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金色の旅路  作者: ガエイ
第一章 ラヴェル=エミューズ=モーリス
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第十三話「終点のその先」

 警護の職員の方が付き添いながら、城塞都市の櫓に登らせてもらった。

 櫓からの景色はこの都市の観光資源の一つとして扱われている物で、閲覧料を払えば誰でも見ることができるらしい。

 都市の出入り口からは遠くまで街道が続くのが見え、周りに広がるのは針葉樹林の森で薄っすらと雪が積もっている。更に遠くにぼんやりと見える巨大な山は完全に雪山となっていて、ここが北の大地であることを実感させられる。


「あったわ、あれがタイドさんの魔法の痕跡ね」

 私が指さしたその先には雪が覆いかぶさる森があったが、半径百メートル、深さは三メートルくらいだろうか、周りの木の生え具合から見て不自然に断層ができて木々の少ない部分があった。

「十年以上の月日が経っているからかなり自然が戻ってきているみたいだけど、明らかに不自然にヘコんでいる部分があるでしょ? 昨日調べた戦績ではあそこに向かってタイドさんが重衝撃(ディープインパクト)を使った場所みたいよ」

「す、スゴイです!! 遂に亡くなった父の痕跡を見ることが出来たなんて!!」

 感動したラヴェルが両手で口元を押さえて涙ぐんでいた。

 十年以上想い続けていたものが今眼の前にあるのだ、当然だろう。

「流石はタイド様……。私なんか全然かないっこないくらいの範囲と深さ……。本当に大魔道士っていたのね……」

 アスカはタイドさんの魔法の痕跡を見て感動するのではなく、それを超えて最早放心状態となっていた。

 そう、タイドさんの魔法は間違いなくすごかった。こうして地図に残るほどの巨大なクレーターを作ってしまうほどに。

「こうした大きな断層が出来るほどの大穴がこの近くに二箇所程度あるみたいよ……」

「本当にここに父がいたんだ……。良かった……」

 複雑な心境だった、もしかしたらという疑念が頭に浮かんでしまうと、どうしてもそれがこびりついて離れなくなってしまう。

 そして、それを伝えても良いものなのか、私にはこういう時に迷ってしまってすぐに判断ができない……。

「この櫓からも少し見えるけど、都市から更に北に行くともっと大きい魔法の痕跡があるみたいだけど、そっちにも行ってみる?」

「はい! 是非!!」

 ラヴェルの子供のように喜ぶ満面の笑みが少し辛かった。



 徒歩で一時間ほど歩いた街道の近くの辺りにその巨大な痕跡は残っていた。

 半径三百メートルくらいだろうか、今では巨大な湖になっており、深さも十メートルはあるのではないだろうか、底が見えずうっかり入ってしまったら溺れてしまうだろう。表面には薄い氷が張り始めており、魚たちが泳いでいる姿が見える。

「す、スゴイです! もうそれしか感想が出てきません!」

 感動しているラヴェルに対して、アスカはもう口が半開きのまま呆気に取られている状態だった。

 いつかは気づいてしまうのだから、やっぱり私の口から言ったほうが良いのかもしれない。

「ねぇ二人共……。変だと思わない……?」

「……? なにがですか?」

「別に変なところなんて無いでしょ、タイド様がスゴイってだけで」

「だっておかしいでしょ、なんでこんなに地面が深くなるまで魔法を使う必要があったのよ……」

「……!」

 ラヴェルは違和感に気がついたようだった。

「最初に櫓から見たところだってそう、タイドさんは魔法を使う対象を選べるわけだから、王国兵を捕らえるだけだったら、こんなに深くなるわけが無いし……。どうしてこんな痕跡が残っているのよ……」

