第十四話「ルーラシードの供述」
ステラの星をみるひとでルーラシードを追いかけた結果、その先にはこの世界の宗教施設――わかりやすく言えば教会があった。
中に入ると厳かな雰囲気があり、ただただ白く広い空間が広がっていた。
大理石か何かか、白い石で作られた空間、きっと何かしらの祈りを捧げるような行事があれば人で溢れるのだろう。
広い空間の奥には大きな机が一つあり、そこには一人の男性が立っていた。
四十代くらいだろうか、白い装束を着ており、装束は髪を覆っているため髪型は全く見えない。きっとこの世界の宗教装束なのだろう。
私の生まれた並行世界で言うならキリスト教の司祭のような感じだろうか。
「こんな夜分に、あまりお見かけしない方ですね、どうされましたか? 私は神教徒長のタガノと申します。本日は神への祈りか、はたまた相談や懺悔でしょうか?」
新教徒長は微笑みながら語りかけてきた。
「ステラ?」
「この人で間違いないよ」
「すみません、お話したいことがあるんですが。そうですね、ご相談という形でしょうか」
「えぇ、構いませんよ。人は誰かを助け、また助けられる事で日々の穢れを濯いでいくのですから」
新教徒長のタガノ氏はウェルカムと言わんばかりに手を広げている。
「では突然の内容で恐縮ですが二点ほど、一つは貴方に会わせたい方がいます、名前はラヴェル=エミューズ=モーリス。この近くに来ているのでいずれお会いしていただきたいです。もう一つは大魔道士のタイドさんとハーツグランさんについて。何か他の方と違って違和感を覚えることがあれば教えていただきたいです」
司祭の男性は突然の内容に驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻して返答をしてきた。
「まず、ここは何人に対しても開かれておりますが、ラヴェルさんという少女について個人的にお会いする要件を伺わなければお会いできるかわかりません。後者の大魔道士様方については特に違和感を覚えるようなことは何もございません」
「おじさん、なんでラヴェルが少女だって分かったの? レイラは名前しか言ってないじゃん」
私が気づく前にステラが口を開いた。ステラの言うことは最もだ。
確かに私は会わせたい人がいるとしか言っていない、仮に女性名であると判断したとしても年齢までわかるのは不自然だ。
「ゴホン……失礼いたしました、勝手な想像で幼子だと判断してしまいまして……。ここは親を亡くした孤児の受け入れの相談も多いものですから……」
「なるほど……」
一応、今はそう受け取っておこう。違和感は全く拭えていないけど、かと言ってこれ以上追求しても何も出てこないだろう。
「お会いしていただきたい理由についてはお話し出来ないため、とりあえずお会いしていただきたいということだけお伝えしました」
別に断る理由がなければただ会って終わりだ、そこまで拘るところではない。
「ではタイドさんについてですが、大魔道士と讃えられ、この近辺にもその戦果の跡が幾つも残っています。私はその戦いの跡に疑問を持ってしまっているのですがそれはおかしいことなのでしょうか? そういった相談です。新教徒長さんは何か疑問に感じることはありませんか?」
「何かに対して疑問を持つことは非常に大切なことです。ただ、タイド様の功績に関して、私は特に疑問などは持っておりません。具体的にどのような疑問でしょうか?」
新教徒長はニコニコと笑顔で応えてくる。
私達はこの人が魔法抵抗力の高く認識阻害魔法が効かないルーラシードだと知っている。この人がまともな人間であればタイドさんの功績に違和感を持つだろう。
だからこそ、その笑顔が逆に怪しく、不自然に感じてしまう。
「タイドさんは敵であった王国民を捕らえるために王国民のみに魔法を使っていたと聞いていました。そうであれば都市の付近にある大きく深い穴が開くとは思えません。それについてはどうお考えでしょうか?」
「それほどタイド様の魔法が強力だったのでしょう」
新教徒長はニコニコしながら話す。まるでそう言うよう決められているように感じさせられるくらいだ。
「レイラぁ、この人もアスカと同じ反応だよー」
「新教徒長さん、そういう演技はしていただかなくても大丈夫ですよ。ここにいるステラは探索魔法が使えます。魔法抵抗力の高い人間を探すことも容易なことです。良かったらどなたかお探しいたしましょうか?」
まぁ、正確にはルーラシードを探索してただけなんだけどね。
一応、魔力抵抗力の高い人間を探すことも出来なくはないだろうけど……。
私は焦れったくなってしまっていたのか、少し煽るような笑顔になりつつある自覚があった。
「……なるほど、色々とご存知のようだ、少しお部屋を変えてお話しましょう」
通された部屋は教会の奥にある物置だろうか、高さには多少余裕があるものの、四人がけの机を一つ置くのが精一杯の広さの木製の小さな部屋だった。
椅子に座ってしばらく待っていると、香りの良いお茶を淹れた新教徒長が現れた。
お茶を私達の前に置き、自らも椅子に腰掛けた。
「レイラさん……でしたか?」
「はい、レイラ=フォードと申します。ついでにこっちのはステラ=ヴェローチェです」
「ついで!」
元気よく手を上げてて良い子だ、今はそのまましばらく口を挟まずに黙っていて欲しい。
さっきみたいに盲点を付くことを言うときもあるけど、大体はピントがズレた訳の分からないことばかりだからね。
「それではレイラさん、敢えて口の悪い言い方をします。……誰の差し金ですか?」
「えっ……!?」
まさかの言葉に虚を突かれてしまった。
「……? おや? その表情、違いましたか?」
私は今どんな表情をしているのだろう、意外そうな顔で新教徒長がこちらを見ている。
まるで直球ど真ん中を投げたのに空振りされたような、そんな様子だった。
「ラヴェルの事を出した上で、タイドとハーツグランに違和感を持つという話、それにあの大穴の話を出してきたので、そういうことかと思ったのですが……。違ったのならとんでもなく恥ずかしい話だ、いやはや墓穴を掘ってしまったかな……?」
新教徒長は頭を搔きながら目を逸らしてバツが悪そうな顔をしている。
不思議とさっき案内されるまでの新教徒長とは別人なのではと思うくらい人が違って見えた。
まぁ、仕事の顔とプライベートの顔と言われれば誰しも違うのかもしれないけれど……。
「はぁ……。あの穴について疑問を持つということは君たちもよっぽど魔法に対する抵抗力が高いのだろう、今更ごまかしても無駄だろうし、何より恥ずかしい事に口を滑らせてしまったのだ、変に追い返すより説明した上で帰って貰った方がいいかな」
「是非! お願いします!」
そうして、新教徒長のタガノ氏の話が始まった。