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金色の旅路  作者: ガエイ
第二章 里野大哉
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第二十五話「空っぽ」

 午後一時頃。蛮族みたいなやり方をしたものの、蘭翻さんは無事?にニューヨークへと旅立てたとラヴェルから私の携帯電話に連絡があった。

 幸いなことに東京に来るときに一度手続きを見ただけで、ラヴェルは搭乗に係る概ねの手続きを覚えたそうだ。どんだけ優秀なんだあの娘は……。

 それに比べてこっちは……。

「何よ」

 尊大な態度をとる蛮族のアスカと、その従者の大哉がいた。何だその態度は。

 空港まで見送った我々は、場所を蘭翻さんが勤めている会社の近くの公園へ移した。

 私とアスカはベンチに腰掛け、サイズ的に三人座るには狭いからか大哉は自主的に私達の前に立って話をしていた。

 何もなければこの辺りにユキナが現れ、レイラフォードの詳しい居場所を少しずつ絞っていくはず……。

「ところで、魔女ユキナがとんでもないやつだって言うのは私達の世界でもわかっているけど、どういうやつなのよ? ほら、見た目とかさ」

「確かに、何かヤベーやつだってのはわかってきたけど見た目は聞いてなかったッスね」

「見た目ねぇ……。ボサボサで天然パーマのかかった黒髪のミドルヘアで、目の下にクマがあって服装は赤と黒のゴシックロリータで、腰に日本刀を帯刀しているわ。喋り方もボソボソと何言ってるか分からない感じで、強気に振る舞ってるけど実際には小心者の根暗な女よ」

「なんかカッコつけた奴ッスね」

「まさにそんな感じよ。見たら一目でわかると思うわ」

 ユキナのゴシックロリータの服装は、レイラフォードを殺すときに着る死に装束だと聞いている。

 逆に言えばゴシックロリータの服装を着ていないときは殺す気がないとも取れる。その時は一般的な服装をしているから、アスカと大哉も気づかない可能性がある。

「朝八時から行動を始めて今が午後一時、ステラがニューヨークに到着するのが上海の時間で明日の午前一時近くで、蘭翻さん達が午前四時頃。仮にユキナが今日中に私達のことを知ったとしても一応ある程度先手は打てた形になったわね」

「やっぱり気絶させたのが効果的だったわね」

「目が覚めてからラヴェルが酷い目に合いそうだけどね……。その辺りはラヴェルの力量に任せるわ……」

 ラヴェルには本当に苦労をかけてしまう……。きっと賢いあの娘の事だから、口下手なりに上手く説得出来ると信じよう。

「姐さん、これからの時間は何かするんスか?」

「やれることはやったし、作戦会議はラヴェルが飛行機に乗る前にしたから本番はその通りに動くだけだし。あとはいつユキナが来ても大丈夫な様にドキドキしながら待つくらいかしら」

 作戦は既にいくつか用意してあり、ユキナの出方次第である程度柔軟に対応出来るとは思う。

 というか、ラヴェルと蘭翻さんが飛行機に乗る前から既に作戦は始まっている。


「レイラ、良かったの? 今回の作戦、自己犠牲ってわけではないだろうけどあなたかなり危険じゃない?」

「その辺りはみんなの力を頼りにしているわ。特にアスカの騎士様の能力にはね」

 そう言いながら大哉の顔を伺う。

「いいッスね、騎士って。何か信頼されてるっぽい感じ」

「ぽいじゃなくて、本当に頼りにしてるのよ」

「そういうもんスか……?」

 どこが含みのある言い方だった。大哉らしくない――らしい? まだ出会って大した時間も経ってないのに、らしいも何もないだろう。

「何よその誰からも信頼されてないって言うような言い方。そういえばアンタって、アタシを追ってそのままここまで勝手に付いて来てるけど身の回りの事ってどうなってるのよ? 放ったらかしで面倒なことになっててアタシに迷惑かけないでよ?」

 呆れたような顔をしてアスカが大哉に物申す。

 自分本意な言い方をしているけど、その実は心配している節が見えるのが何ともアスカらしい物言いだ。

「うーん、まぁ俺が死んで困る人はいないというか、そもそもアスカさんや姐さん達に出会ったときは『死にたいなぁー』って思ってたからちょうど良かったんスよ」

 突然の告白に不意をつかれてしまった。当人の大哉は頭を搔きながら照れ笑いをしている。

「ちょっと初耳よ、それ!」

「言ってなかったッスからね。あ、でも彼女にフラれたって言ったのは咄嗟に出た嘘だから、そこに関しては申し訳ないと思ってるッスよ」

「それも嘘なの!? それじゃあアンタ何も素性わからないじゃない!」

 確かにどこで生まれてどういう人生を歩んできたとか、そういうことは聞いていなかった。直近で彼女にフラれて落ち込んでいたし、勝手に一人暮らしの大学生辺りだと思いこんでいた。

 本人が話してこなかったし、声をかけてくる事も無かったからこちらから聞くことは控えていた。みんなそれぞれ人に言いたくない事情を抱えていることはある。根掘り葉掘り聞くものではない。

