばらくのお別れですけど悲しまないでくださいねぇー!!」

「むしろ嬉しいわ!」

 大哉が演技がかった立ち振舞いをして場を和ませている。彼のこういう所が魅力なのだろう。

 こうして我々一行は新たな世界へと足を踏み入れたのであった。




………

……

 新たな世界に入って三年が過ぎた頃、ようやくステラ達三人が私のもとに来た。

 この世界は根幹世界とは全く異なる地形で、出現地点がそれぞれステラはイタリア、ラヴェルとアスカはソビエト、私と大哉は日本とただでさえ東西に別れている状態なうえ、この世界では各地点の間には大きな海がそれぞれ存在している。 

 世界観としては古代と言った文明レベルだろうか、根幹世界とは全く違う地形な上に移動手段もろくに存在しない世界だ、その技術力の中でステラは大きな海を二つ渡ってきたのだ、三年で済むのは恐ろしいくらいに早いと言っても過言ではない。


「お待たせしました、レイラさん」

「何となくレイラの言う時間感覚が掴めてきたわ……。三年もかかってるのに割とすぐ着いたように感じたもの」

「精神だけになると、時は早く過ぎ去って行くようになるのよ。逆に集中すれば長く感じるし」

 厳密に言えば『楽しいもの』であれば早く感じると言ったほうが正しいだろうか。肉体があった頃でも、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていただろう。あれの影響が大きくなったものと言えば良いだろうか。

 きっとここまでの旅が無意識に楽しいものと認識していたのだ。


「さて、ここまで来てもらったわけなんだけど……」

「周りを見ても山山森山森川山……。なによ、ただの木が生い茂った山じゃない」

 アスカが周りを見渡しながら疑うような目でこちらを向く。そんな目をするんじゃない。そろそろ私を信用してほしい。

「まぁ、普通はそう見えるわよね」

「ん? 普通って事は姐さんには普通じゃないんスか?」

「私には入場券があるのよ」

 そう言い辺りを見渡す。周りは静かなもので、風が吹いて起こる木々のざわめきのみが聞こえるだけだった。


「やあやあ、我こそは時の住人、レイラ=フォードなり! 時の女神の名を持つ姫君に相見えんと参上した! 願わくば時の牢獄の門を開き給え!」


 私は右拳を前に突きつけ、大声で叫んだ。

「……ね、姐さんどうしたんスか、急に鎌倉武士みたいになって」

「うるさいわね! 私だって言いたくて言ってるわけじゃないんだから!」

 どうも日本の名乗りというものだというのは知っているのだけど、それが何故必要なのかとか、そういうのは全くわかっていない。よくわからないまま言わされているのだ。

 もし必要でないのに言わされているのであれば『あの方』に文句の一つでも言いたいものだ。

「ここは『霊峰山(れいほうざん)』という山で、存命する最高齢のレイラフォードが住まう場所なのよ。そして、今言ったのがその方のいる館の扉を開けるための合言葉なのよ」