「やめてください……!」

 ラヴェルが耳を塞ぎ大きな声を出した。

「わ、私、先に都市に戻ります!」

「あ、待ってよー、ラヴェルー! 結構都市まで遠いんだよー!」

 城塞都市の方に向かってラヴェルが一人で走り出し、それを追うようにステラも走り出した。

 走る速度なら圧倒的にステラのほうが早いし、こういう時は私よりも純粋なステラに任せればいいか……。

 それじゃあ、私はアスカの方を……。

「アスカはどう思う? 王国兵を捕らえるのだったら魔法を使った跡がこんなに深くならないだろうって話……」

「えっ? タイド様がスゴイって話なだけじゃないの? どうしてラヴェルはあんなに慌ててるの?」

「えっ……?」

「王国との戦いでこんなに深い穴を開けられるほどの魔法を使っていただなんて、それだけ戦いは熾烈だったんでしょうね……」

 アスカは腕を組んで深々と考えている。

 考えてはいるが私が投げかけた事とはきっと違このとを考えているのだろう。これは流石に違和感がある。アスカはそこまで鈍い娘ではないはずだ。

 表情だって明るく、純粋にタイドさんの功績を目の当たりにして感動している様子が伺える。

「……アスカ、この穴がそうだというわけではないけど、例えばタイドさんが敵を捕らえる以外の行為をしてたらどう思う……?」

「……? タイド様がそんなことをするわけないじゃない」

「じゃあ、なんでここにはこんなに深くて広い魔法の痕跡があるの?」

「……? タイド様の魔法がすごいからでしょ?」

 これだけ直接的な推論を言っても理解できていないのなら、普通は本当の馬鹿か現実から目を背けているかのどちらかだ。

 しかし、それ以前にアスカはタイドさんを貶すような事を言えば鬼のように怒るだろう。それがないということは……。

 また一度都市に戻って調べたほうが良さそうね……。



 ラヴェルはステラに任せたまま、アスカと共に役所に戻り、改めてタイドさんの情報を洗い出し始めた。

 アスカはひたすらタイドさんの功績を称える資料を物色して楽しんでいる。

 私はというと、どこで何をやって、最後にどうなったのか、そういった全体の流れを把握するように資料を読み漁っていた。

 確かに何度も出撃しており、その都度敵兵を捕らえているようだったが、それはどれも都市から遠方での戦いであることが多かった。

 逆に都市近郊での戦闘での記録はかなり資料が少なかった。

 また、地図を見ると都市近郊であればあるほど情報が曖昧になるという謎の現象が生じていた。

 明らかに不自然だ。

 そして、タイドさんはこの都市では感染症による病死と記述があった。

 そもそも閲覧可能な範囲でここまで具体的に記されているにも関わらず、何かしら疑問に思う人はいないのだろうか、大魔道士タイドという存在について……。


 そしてもう一つ、ハーツグランさんについては更に記録が無い。

 功績があったという記録のみで、何をしたという記録は何もなかった。ちなみにこちらも感染症で亡くなったという記録がある。

 なぜこの人が大魔道士として世間で呼ばれているのか、記録を見る限りでは全く理解できなかった。

「あの……ハーツグランさんって大魔道士なんですよね……?」

 私は思わず役所の職員の方に尋ねてしまった。

「えぇ、それはもちろん」

 まるで『コイツは何を言っているのだろうか』というような顔をされてしまった。

 私の生まれた世界のイギリスで言うなら、『アーサー王って誰ですか?』って聞いているようなものだ、子供相手じゃなければ馬鹿だと思われるだろう。

「ハーツグランさんって具体的に何をされた方なんでしったっけ?」

 忘れてしまったというような、そんなすっとぼけた聞き方で尋ねてみた。

『アーサー王って具体的に何をしたか?』なら知らない人がいても、まぁそこまでおかしくはないだろう。

「そうですね……。具体的にと言われると難しいですね……。でも、大魔道士と呼ばれるような活躍はされてらっしゃいますよ」

 全く要領を得ない回答だった。

 どうして誰も気にならないのか、そう思っていたのだけど、それ自体が間違いだったのかもしれない。

 誰も気が付かないのではなく『気がつくことが出来ない』のではないだろうか。


 ラヴェルは想像をしただけで逃げてしまい、何を聞いても要領を得なかったアスカ。

 私達とアスカの違い、それが表すところは魔法に対する抵抗力の違いだろう。

 私やステラのような世界を渡る者は、いわゆる魔法に対する抵抗力が異常なくらい高い。それは肉体という枷を捨て、並行世界を渡ることが出来るほどの強力な抵抗力を得た状態であるためだ。

 そして、ラヴェルのようにレイラフォードである者は、世界を渡る者でなくても強力な魔法が使えるし、そしてそれに応じた魔法への抵抗力がある。

 つまり、私、ステラ、ラヴェルの三人でなければ防ぐことが出来ない強力な魔法で誰かが魔法を使っている……?

