87・『久しぶり』でもあり 『初めて』の外
「あっちは上手く誤魔化せたかな・・・?」
「まぁ・・・信じるしかないよ、ラーコブ。」
グルオフは、まだ若干不安が残るラーコの側に寄る。グルオフも、全く不安がないわけではない。
でも、自分達があの大火事を起こしてしまったのは、紛れもない事実。
例え誤魔化せなくても、首を差し出す覚悟くらいある。それは、グルオフ以外の4人も同じ。
5人はただ、人命に関わるような大惨事にならないでほしい・・・と、願うのみである。
この世界では、『真実を証明できる方法』が無いなら、『遠く離れた場所の現状を知る方法』も無いに等しい。
翠がかつて生きていた旧世界では、『防犯カメラ』『ライブカメラ』『指紋認証』等、事件の詳細
を調べる方法はいくらでもある。
一部の人は、
「あちこちに防犯カメラがあるなんておかしい!!」「指紋認証なんてプライバシーの侵害!!」
と吠えている。
だが、それらの力によって、事件や事故が解決へと導かれているのまた事実。
否定をするのだとしたら、防犯カメラ等が何故設置されるのか、それらの事情を考えないと、否定を
する権利もない。
前に翠が、徹夜ゲームでたまたたま見ていた『推理サスペンス』のなかに、こんな言葉があった。
「防犯カメラや顔認証を意識する・・・という事は、自分に何かしら、『後ろめたい事』がある心理
が働いている、『無意識の行動』だよ。」
翠達が行った行為は、確かに『後ろめたい事』
だが、『上には上』があるように、偽・王家や兵士が行っている蛮行に比べたら、まだ被害者も賠償もない『騒ぎ』止まり。
もちろん、そんな理由で自分達の行為を正当化したい気持ちは、翠達にない。
だが、王都全体に迷惑をかけてしまった事実に関しては、今すぐにでも王都に駆け戻って、頭を下げたい。
頭を下げるだけでは、済まされる事ではない事も重々承知しているが、こうでもしないと、5人全
員が王都から出る方法はなかったのだ。
当初は、どうやったら兵士達の目を欺いて、5人まとめて王都から脱出か・・・を考えていた。
当然、それはかなり難易度が高い上に、一発でも見つかってしまったら即刻アウト。
何故ならグルオフは、偽・王家が血眼になって探している存在。
指名手配の命令が下ったのが、十数年も前だとしても、見つかってしまったらどんな目に遭わされるか分からない。
それに、もしグルオフが捕まってしまったら、引率しているラーコや、翠達まで酷い目に遭う。
その上、王都には事情を知らない人やモンスターが大勢いる。
無関係な住民達を巻き込んでしまっては、正統なる王家の名が汚れてしまう。
そうならない為には、なるべく周囲に迷惑をかけず、兵士達の目を盗んで、こっそりと抜け出すしかない。
だが、そう簡単にもいかない。門は24時間、兵士が変わる変わる見張りをしている。
それもそうだ、王都の行き来を全てになっている門が手薄になってしまえば、王都に『爆弾』を持ち込むのと同じ。
王都の見張りをする兵士達より、門を見張る兵士達の方が、よっぽど仕事をしている。
・・・その勤務態度に関しては、若干横暴に見られるかもしれない。
だが、しっかり仕事はこなしているのだから、そこまで文句も言えない。
それくらい、検問というのは厳しい場所なのだ。
翠も旧世界で、『空港の検問所 直撃取材』というバラエティー番組を見た事があるのだが、その
内容はしっかり覚えている。
何故なら『インパクト』が強かったから。
あの手この手で禁止物を持ち込もうとする乗客もいれば、人間ではなく『動物』が危険を察知した
り、ありえないくらい手の込んでいる密輸方法だったり・・・
それらを見ていると、つい笑いたくなってしまう。
「まさかここまでして・・・」と言わんばかりの方法の数々が、何故か面白くなってしまうのだ。
だが、この世界での検問は、旧世界の検問所より、だいぶピリピリしている。
当然、新世界の旅路は、旧世界の旅路に比べると、遥かに費用も時間もかかる。
旧世界なら、検問所で止められても、「まぁ、仕方ないか・・・」で諦めもつく。
しかし、新世界の場合、せっかくこの長い旅路のゴール付近で中断を余儀なくされたら、誰だって
文 句の一つも言いたくなる。
安全な国を守る側も、危険な道のりを歩んだ来訪側も、その擦り合わせが難しい。
時には『火花(諍い)』が飛びじる事もあれば、今回のような『火災(大混乱)』に発展する事
も、世界が変わっても変わらない。
ラーコはそんな現場を、昔から遠くで見つめていた。
そんな場所で真面目に働く彼らを欺くのも、ちょっと勇気が必要だった今回の作戦。
だが、王都をある程度離れ、遠目で見た時点で、王都全体に炎が上がっている様子はなく、実質
『大成功』
新たな旅の門出にしては、だいぶ物騒ではあったものの、これでどうにか、『追手』の心配はしな
くてもいい。
生まれてからずっと王都の地下に籠っていたグルオフに関しては、複雑な気持ちがまだ残りはするものの、王都の外側に広がる広大な世界に、誰よりも興奮してはしゃいでいた。