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真っ黒になってしまった地下

「ゲホッ!! ゲホッ!!」


「やばい・・・・・こっちもかなりの被害だな・・・

 気をつけろよ、口に布でも巻いとけ。」


 一晩のうちに、真っ黒になってしまった地下道。

水の流れを塞いでいた事もあって、炎は地下全体を焼き尽くしてしまった。

 天井にも、壁にも、床にも、煤がびっしり付着している。

煤のせいで、調査に来た兵士達も、滑ったり転んだり・・・で、調査もなかなか進まない。

 しかも、地下の通気口にも煤が詰まっている為、空気も澱んでいる。

通気口の煤を全部取り払えばいいのだが、地下の構造を全く知らない兵士達は、とにかく歩いて調査するしかない。

 だが、どこまで広いのかも分からない。

一体自分達が、王都の何処の真下にいるのかさえ、あやふやになっていた。

 幸いな事は、あれだけの大火災にも関わらず、壁の崩落は起きていない。

それくらい、この地下は『耐火』も『耐震』も万全だった。

 ある意味、城の中よりも安全な空間である。


「先輩、知ってましたか? 

 こんなでっかい地下があるの・・・」


「いや・・・知らなかったなぁ・・・


 ・・・それにしても、この地下はとんでもなく入り組んでいるな。歩くだけでも疲れるぞ。」


 一応、迷わないように『地図』を手書きで描きながら進んでいるのだが、同じ景色ばかりが続

 いているせいで、もう大半の調査兵がギブアップしている。

ある意味、『樹海』を彷徨っているのと同じなのかもしれない。


「・・・でも、なんでよりにもよって、あの夜に大火事なんて・・・」


「本当そうだよ。俺なんてまだ頭痛いんだ・・・」


「先輩、飲み過ぎですよ。」


 この大火事の消火には、兵士だけでは人手不足であった。

だから大勢の住民にもバケツを運ばせていたが、それでも鎮火したのは夜明け頃。

 翠達が火元を『数カ所』用意して、火が地下全体に回るように、火を着ける順番や火元の大き

 さも、綿密に計算した。

その計算深さは、兵士達を上手い具合に翻弄している。

 地下の調査が始まってから、もう軽く2時間は経過しているのだが、地図が広がるばかりで、目

 立った成果はない。

火元となる場所がいくつも発見されたものの、広すぎて何処から調べていいのか分からない。


「それにしても、不思議ですよね。」


「何がだ?」


「だって、こんな立派な地下道なのに、『部屋』とかが一つも無いなんて・・・

 ・・・そもそも、この地下って何の為に作られたんですかね?

 地下水道の管理・・・とか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・いや。」


「???」


「そうでもないみたいだぞ。」


 そう言って、兵士の1人が立ち止まる。その兵士の前には、やたら煤の量が多い『行き止まり』

それを見て、大半の兵士達は首を傾げながら、「また行き止まりか?」と呟いていた。

 だが、兵士の1人がその煤を足で払い除けながら、左右に頭を向けると・・・


「・・・ほら、やっぱり。」


 他の兵士達も一緒になって左右を向くが、やはりそこには壁だけ




 ・・・かと思っていたら、積もっている煤の様子がおかしい事に気づいた。

通気口は全て塞がれているにも関わらず、その箇所に溜まった煤だけ、ユラユラ蠢いている。

 まるで、小動物がビクビクと動いている様に。

その煤が動いている箇所の壁を、兵士がゆっくりと押してみると、壁は簡単に動いた。

 見た目は周囲と同じ壁なのだが、そこだけ『石造に見せかけた鉄の扉』だった。


 そして、『隠し扉』の先にあったのは、明らかに、ついこの前まで誰かが使っていたであろう

 部屋が。


「こっ・・・・・此処は?!!」


「今まで風なんて一切吹いていなかったのに、この辺りに来た途端に、急に『綺麗な匂い』がし

 たんだ。」


「この部屋だけ・・・通気口が塞がれていない・・・!!」


 「綺麗な匂い」の正体。

それは、唯一塞がなかった通気口から流れ出ている、井戸近くの『洗濯物』の匂い。

 地上では、何も知らない主婦達が、昨晩の火事にブツクサと文句を言いながら、洗濯物を必死

 になって洗っていた。

昨日のお祭りで散々汚した旦那や子供の洗濯物を、力づくでバシャバシャしている。

 兵士の1人が、通気口に耳を傾けてみると、主婦達の井戸端会議が丸聞こえ。


「あの火事、結局何だったのかねぇー」


「そんなの私に聞いても知らないわよー」


「どうせ『火の不始末』とかじゃないのぉ? 

 祭りが終わった後、誰かが火を消し忘れた・・・とか」


「でも噂だと、炎が出たのは『井戸』かららしいわ。」


「はぁ?! 嘘つくんなら、もっとマシな嘘にしなさいよ!」


 嘘なんかではない。実際に兵士達は、井戸を下ってこの場所に辿り着いた。

だが、兵士達自身も、まさか井戸の底にこんな空間があるなんて知らなかった為、主婦達の会話に口出しもできない。

 部屋はとても簡素で、家具は『ダブルベッド』と『机』が一台あるだけ。

だが、家具や床には埃一つ乗っておらず、机の上には『手紙』と、壁には『2人分の服』がかかっている。

 明らかに、ついこの前この部屋には、誰かがいた。

ただ、家具も服もだいぶ質素で、何年使い込んだか想像もできないくらい。


「・・・この『小さい方の服』、よく見たら『貴族』や『王族』が着ている服にそっくりじゃな

 いですか?

 かなり古びているから分かりにくいですけど、形はそっくりです。」


「うーん・・・・・」


 試しに兵士の1人が、その『小さな服』を手にして、形を見てみる。

確かに服の縫い方やちょっとした飾りも、庶民が着るようなものではない。

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