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金色の旅路  作者: ガエイ
第二章 里野大哉
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第二十八話「成長」

 両手両足を拘束されて、レイラフォードの蘭翻さんの居場所はバレていて、現地ではステラとラヴェルがオロ=ヴェローチェと戦っている……。

 状況は思ったより悪い。ユキナのことを甘く見ていた……。

 人質を取られると一気に不利な状況になるのは想定の範囲内だったけど、まさかユキナに協力者が出てくるなんて……。

 能力を使える人であれば洗脳されることはないし、能力が使えなかったり世界を渡る者でなければ大抵のことは能力でなんとかなる。

 それにユキナの全てに愛される力(ラヴズオンリーミー)は悔しいけど私と違って万能の能力だ。だから仲間を作る必要がない……。

 だから、ユキナとの戦いはユキナ一人に専念すれば良いと思っていたのだけど……。


「私に協力者がいたことがそんなに不思議かしら……? 彼にとって私に付いてくることがメリットになっただけよ……」

「私の知ってるオロはお前といることにメリットを見出すような性格をしていない!」

「それはあなたの知っているオロ=ヴェローチェではないからよ……。違う世界の――むしろこっちのオロ=ヴェローチェの方が数多の並行世界の中では一般的だったのよ……」

「くっ……!」

「それじゃあ、あとはオロがレイラフォードを殺すのをここでゆっくりと待たせて貰うわ……」

 ユキナがガードレールにもたれかかって余裕気な顔で腕を組み、レイラフォードを殺したという連絡が入るのを待ち始めた。



 ――一時間近く経っただろうか、時計は午前七時半を指している。

 その時、私のズボンのポケットに入っている携帯電話が震えた。

 何も音のない空間にただただ鳴り続ける着信音。待っていた連絡が入らず、私に何かしらの連絡が入っていることに苛立ちを覚えたユキナが口を開いた。

「鬱陶しいわね……。レイラの腕を捕まえているあなたに『お願い』するわ……携帯電話を取り出して腕を拘束したまま電話に出させなさい……」

 ユキナがそう指示すると私の腕を掴んでいた三十代くらいの女性が、片手で私のズボンのポケットから携帯電話を抜き取り、通話ボタンを押して私の耳元に持ってきた。

「もしもし……?」

 恐る恐る電話に出る。この世界で私に電話ができるのは仲間の誰かか、この短期間に電話番号を仕入れて勧誘してくる業者くらいだろう。

『レイラさん! やりました!!』

「ラヴェル!? やったのね!?」

「……!? 馬鹿な……!? オロがステラ相手に時間を取られるのはわかるけど、ただの一般人一人を殺せないような人間じゃ……!」

 ユキナが立ち上がって驚愕した顔でこちらを見てくる。

『蘭翻さんは無事にルーラシードさんのところに連れていけました、ただその……ステラちゃんが……。あと、私もちょっと怪我を……』

「無理しないで二人とも、落ち着いたらまた連絡して頂戴」

『はい、わかりました』

 ラヴェルの声は少なからず苦しそうだった。やはり二人がかりでも無事では済まなかったのだろう。

「何をした……?」

 ユキナが怖い目つきをしながら私に一歩二歩と歩みを進めてくる。

「守ることしか出来ないお前に……」

 私は守ることしか出来ない、だから守ったのだ。

「何故……オロが殺れないわけがない……!」

 ユキナに胸ぐらを掴まれて下に着ていたカーボンナノチューブのスーツが露わになる。目の前まで顔を近づけて怒鳴るユキナ。怒鳴れば怒鳴るほどその声が空虚さを増していく。

「まだ気づいてないの? 眼の前に答えがあるのに」

 思わず余裕の笑みが浮かんでしまった。まだ危険な状態なのに。

「……!? レイラ=フォード貴様……!」

「試してみる?」

 次の瞬間にはユキナが抜刀し、私の首筋に向かって全力で振り抜いてきた。

「いったあああああ!」

 痛い! そう、痛いのだ。

 しかし、ただ痛いだけでカーボンナノチューブのスーツのおかげで首はくっついたままだ。

「どうして……。全てを守る力(インビンシブル)が無いですって……?」

 ラヴェルが教えてくれた。私達の使う能力――サイコリライトシステムは精神の力。イメージすることが大事だと。

 私の能力は完成されていた。自らを守り、守れても三人が収まる程度の範囲であれば何物からでも守れる無敵の能力だ。

 でも、私はそれが全てだと勝手に思い込み、完成されたものだと信じていた。

「私の能力もまだ成長途中だったのよ」

 ユキナが今度は刀を振りかぶって脳天に向かって全力で振り下ろしてきた。

「いったあああああああ」

 痛い! 久しぶりに感じる痛み!

 でも発した声は籠もっていた。

「無駄ッスよ! 刀が効かないのは俺で実証済みッスからね!」

 私の眼の前は真っ暗で何も見えない。大哉が能力で守ってくれたのだろう、これも作戦通りだ。

 作戦その一はこれ。大哉の能力で物理攻撃を全て無効化にすること。もちろん相応の痛みはあるから限度はあるけど。

 ただ、大哉が私もスーツを着込んでいると発した時は少し焦った。勝手に秘密を漏らすんじゃない。

「ちっ……」

 ユキナが納刀した音が聞こえると、大哉が能力を解いて眼前が明るくなった。全身タイツから早く戻りたかったから助かった。

「これ以上やっても見苦しいだけで無駄そうね……」

 作戦その二は成長した私の能力。『全てを守る力(インビンシブル)を他人に譲渡する』こと。

 今、全てを守る力(インビンシブル)は蘭翻さんに付与されている。だから、何があっても蘭翻さんに危害を加えることはできない。

 本来はユキナがニューヨークに現れることを想定して念のため付与したのだが、まさか協力者のオロが現れるとは……不幸中の幸いだったわ。

「レイラ姐さんの能力が無いことがバレやしないかとヒヤヒヤしたッスよ。俺やアスカさんよりも先にレイラ姐さんに攻撃されてたら、ラヴェルさんたちがルーラシードのところまで行く時間を稼げなかったッスからね」

 そう、私達は蘭翻さんを送るために時間が必要だった。

 ユキナが上海に来た場合は、蘭翻さんがいないことがバレないようにすること。

 ユキナがニューヨークに来た場合は、蘭翻さんに付与した全てを守る力(インビンシブル)を使って無理やりにでも送り届けること。

 今回はそのどちらにもならず、ユキナが上海に、オロがニューヨークに来るということになったが、結果的にその両方に近い内容のことを行うこととなった。

 ユキナは私ともう何百年という長い付き合いだ。私の全てを守る力(インビンシブル)の性能を知り尽くしている。それ故に隙が生まれた。私が上海にいるということはニューヨークは手薄だと思い込んだのが油断以外の何ものでもない。

「ユキナ、今回は私のことを知り尽くした故に作戦に引っかかってくれてどうもありがとう。次に会うときは誰も被害を出さずにお前を殺せる方法を考えておくから覚悟しておきなさいよ……」

「そうね……。私も別に快楽殺人者じゃないし、身を守るのとレイラフォードを殺すため以外に人を殺したいわけじゃないからね……。そのうち、被害を出さずに全てを守る力(インビンシブル)を攻略する方法を考えておくわ……」

 ユキナはそう言いながら出現させた赤と黒の霧の中へ入っていき、この世界を立ち去った……。


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