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森田さんの話〜謎のラジオ〜

 ラジオの前の持ち主、森田さんとしておくが、彼が私にこのラジオを譲ってくれたときに,語ってくれたのが次の話だ。もちろん登場人物はすべて仮名としているので承知いただきたい。


 森田さんが高校生の頃の話である。小テストの勉強が嫌になって部屋を片付けていた最中、押し入れのプラスチックの箱から、他のガラクタに混じって古いラジオが出てきたのだという。

 黒い、シンプルな、手の平に載せられるぐらいの携帯ラジオ。ダイヤルで周波数を操作するタイプ。

 あ、これは小学生の頃に、近所のお兄さんからもらったラジオだ、と思い出したという。近所のお兄さんというのは、彼の隣の家の当時は高校生だった長男で、面白くて面倒見のいい眼鏡のお兄さんという印象が残っていた。

 ラジオは、あるとき、そのお兄さんから大事にしてくれよ、と自宅の玄関の前で手渡されたものだったということだけは覚えていた。

 隣の一家はすでに引っ越して、今は違う住人が住んでいるので、引越しの際にくれたものだったのかもしれないと森田さんは思った。  

 そして、このラジオを聞いたことがなかったと気づき、ラジオを手に持ったままで電池を探そうと思って一階に降りたところ、リビングにいた母親が険しい顔で尋ねてきた。


「あんた、それどうしたの」


「押し入れからでてきたんだ。昔、隣のお兄ちゃん、タケシさんからもらったんだよね」


「捨てたはずよね。あんた拾ってたの?」


「捨てたっけ?」そんな記憶がなくて、怪訝に思う。


「あんた覚えてないの?捨てるのすごい嫌がってたのに」


「なにそれ」


「あー、別にいいわ。うん、気にしないで」


 あんなこととはなんだろう。不穏だが、母は答える気がないようだった。一人で納得する母は、かなり強めの口調で「とにかくそれは捨てること、あんたが捨てないなら私が捨てるからね」と言う。


「何で?というかタケシさんって何処いったんだけ?大学受かって引っ越したんだっけ」


「とにかく捨てなさいよ」


 そういう母の目がいつになく厳しい。なんでそんなにと、森田さんは驚く。


「ごみ袋に出しちゃいな。明日、学校行く時、捨てなよ」


「まあいいけど。これ燃えるゴミでいいの」


「いいのよ。プラ以外はいっしょだから」


「はいはい」


 そうして、森田さんが久しぶりに発見したラジオは、すぐにゴミ袋に放り込まれた。


 翌朝、ゴミ袋を捨てて、学校でカバンを開けて森田さんは驚いた。捨てたはずのラジオがカバンに入っていた。

 朝、確かに捨てたはずだよなあと不思議に思う。間違ってカバンに入れたなんてことはない、はず。しかし、事実として、今ここにラジオがある。一瞬、背中がぞわぞわしたが、授業を受けている間に、ラジオのことは忘れていた。

 その日の部活の時間、森田さんは、科学部の部室に顔を出した。もともと帰宅部のような部活であったが、とりあえず顔を出せば誰かがいて、まじめな生徒が化学実験をしたり、その横では誰かが漫画を読んだりしている。

 カバンから読みかけの雑誌を取り出すとき、一緒にラジオが出てきた。


「何それ、ラジオ?聞くの?」友人の佐藤さんが目ざとくラジオを見つけて聞いてくる。


「いや、なんか押入れから出てきて。捨てるはずだったんだけど」


「もったいな。捨てるんだったらくれよ。おれ使うわ」


「いいけど。使えるかわかんないよ。ずっとしまってたから。小学生のとき、うちの隣の高校生だった人にもらったんだ」


「お前んちの隣の高校生って、あのおかしくなった人だろ」


「それわかんないけど、何かあったっけ。うちのオカンも何か変な感じだったんだよな。隣んちの話したら」


「ほら、夏休み中、ラジオを持って一人で喋ってたやばい人だろ。うちの親からは近づくなって言われてたぞ。でも、お前ちょうど骨折してたんじゃね」


「ああ、その頃か」


 森田さんは、思い出した。夏休み中に足を骨折して入院していた一夏があった。たぶん、退院して早々に、タケシさんからラジオを貰ったんだ。


「その話、混ざってもいい?」


 さっきまで顧問の先生が購読している科学雑誌、おそらくニュートン的なものを読んでいた水戸さんが話に入ってくる。


「森田君の隣の家で、当時は高校生っていったら、タケシさんでしょ。タケシさんからもらったラジオだとすると、ほんとに呪われてるかもしれないよ」


 真面目に突拍子もないことをいうので、森田さんは、ふっと鼻で笑ってしまった。だって、呪いなんて小中学生までの話題だと思ったから。しかも、ここはまがりなりにも科学部で、水戸さんは一番科学部らしい活動をしている部員だったから。