 ただ、一体誰がなんのために……?

 情報が少なすぎて完全に行き詰まってしまった。

 


 日が沈む頃、私とアスカは宿の部屋に戻り、私はラヴェルに謝罪をした。

 部屋にはステラもいたが、ラヴェルにかける言葉が思いつかなかったのか二人とも黙って椅子に座り、肩を落として落ち込んでいた。

「――いえ、ここに来る前から考えたことがなかったわけじゃないんです。でも、私が初めて魔法を使ったときの暴走したような威力の魔法の痕跡……。それを見て見ないふりをしていた想像を思い出してしまって……。すみません……」

「こちらこそ、嫌なものを思い出させてしまってごめんなさい……」

「いえ、こういうこととも向き合わないと駄目ですからね……」

「辛いことを聞くけど、実際、ラヴェルはどう思う……?」

 部屋のベッドに腰掛け、苦しい問いかけをした。

 聞く私ですら辛いんだ、聞かれるラヴェルの辛さは私の比ではないだろう。

 そして、これは魔法抵抗力の高いものであれば違和感を持つという確認でもある。

「……アレを見て、少なくとも王国兵を捕らえるために使われたものではなかったと思います。あれだけの深さです、捕らえるためのものだとしても捕らえる側だって手間でしょうし、非効率的すぎます。ただ、推測でものを語っても仕方がないから、何か証拠がないと――何かがあったというのを信じたくないというのが本心です……」

 彼女の言う通りだ、私が『何かあったんじゃないか』と濁して話していることはどこまで言っても推論に過ぎない。

 試し打ちであれだけの範囲に穴を空けたとか、そんな冗談みたいな明るい話なら良いけど、実際はそんな単純な話ではない……だろう。

 そう、だからこそ私は調べていたのだけれど……。

 全く情報がない、そしてアスカの不自然な状態、色々な物が引っかかる。

「なるほど……情報がない……ですか。それも不自然なくらいに……」

「そうなのよね……。だから、私が勝手に煽ってしまっただけで終わってしまっている状態で本当に申し訳ないわ……」

「いえ、気にしないでください。私も私で何か出来る事があれば調べてみます」

「ありがとう。でも、調べる上で精神的に辛いこともあると思うから無理しないでね……」



「――というわけだけど、ステラはどう思う?」

 宿屋を出て、月明かりを浴びながら都市内をステラと適当に歩きながら話をする。

 宿屋にはアスカが残り、ラヴェルに付き合ってもらうことにした。尊敬する父親を怪しむような発言をした私が残っても気まずいだけだしね。

 そのラヴェルが少し元気になって安心したのか、いつの間にかいつものステラに戻っていた。

「レイラがわからないことをワタシに聞かないでよー」

「いや、もしかしたらと思ってさ」

「そうだなぁー。そっちが行き詰まってるなら、ワタシ達の方を進めてみたら?」

「私達?」

「ルーラシード、まだ見つけてないでしょ」

「あぁー、まぁそうだけど。そっち調べてもどうにもならないでしょ」

「レイラが言う通りなら世界を渡る者とレイラフォードには認識阻害が起こってないんでしょ? じゃあ、この都市にいるルーラシードにも認識阻害が起こってないんじゃないかな?」

「た、確かに……」

 ステラにも相談してみるものだ……。思わず顔が引き攣ってしまった。

 私は完全にタイドさんとハーツグランさんについて調べようとしていたけど、違う方向から考えアプローチするという考えは、誰かに相談しなければ思いつかない発想だっただろう。

 ステラは頭が若干アレだと思っているのは私の悪い癖だ。自分でも酷いことを言っている実感はある。

 コレでも元々は暗殺家業を行う次期当主候補だったんだ、本来はそこまで軽視するほどではないのだが、どうも普段の言動から子供扱いしてしまう。

「ステラ、ルーラシードの場所は?」

「ここから大体一キロくらい先の城壁近くにいるよ」

「それじゃあ、まずはそこから行きましょ。何か手がかりがあると信じて」

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