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金色の旅路  作者: ガエイ
第三章 ステラ=ヴェローチェ
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第三十七話「呪い」

 数ヶ月が経ったがオロは見つからなかった。

 バゴの命令で給仕たちが総動員で捜索へ向かったが、帰ってくる者は『見つけられなかった』という報告ばかりだった。帰ってこなかった者が向かった方へ捜索に行くと、次はその者達が帰ってこなかった。

 結果的にオロの姿を見たものは一人もいなかったのだ。


「オロ兄……」

 宝石店の店内で苛立ってカウンターテーブルに拳を叩きつける『長男』となったカルロ。

 カルロとステラにはオロを捜索する任を与えられていない。だからこそ余計に苛立ちを隠せなかった。

「カルロ……。兄様は自由になりたかったんだよ。そして自由になった今、ワタシたちが口を出すことではないよ」

 落ち着いた顔つきのステラがカルロを嗜める。

「ステラ姉! 何でそんなに落ち着いていられるんだよ!」

「そういう態度だから、カルロは兄様の捜索をさせてもらえないんだよ……。ワタシも兄様を探しに行きたいけど、それも父様に見透かされているんだと思う」

「くそっ!」

「それに、仮にも次期当主候補の二人が捜索に行って返ってこなかったとなったら話にならないからね……。それくらい影響のあることを兄様は理解した上でやったんだから……」

「…………」

 悔しそうな顔で歯を食いしばるカルロ。己の小ささ、そして兄の偉大さを改めて噛み締めていた……。




―――東洋の国の某所、文明開化の音がするその都に、赤と黒の霧が発生して一人の女性が現れた。

 世界中を一瞬赤い光で覆った彼女は、長い時間を掛けて欧州へ向かった。一人の女性を探し出すために。



―――欧州某所


 太陽の光を曇天が遮り、小雨が降る中を一人歩く女性はぽつりと呟いた。

全てに愛される力(ラヴズオンリーミー)、何人たりとも私に危害を加えることは許されない」

 念のため彼女は『他人を意のままに操ることができる能力』を使った。これで一部を除いた世界中の人々は彼女に危害を加えることができなくなった。

 目的の者がいる地まで、一歩一歩と歩みを進める。

 

「――!!」

 彼女は目的地に着くと驚いた顔をした。

 大きな街の教会には喪服の人々が集い、探していた男性が棺に向かって涙していたからだ。病気か事故か殺人か、その理由はわからない。

 彼女は何度も何度も運命の男女の赤い糸を断ち切ってきたが、赤い糸が断ち切れた直後に訪れたのは初めてだった。

「そう……。私が手を下すまでも無かったのね……」

 他の世界では魔女と呼ばれた彼女――ユキナも少し寂しそうな顔でその場を立ち去った……。



 本来なら直ぐに別の並行世界へ向かうのだが、何故だか妙にあの泣いていた男の事が気になってしまい、改めてユキナは運命の男――オロ=ヴェローチェの元を訪れた。


 数日観察すると、日中は常に腑抜けてしまっているが、いざ追手の暗殺者が来ると手慣れた手付きで瞬殺している姿が伺えた。

 本来のオロであれば暗殺の場を他人に見せる事などあり得ないが、それほど腑抜けてしまっているのだろう。


 更に一ヶ月が過ぎたが、状況は殆ど変わらなかった。変わったといえば腑抜けっぷりが更に増して腐り切っているくらいだ。

 流石に苛立ったユキナがオロの家を訪れ、壁際で座り込んでいたオロを蹴り飛ばした。


「あーイライラする……」

 本来であれば平均的な女性の身体能力しか持たないユキナの攻撃など反射的に相手を倒せるオロであったが、全く殺意の無いユキナの蹴りは綺麗にオロの腹部へとぶち込まれた。

「あなたはどうしたいの……? ほら、言ってみなさいよ……」

 オロが顔を上げユキナを見る。

「天使……いや、悪魔かな……? ははっ、僕はね……自由になりたいんだ……」

「私は悪魔ではないわ……魔女か死神よ……」

「死神か……。レイディアントという自由を奪ったのは君だったか」

 オロは自嘲気味に笑う。

「自由……? アレは自由とは正反対……呪いよ……」

「……ヴェローチェ家という檻からレイディアントが僕を自由にしてくれたと思っていたが、死神の君が言うんだ……レイディアントは呪いだったのかもしれないね」

 再び俯き、地の向こう側を見つめるオロ。


「ヴェローチェ家ってのがどういう所か知らないけど、あなたの言っている事は間違いではないわよ……」

「どういうことだい?」

「あなたをヴェローチェ家という呪いからあのレイディアントとかいう女は自由にしてくれた……。確かにそれは合ってるわ……。でも、今度はレイディアントという呪いに縛られた……。一時は楽しかったでしょうね……でも今はあの女に縛られて腐り切っている……。アレは呪われた女よ……」

「……呪いか、そういえば最初に僕が苦しんだときにステラが言っていたな『呪いにでもかかったのかなぁ』って」

「私の言う呪いと、あなたの言う呪いの意味や解釈の仕方は違うかもしれないわ……。でも、いずれにせよアレは呪われた女だったし、あなたはまだ呪いにかかっている……」


「僕はどうすればいいんだい、教えてくれよ……」

 ユキナは必死に見つめてくる今のオロを見て『飢えている』と感じた。まるで食事を久しく摂っていない獣のように。

「さぁ……? あなたを新しく呪ってくれる先を見つければ、あの女からは自由になるんじゃない……?」

 オロは再び俯き、焦点の合わない眼で床を見つめて呟く。

「僕の名はオロ=ヴェローチェだ。レイディアントと過ごしていた間はヴェローチェ家の人間ではなかったから違う名前を名乗っていたけど、僕はオロ=ヴェローチェだ」

「それで……?」

「僕はヴェローチェ家へ呪われに帰るよ。ありがとう死神さん、レイディアントを――妻を葬ってくれて」

「お礼を言われる筋合いは無いわ……」


 本人の意図しない方法ではあったが、魔女――ユキナはこの世界でもレイラフォードを葬り去ることに成功した。


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