「うちの兄貴がタケシさんと同級生だったし、うちでもよく話題になってたんだよね、タケシさんのこと。聞く?」


 うん、と森田さんは頷くと、水戸さんは、次のような話を語った。


「タケシさんって、成績もいいし、まあ人気者っていうかそういうグループだったのに急に引き籠ったんだよ。夏に友達と肝試しに行ってから急におかしくなって、いつもラジオを持ってうろついて、叫んだり一人でぶつぶつ話して、近所でも噂になってた。うちの兄貴が根暗な癖にその肝試しには珍しく呼ばれたみたいで、でもそのときのことは今でも全然話はしてくれないんだよな」


 水戸さんはさらに語った。


「で、うちの親が、タケシさんちの親のことを嫌ってたからなんだけど、わざわざタケシさんの噂を仕入れてきて、うちだったり近所の人に話すんだよね。うちでは兄貴が嫌がるから小学生の俺に話を振ってきて、正直、あのときは、うちもちょっと異常だったよね」


 コメントしづらくて森田さんが曖昧に頷くと、水戸さんは話を続けた。


「そのラジオは、肝試しのときに拾ったものだって噂だったよ。ざーって音だけがしていて、タケシさんには何か声が聞こえているみたいなんだけど、まわりのみんなには何も聞こえてないんだ。俺、タケシさんに道であったときさ、確かに携帯ラジオを両手で大事そうに抱えて、語りかけるみたいにぶつぶつ言ってたよ。それで、そのラジオがよくないって話になったけど、タケシさんは、絶対ラジオを手放さなかった。なんで、森田に渡したんだろうな」


「わかんないよ。突然、家に来て渡されたとしか」森田さんとしても理由が知りたいところだった。


「あと、タケシさんって事件起こさなかったっけ。警察が来たとか」と佐藤さんが言う。


「本人が行方不明になったんだよ。タケシさん、ラジオからどこそこに来いみたいな声が聞こえるとは言ってて、でもそれは現実にはない地名だったみたい。行方不明になってから、タケシさんのうちって、ちょっと強引なことする不動産屋だったから、呪われたとか罰があたったとか中傷もあって、ひどい話だよね。実際、うちの親が揉めてたしね」


「いや、なんか、肝試しで何があったのかの方が気になるんだけど。ラジオはどっから出てきたんだよ」佐藤さんが口を出す。


「そうだよね。兄貴がなあ、教えてくれればいいんだけど。わざわざ、他の先輩に聞きに行くのもちょっとね。よくない感じするよね」


 ひととおり聞いて、森田さんが思ったのは、タケシさんがおかしくなっていたのは事実なのだろうが、ラジオ自体が呪われているかはわからないということ。それに水戸さんの親がタケシさんの親を嫌って、呪われているような話を触れ回ったようにも聞こえた。

 母は、そういう話を聞いていて、森田さんが受け取ったラジオを捨てさせようとしたのだろうか。なぜか、押入れにしまってあったわけだが。

 そんなことを森田さんが考えていると、不穏な提案があった。


 「ラジオかけてみようぜ」


 提案したのは佐藤さんだった。水戸さんも乗り気である。ラジオをかけてはいけないという校則はなくとも、たぶん教師らから見つかれば咎められであろうと森田さんは心配になったが、部活でラジオの修理をしてみたとか言えばいいかということにして、電池を探す。

 電池は部活の備品にあったので拝借し、水戸さんが手際よく、電池を挿入した。森田さんが電源を入れて、周波数を合わせてみようとするが、なんの番組の音も拾えない。ざ、ざざざと、途切れるような音が出るばかりだった。そのうち、ざああっという音が、安定して雨の音のように聞こえてきて、特に変化もない。

 「壊れてるのかな」森田さんが言うと、「タケシさんはずっとこういう音を流してたのかもね」と水戸さんが言う。佐藤さんは「何か聞こえるような気もするんだけどなあ」と耳をすませている。

 たしかに、何か声のようなものが聞こえなくもないが、番組の音をしっかりと拾うことはできない。

 しばらく周波数をいじっているうちに、森田さんと水戸さんはすぐに飽きてきていた。佐藤さんだけが、音量などいじって、集中して耳をすませ何かを聞き取ろうとしている。

 そうしてラジオを囲んでいると、突然、化学室の扉が開け放たれた。顧問の化学の先生が「お前ら、何してる」と怒鳴り込んできたのだ。ふだんは、物静かな紳士であるのに。

 森田さんたちからすると、何で?という感じである。音量もあげていないし、ラジオを触っていたぐらいで、そんなに怒られることかと思う。

 しかし、教師が言う。

 

「廊下に響いてるぞ。一体何を流してた。そのラジオか」


 ラジオはノイズが出ているだけで音量も小さいと森田さんたちは釈明するが、教師が言うには、ノイズとともに気味の悪い男の呻き声のような音が、廊下に響き渡っていたのだと言う。そして、甲高く調子の外れた大声でこういったのだと言う。


