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InstagramStories --TNstory

作者: 伊原みい

「はあ」

自分が思っていたよりも大きなため息が出た。そっと手をベッドサイドに置いたスマホに伸ばす。画面を見ると、現在、午前5時6分。ベッドに入って3時間は経つのに困ったことにまったく眠くない。俺の眠気はいったいどこにいったのか。


隣を見れば、ネオがみじろぎもせずによく眠っている。目と口が一直線な顔。その顔が絵文字そっくりだと気づいて、思わずにやけてしまった。ネオは相変わらず、色が白いな。ホテルの落とした照明はオレンジ色なのに、肌の色白が引き立つってどれだけこいつは白いんだ。同じように過ごしているはずなのに、俺の浅黒い肌とは大違いだ。


「はああ」

ぜんぜん眠くならない。もう目をつぶるのをあきらめて暇つぶしにスマホを漁る。この3日間で撮影した写真。スクロールしてもスクロールしても続く写真。多すぎる。俺はどれだけ写真を撮ったんだ。写真を撮るのは好きだという自覚はあるが、1日にこれほど多くの写真を撮ったのはいつぶりだろう。久しぶりの海外に浮かれているのか。久しぶりにネオと行動を共にしているからか。物撮りの写真に混ざって、時々写る顔、俺とネオと仕事仲間たち。どの写真の中でも、俺もネオも無邪気な笑みを浮かべている。ああ。心の底から出る笑顔。これも、これも、これもそうだ。その写真を見て、また笑顔になっている今の俺は、他人が思うより単純な男なんだろう。


数時間前、旅行最後の夜が名残惜しくて、部屋でワインを開けた。窓から見えるまるでポストカードのような夜景、過去を洗い流すかのように降り続く雨。こんな景色を眺めながら酒を飲むなんて、なかなかいいシチュエーションだと思うが、ネオは相変わらずスマホゲームに夢中でムードなんてない。でも。この気ままで自由なネオとの時間が、俺の前でのびのびとするネオとの関係が、これからも続きますように、と願いながら、俺はシャッターを切った。


ネオはほんの少ししかワインを飲んでいないはず。それなのに酒が弱いネオはすぐに寝てしまい、浮かれて飲みすぎるくらい飲んだ俺はまだ眠れずにいる。


二人で飲んだワイン。二つのグラスと夜景。

浮かれた気分のまま、写真をInstagram storiesにアップしたところで、突然、声がした。


「タア、またカードキー失くしたの?……」

びっくりして横を見ると、ネオの目は閉じたまま。スマホの明かりで起こしたかと思ったが、覗き込んだ顔は絵文字のままだ。俺の気配を感じたのか、ネオは白い肌を見せつけるように寝返って背を向けてしまった。そっと肌を覆うようにネオに毛布をかけ直した。寝言でも怒られる俺。


ネオのことだ。起きたら勝手に写真をInstagramにあげたと、俺を怒るんだろう。

二つのグラスが写った写真をあげただけ。それでも考えが浅いと俺を非難するんだろう?


お前が俺に向ける視線も、俺といるときのに見せるゆるい空気をまとった姿も、どれも他人にさらすことはしないから。

これくらいの独占欲は許して。ご褒美のような三日間。誰に自慢することもできないけれど。朝、Instagram storiesの写真をお前が見た時、浮かれた俺の、この気持ちがお前には届きますように。


隣の色白に向かって、気づけよ、と願ってから、俺は毛布をかぶり直して、目を閉じた。

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