 でも、思っていたよりも大哉に関しては空っぽだった。

「素性がわからないなんてそんな。一人暮らししてたってのは嘘じゃないッスよ、東京中をフラフラとしてて、あの日はあの東京タワーの近くの公園で一人暮らししてたんスよ」

「あなたそれは一人暮らしじゃなくてホームレスっていうんじゃ……」

「まぁ、そうとも言うッスね」

 底抜けに明るい性格な人間だとは思っていたけど、実際はここまで素性が見えてこない人物だったとは……。

「まぁ、俺のことをなんてどうでもいいじゃないですか」

「どうでも良くないわよ! 何よそのチョイ出し情報! 逆にめちゃくちゃ気になったわよッ!!」

「アスカの気を引く作戦なら大したものね」

 呆れてしまうというか、天然でこれをやっているなら本当に大したものだ。

 少なくとも私にはこれだけ人の気を引く方法は思いつかないだろう。

「あぁー! 確かにアスカさんがこんなに俺の事を気にしてくれるなんて!!」

「うるさい!! 早く話しなさいよ!!」

 眼の前に立つ大哉の膝をアスカが思いっきり蹴った。

 さっきまでアスカの足が届くような距離にいなかったはずなのに、いつの間にかジリジリとアスカに近づいていやがったな、コイツ。


「じゃあ、話しますけど俺の人生なんてそんな面白い話じゃないっスよ?」

 怪訝そうな顔で改めて私とアスカの顔を見つめてくる。この話、後で他のみんなにも伝えたほうがいいんだろうか……?

「元々俺は田舎の金持ちの家に生まれたんスよ。地元じゃ俺の親の顔を知らない者はいないみたいな、地元の庄屋? 豪族? 名主? そんな感じのやつだったんスよ」

「いいとこのお坊ちゃんだったのね。羨ましい限りだこと」

「俺としても自慢の両親だったんスよ。両親は周りからはチヤホヤされてたから少し羨ましくも思っていたけど、ある時両親が事故で亡くなったんスよ。そしたら、一人っ子の俺の所にバカみたいな金額の遺産が入ってきたんスよね。周りは俺にご機嫌取ろうと更にチヤホヤしてきて気持ち悪かったのと、今まで両親はこんなのの相手してたんだなって思ったら色々と情けなくなっちゃって」

 世の中には持たざる苦しみがあるのと同時に持つ苦しみもある。持たざる者は簡単に持つ者にはなれないけど、持つ者は簡単に持たざる者になれる。崖から降りるのは一瞬で出来るが、崖を登るのは一朝一夕には出来ない。

 精神だけの存在になった今となってはどうでもいいけど、平均的な収入の家に育った私としては大哉の話は贅沢な悩みに感じた。

「ある日、鬱陶しくなって資産を全部寄附したら、肩の荷が降りたのと同時に周りにいた人も全員いなくなったんスよ。スッキリしたけど、やっぱり信頼や信用ってのは金でしか買えないんだなぁって実感したんスよね。それからしばらくはもう何もかもが空っぽになって、死んでもいいかなぁーって思いながらフラフラとしてたら、公園でアスカさんという天使に出会ったんスよ。空っぽだった何かが急に全部埋まるような、そんな一目惚れでした」

「天使って……。アタシはそんなにいいもんじゃないわよ……」

「死んだら同じステージに立てると聞いて喜びましたよ、一石二鳥だなって。ただ、手に入れた能力がダイヤモンドって言う高価なものを生み出せる能力ってのは、なかなか皮肉なものッスけどね」

「簡単に言うけど結構辛い人生歩んでるじゃない……。アタシは憧れを持って生きて探求のために死んだって言うのに。アンタは私から見たら裕福には育ったけど、絶望してるじゃない。なんでそんなにヘラヘラと笑ってるのよ!」

「俺って、そんなにヘラヘラ笑ってます?」

「ヘラヘラかはわからないけど、底抜けに明るい奴だとは思っていたわ。ただ、今の話を聞いたらちょっと印象は変わったわね」

 明るくて笑っているんじゃなくて、もしかしたら笑うことしか出来ない、心の中が常に空っぽで明るく振る舞うことしか出来ない不器用な性格なのかもしれない。

 でも、少なくとも悪いやつではないということはわかった。良くも悪くも実直であり不器用なのだろう。

「はい! 俺の話は終わりッ! さぁ、ユキナってのが来るのを待ちましょ!」

「ぐぬぬ……何か色々とモヤモヤする……」

 アスカが歯ぎしりをしながら苛立っているのが伺えた。

 適切な例えが出来ないけど、出会い頭にいきなりコンニャクで殴られた感じというか。別に痛くはないんだけど驚きが大きいというか……。

 ユキナと戦う前に喉に魚の骨が刺さるような引っ掛かりが生まれてしまったが、まぁそれでも知れてよかったとは思う。話してくれたということはそれだけ私達のことを信用してくれているという証拠でもある。

 今回の作戦でも大哉は重要な役割がある、彼と確かな信頼が結べたというのはユキナを迎え撃つためには必要なことだったのだろう。


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