「み、み、み、みなさんも来ませんかあ、こっちはいいところですよお」


 そして、引きつけを起こしたようなけたたましい男女の笑い声が響いたのだそうだ。

 廊下でそれを聞いた生徒が驚いて、職員室に駆け込み、化学室から音が出ているということで、顧問の先生が来たのだという。

 森田さんは、全くそんな音が聞こえなかったので、どんな言いがかりかと思ったが、先生だけでなく複数の生徒が聞いているとなると分が悪かった。一応、先生には、部活でラジオを修理してみたなどと、事前に準備していた言い訳をしつつ、自分たちには雑音しか聞こえなかったと主張したが、受け入れられることもなく、周りのことを考えろなどとこっぴどく注意された。

 森田さんは、これはラジオが、あるいはラジオを通して何かが、自分たちに対してアピールしたのではないかと感じたそうだ。普通のラジオじゃないんだと、存在感を示すかのように。

 ここまでなら、勘違いか、偶然放送が入ったのか、ちょっと不思議な出来事程度で済んだのであろうが、これだけでは終わらなかった。

 その日の帰り道、黙りこくっていた佐藤さんが突然「ラジオ貸してくれよ」と頼んできた。森田さんは特に断る理由もないし、むしろ手放したい気持ちであった。


「いいけどどうすんの。返さなくていいからな」


 佐藤さんにラジオを押し付けるように渡した。それがどんな結果を生むかなんて、その時は全く想像できていなかった。


 それから数日間、佐藤さんはずっと無口で、話しかけても上の空な雰囲気であったという。水戸さんと、あのラジオを持ち帰ったためではと話をしていた。そして、再び学校からの帰り道、佐藤さんは森田さんに話かけてきた。

 佐藤さんが近づくと、ざああと小さな音が聞こえた。一瞬、雨か虫の羽音かとおもったが違った。佐藤さんはおもむろにカバンからあのラジオを取り出して渡してきた。


「なあ、これ返すから、ちゃんと大事にしてくれよな。捨てたり壊したりするなよな」


「なに言ってんの」


「返すから、捨ちゃんと使ってやれよな」


「いらないなら自分で処分しろって」


「おれがいなくなったら、ラジオを使う人がいなくなるわけじゃん。だから人に譲っておかないと。それに預かるのがお前の役割だったでしょ」


「いなくなるって、どこに。なに、おかしいでしょ」


「とにかく、それを大切にしろよ」


 そう言って、ラジオを押し付け、森田さんが「どうしたんだ」と話しかけても無視して行ってしまった。

 森田さんは思ったそうだ。ここ数日間、佐藤さんはずっとカバンの中でラジオをかけていて、佐藤さんだけに聞こえる何かを聞いていたのではないだろうか。これは、タケシさんと同じ状況ではなかろうかと。

 そして、翌日から佐藤さんは学校に来なくなった。連絡も取れなくなり、そのうちに祖父母の家で療養中と教師から伝えられた。連絡を取りたくとも、連絡先は、学校からも佐藤さんの両親からも教えてもらえず、今でも佐藤さんの消息は不明だという。


 手元に残ったラジオを見て森田さんは考えた。自分はこのラジオを持ってよいのだろうか。

 初めはもう一度、捨てようとしたのだが、しかし、ごみ袋に入れようとして記憶が飛ぶという体験をした。ごみ袋を捨てた後に、ラジオを手に立っている自分に気がついて、いよいよ尋常の事態ではないと気がついた。だれかに譲ったり、リサイクルショップに売ることも考えたが、また、だれかが佐藤さんのようになるのではないかと考えるとおいそれと譲ることはできない。佐藤さんが最後に捨てるな壊すなと言っていたことが記憶に残っていた。

 森田さんは強く責任を感じていたのだそうだ。自分がこのラジオを持ち出さなければ佐藤さんがいなくなることもなかったのにと。

 だから、水戸さんに相談して、電池を抜いて、また、押し入れの中に封印することにしたのだという。これまでそうしてきて何事もなかったのだから、再び封印しておくのが一番だと。それが自分の責任だと思って。

 

 以上が森田さんの話である。

 そして最近になり、怖い話や道具を集めていると公言する私の存在を知って、リスクを承知の上でなら譲ってもかまわないということで、私にラジオを譲ってくれたのであった。

 入手したラジオは、私も何度も、音を流してみるのだが、これまでざあざあという音に、たまに少しばかり不気味な声のような音が聞こえる程度である。森田さんの話からすれば、もっともっと禍々しい何かの声が聞こえてもよさそうなものだが。非常に残念だ。

 ところで、みなさんは気にならないだろうか。佐藤さんやタケシさんに何があったのか。そもそもどこからこのラジオは出てきたのか、由来はあるのか。

 私も何年も怖い話を集めているわけだが、実は、これに関係があると思われる話があるのだ。

 メールでいただいた話であり、続けてご紹介したいと思う。

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