はじめに
ざあざあと音がしている。
雨音のような虫の羽音のような、これはラジオの音。一昔前のブラウン管のテレビの砂嵐の音を、最近の若い人は聞いたことがないかもしれないが、そんな音。
ノイズであるはずだが妙に均質なこの音は、実は別世界の音が流れているのかもしれないと、そう思わせるような不気味さがある。たまに聞こえてくる、人とも獣ともわからぬような声は、唸り声なのか、叫び声なのか、それとも啼き声であるのか。
この世のものではない何者かの声がラジオから聞こえてくるなんて、そんな怪談話は世の中にいくらでもあるが、そんな音を本当に拾えるラジオというのは世の中に一つでもあればすでに奇跡だ。
このラジオがそれなのだと言ったら皆さんはどう思うだろうか。少なくとも私はそう信じている。
このラジオは、電源に触ってないのに勝手に起動することがある。それ自体が怪奇現象だが、私にとってはもはや日常の一部である。そして、私が求めているのはこんなものではない。この晩は聞こえるだろうか。あの世からの声。
このラジオは、なんの番組を聞くこともできない。壊れていて、電源をいれて、ダイヤルを回して拾う周波数を変えても、ざあざあと音がして、たまには不思議な唸り声のような音も聞こえる。そのうちに意味のある何か恐ろしいものを聞くことができると期待して、もう半年。何日もつけっぱなしにしたこともあったがだめだ。わたしにはそういったものを受け取る才能がないのかもしれない。あるいは、ラジオに声を乗せる何者かから必要とされていないのかもしれない。
さて、今日はこのラジオにまつわる話をしよう。ラジオの元の持ち主から聞いた話をご紹介したい。