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86・薄くなった門の守り

「うわわわわわわわわ!!!」


「予想以上に火の手が早いぞ!!!

 おいっ!!! 新入り!!!

 今すぐ訓練場で爆睡している兵士達全員を起こして来い!!!」


「えぇええ?! 先輩が行ってください!!!」


 兵士達があれこれと言い争いをしている間にも、炎は瞬く間に大きくなる。

事前に翠達は、どうやったら地下道全域に火が回るのかを検討して、その為に『薪』や『紙』を予め用意して設置した。

 炎上している場所は地下の為、地上にいる住民達には何の危害もない。

ただ、炎のせいで温まった地面に違和感を感じた犬や猫が、半ばパニック状態になっている。

 地面に向かって吠える犬や、ひたすらジーッと地面を見る猫。 

地下道には水路があるのだが、予め塞いである為、火は決して弱まる事はない。

 道端に放置されている粗大ゴミをバラせば、全ての水路を塞ぐ為の廃材はすぐに揃った。


 そうこうしているうちに、地上の石煉瓦造りの道路からは、モクモクと煙が立ち込めてきた。

地下の煙が充満して、地上にまで漏れ出ているのだ。

 これは翠も予想外だったが、計画は順調に進んでいる。

火事を目撃した兵士達により、訓練場の明かりが灯り、さっきまで寝ていたであろう兵士達が、眠い目を擦りながら外へ出てくる。

 気持ちよく眠っている時に叩き起こされた為、かなり不機嫌になっていた兵士達だったが、ま

 るで大木の様に燃え上がった炎を見て、一瞬にして眠気が覚めた様子。

それもそうだ、火の気なんて上がる筈がない井戸の中から、こんな真夜中に炎が上がっていたら、それこそ『夢』か『現実』か分からなくなってしまう。

 あっという間に、家の2階部分にまで達している炎の柱。

翠は、あまりの燃え様に、若干(やっちまったか・・・??)と思ってしまう。

 火を放つところまでは計画通りだったのだだが、火の勢いが予想以上に強い。


(地下道に『ガス』でも発生してたのかな??

 ・・・いや、そもそもこの世界に『ガス』なんてあるの??


 ・・・まさか、私『力加減』を間違えたのかな???)


 火の勢いが予想異常だったのは、翠のせい・・・というよりは、『兵士達のせい』でもある。

見つけた時点で、『水』や『砂』をかけて消火にあたればよかったのだが、見つけた後にあたふたした時間が長すぎて、消火にあたるタイミングを逃してしまったのだ。

 一応、訓練所には現役の井戸がいくつもある。

そこから水を運び出せば、ここまで炎が育つ事はなかった。

 結果的に、炎は延々と燃え上がり、炎の光で飛び起きて、外に出てくる住民も現れ始める。


「お・・・おい!!! お前達でどうにかしろ!!!」


「えぇ?!! さすがに無理ですって・・・!!!」


 あまりの出来事に、パニック状態になった兵士達は、駆けつけてきた住民達に当たり散らす。

だが、そんな事をしていても、炎が消える筈もない。

 しばらく翠も一緒になってアワアワしていると、ようやく『翠が聞きたかった言葉』を、翠の

 耳がキャッチした。


「おいっ!!! そこの男達!!!

 

 『門の警備にあたっている兵士達』も呼んで来い!!!」


「わっ、分かりましたぁ!!!」


 翠はその言葉を聞くと同時に、4人が待っている門へと向かう。

王都には門が沢山ある、それらを警備する兵士達も、侮ってはいけない。

 しかし、この王都から出るには、やはり門を潜らなくてはいけない。

王都の周囲は、頑丈な『壁』で覆われている。

 生憎、地下道から王都の外へと出られる道はなく、かつて壁の真下の地面を掘って、抜け道を

 作ろうとした人々が捕まった話もある。

もし掘っている途中を誰かに見られたり、掘った穴が発見されたら、壁周辺の警備が厚くなって、脱出が困難になってしまうかもしれない。

 今後の事も考え、『低リスク』で王都から脱出する為には、門を潜るしかない。

だから、『見張り(兵士)』は少しでも少ない方がいい。その為の『火事騒動』なのだ。


 地下道の要所要所、特に『通気口』がある場所を重点的に燃料を重ね、ついでに『油』も撒い

 ておいた。

空気が流れた方が、炎の勢いは増す。昔の『かまど』と同じ原理で。

 翠が屋根の上を走り、門へ向かっていく最中にも、門番をしていた兵士達が、炎が立ち込めて

 いる井戸へと向かう様子が見られた。

いよいよ、5人の作戦も『大詰め』である。


「・・・・・あっ!! ミドリさんが来ました!!」


 屋根を走る翠を最初に見つけたのは、グルオフだった。

翠は、家の近くに生えている木に飛び移り、そのまま下へと落ちる。

 作戦通り、門には兵士の姿が全くない。

もう露店側では大パニックになっている様子で、悲鳴やら怒号やらで溢れかえっていた。

 何も知らない住民達にとっては、若干『とばっちり』ではあるものの、こうでもしないと5人

 が無事に逃げられる方法はなかった。


 それに、この火事が『自分達によって仕組まれている証拠』は

 しっかり地下に『残している』


「・・・・・よしっ、誰もいないね!!!」


「作戦成功!! お見事です!!」




 5人は作戦が成功した事を、今すぐ分かち合いたい。

だが、それは王都からある程度離れてから。

 5人はガラガラに空いている門を抜け、王都の外へと飛び立った。




「・・・グルオフ・・・」


「気にしないでよ、ラーコブ。




 また帰って来るんだから!」


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