「最高齢のレイラフォードさん……ですか」

「一体何歳なの?」

 アスカがきょとんとした顔でこちらを見てくる。

「三千五百歳よ」

「さ……!?」

 問いかけてきたアスカよりも、後ろにいたラヴェルの方が大きく驚いていた。

「姐さん、存命でそれって流石に盛りすぎッスよ。百歳とかならともかく」

「なんで私がそんなところで嘘言わなきゃいけないのよ。この世界は果ての世界って言ったでしょ。いるのよそういう種族が」

 しばらくすると私の前の何もない空間に、光の屈折が少しずつズレて透明な大きい扉が現れた。

 扉は光を放ちながら少しずつ開き、完全に開き切ると奥にはとてつもなく広い館の内部が目に入ってきた。

「空間転移魔法ですか!?」

「まぁ、近いものかもしれないわね。さぁ、行きましょ」

 私が一歩踏み出して進むと、ラヴェルたちも私の後から一列に並んでついてきた。

 ちなみにステラも勿論いるけれど、さっきから全く声を発していない。感情が死んでいるように感じた。

 ステラは道中も最低限の会話しかせず、壊れかけていたそうだ。

 今回の世界はみんなのためと言ったが、その殆どはステラのためと言っても過言ではない。

 この世界は運命の赤い糸を紡ぐのではなく、『あの方』にお会いするのが目的だ。


 中に入ると館の扉は閉まり、ただの広い館となった。

「お久しぶりでございます。レイラ様」

 白い装束を着た少し赤ら顔の二人組が左右に立ち一礼をしてきた。

 私達と違う点があるとしたら頭に二本の小さな角が生えていることくらいだろう。顔が赤いのもお酒を飲んでいるからではなく、元からそういう肌の色なのだ。

「姐さん、もしかしてこの人たちって……」

「大哉は何となく理解できてそうね。そう、ここは鬼が住まう館よ」

「鬼って……実在したんスね……。いや、いま確かに見てるから実在してるのは間違いないんスけど」

 普段は飄々としている大哉が、唖然とした顔で左右に立つ二人の姿を見ている。

 それもそうだ、おとぎ話の中でしか存在しなかったものが目の前にいるのだ、驚くのも無理はない。

「あの、レイラさん。多分私とアスカちゃんはその鬼っていうのをよく知らないんですけど……」

「そうね、私と大哉の世界では空想上の悪しき生き物として伝承されてきた存在よ。実際にはこうして実在する世界もあるし、もしかしたら私達の世界に伝承として存在してきた鬼も、過去には本当にいたのか、あるいは並行世界を渡って現れたのかもしれないわね」

「なるほど、なんとなくはどういうものかは理解できました。私達の世界にもペーガソスとか空想上の生物というのはいましたし」

「あ、ペガサスってそっちの世界の神話にもいるのね」

 私達の世界でも世界各地に共通点のある神話がいくつも残っているし、他の並行世界でも似たような神話や伝承があっても不思議ではない。やはり世界は何かしら似たような面や、歴史が収束する作用でもあるのかもしれない。

 あるいはそもそも世界が分岐する前の、世界が一つだった頃に起こった出来事が各世界に神話として残っているのかもしれない。

 私達には世界を渡る力はあっても、時を遡る力はない。様々な世界を渡って謎を解明することは出来ても、それを答え合わせする事は出来ない。

 レイラフォードとルーラシードという存在についてもそうだ、存在する理由はわかっていてもどうしてそれが生まれたのかは分からない。

 自然発生したものなのか、はたまた人為的に作られたものなのか、その答え合わせをする事はきっと出来ないのだろう。


「レイラ様、本日はどういったご要件で?」

 左側にいた門番の鬼が私に話しかけてきた。性別が分かりづらい格好をしているがおそらく女性だろう。

「ちょっとサグメ様にお話を伺いたくてね、一発根性を入れてもらいたいの」

「左様でしたか。少々お待ちください、話を通して参ります」

 門番の一人が一礼をして館の奥へ下がっていった。


「待ち時間にここの説明でも簡単にしておくわ。ここは霊峰山に存在するけど存在しない、サイコリライトシステムによって生み出された幻の館よ」

 サイコリライトシステムは精神の力。具現化された能力は、精神力さえあればどんな大きな建物や空間でも制御することができる。

 往々にして我々が知るサイコリライトシステムは規模が大きいものが多い。私の能力もあらゆるものを防ぐという大それた能力だし。

 恐らく規模が小さいサイコリライトシステムというものは、本人も気が付かないうちに使っているものなのかもしれない。本人が得意と思っていること、それがサイコリライトシステムであるという可能性だってある。

 例えば野球で160キロの球を正確無比に投げて、バットを持てばホームランを打てる。そんな人がいたらサイコリライトシステムで能力を向上させているかもしれない。

 他にも戦場で敵軍の動きを読んで的確な指揮を取れる人がいたら、サイコリライトシステムで動きを読み取っているのかもしれない。

 歴史上の人物は往々にしてそういった能力を使って歴史に名を残して来たのだろう。

 もちろん、そうでない人も大勢いるとは思うけど。


「この館にいる者は、長であり最高齢レイラフォードであるサグメ様を筆頭に全員が能力者で構成されているわ」

「全員が能力者っていうことは……」

「アスカは察しがいいわね。全員が能力者であればユキナの全てに愛される力(ラヴズオンリーミー)は誰にも効かない。この館でユキナはただの非力な少女ってわけ」

「なるほどなぁ、魔女を完封するには絶好の場所ってワケっスね」

「そう、だからこの世界のレイラフォードがユキナに狙われることはない。ただ、この前みたいに手練れの協力者がいたら危なかったかもしれないけど、それもこの屋敷に入れたらの話。能力によって閉ざされた空間に入ることは困難でしょうね」

「だから最高齢でいられる、っていうことですね」

「そう、もちろんそれもあるわ。あとはサグメ様の能力ね、私も以前ここに来た時にボロボロにされたわ」

「一体どんな能力なんスか……」

「それは会ってからのお楽しみということで」

 話をしていると館の奥から門番の者が戻ってきた。

「レイラ様、サグメ様とお取次ぎができました。本殿の方へお越しくださいとのことです」

「ありがとうございました。それじゃあ、みんな行きましょうか、この世界のレイラフォードのところへ……!」

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