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85・作戦決行を告げる月明かり

 祭りが終わった夜、王都の中は異様なほど静まり返っている。

王都に住む全員の住民が大いに楽しみ、大いに頑張った日である。だから、全員が疲れ果ててしまうのも当然。

 後片付けは明日に回し、今は祭りの疲れをゆっくりと取る為、各々家に戻ってぐっすり熟睡し

 ている。

もうすぐ日を跨ぐ時間帯でも、王都はいつも賑わっている。しかし、毎年この日は違う。

 もう皆、『夜遊び』をする体力も残っていないのだ。

夜に営業する店も、今晩だけは明かりを消す。

 ある意味、夜でも賑わう王都が、本当の意味で暗闇と静寂に包まれる、珍しい光景である

そして、祭りに一切協力なんてしなかった兵士や貴族も、『食い疲れ』『飲み疲れ』『遊び疲れ』により、その晩はグーグーと熟睡する。

 城の窓からも一切灯が見えず、いつもは純白にキラキラと輝く城も、今晩は『黒い壁』の様に

 見える。

灯りが一切ない王都は、不気味を通り越して神秘的である。

 その上、今晩は雲ひとつない『月夜』

眩しいくらいに輝く月の光で、王都の静けさは増している。

 街灯やランプがなくても、普通に歩けそうなくらい、今晩はとても明るい。

時折聞こえてくるのは家の壁を通過するほど大きな『寝息』

 露店のあちこちに置かれているテーブルには、まだ片付けられていないお皿やグラスが山積み

 になっている。

そのせいで、露店の周りは残飯の匂いで満たされ、その匂いを嗅ぎつけた犬や猫が、あちこちで集会所をつくっている。

 普段は露店に動物が現れただけで、追い出されてしまうものの、今晩はまさに『無礼講』

まだ残っている食事を漁る犬や、まだちょっと温もりが残っている卓上のランプに群がる猫。


異世界ともなれば、『ペット』や『動物』の価値観も変わってくるもの。

 この世界では、飼い犬であろうが、野良犬であろうが、ほぼ全ての動物は放し飼い状態。

ある程度毛並みや歯並びが揃っている動物は飼われている事が分かるが、飼われている証である『首輪』を身につけている動物は、数える程しかいない。

 人間が普通に食べられる物でも、動物には『猛毒』になるケースが多い。『ネギ類』や『チョ

 コ』が代表例。

しかし、放し飼いにされている動物達は、何の躊躇もなく人間の食べ残しを食べる。

 それが果たして、動物の為になるのか、幸せのためになるのか、長寿の為になるのか。

それは、動物のみぞ知る事。






「・・・よし、それじゃあ『落とすよ』」


 暗闇を飛び交う『5つの影』

『2人』は大きな荷物を背負い、『1人』は『一番小さい影』を背負う。


 そしてもう1人が、『小さな灯火』を、杖の上に発火させた。

残りの4人は、ゆっくりと頷き、それを見た『翠』は、杖の上の灯火を・・・・・






 ボォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!


「よしっ!! じゃあ作戦通り、4人は門へ!!」


 真下に炎が燃え上がった瞬間、『翠』と『クレン達』は二手に分かれた。

翠は兵士がいるであろう『兵士の訓練場』へ、クレン達は一番人通りの少ない『門』へ。

 翠が地下へ灯火を落とした場所は、訓練場近くの地下道。

見つかるとかなり危険な出入り口の為、滅多に使わない箇所ではあるが、今晩は有効活用する。

 訓練所前の門には、今にも眠りそうなほど、ウトウトしている2人の兵士の姿が。これも既に

 周知済み。

訓練所前の門の見張りは、いつも2・3人で組むことも知っている。しかし今晩は、いつもとは違う。

 祭りを終えた夜は、散々楽しんだであろう兵士達が、まともに門番をするわけがない。

翠が物陰に隠れながら門に近づいても、兵士達は全然気づいていない様子。

 だが、まだ翠は次の行動に移さない。4人が門へ到着するタイミングを待つ。

グルオフから借りた『懐中時計』を月明かりに向けながら、とにかく翠は息を潜める。


 4人が門へ到着すると、やはりその場所を警備している兵士達も、眠気にだいぶ翻弄されてい

 る様子。

門の前には3人の兵士が立ち塞がっているのだが、その全員が槍を杖代わりにして、よろけている体を必死になって支えている。

 そう、ラーコはこの『状況』を好機と捉えたのだ。 

国を守る兵士達が、まだお酒に惑わされている状態なら、脱出するのは簡単になる。

 5人は、『訓練所』と『最寄りの地下道』を計算した上で、一番近い門を選んだ。

リハーサル等はできなかったが、4人と1人は、難なく次のステップへと進んでいく。

 予め決めておいた時間が来ると、翠は大きく息を吸い込んで、声を発する。 




「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 地下が燃えてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 翠が兵士達に向かって大声で叫ぶと、兵士達は立ったまま飛び起きた。

そして、声がする方向へと向かって来るので、翠は屋根の上へと隠れる。

 そう、もう既に地下道への出入り口には、メラメラと燃え上がる炎が顔を覗かせていた。


「な・・・何だ何だ?!! 井戸の中が・・・・・燃えてる?!!」


「と・・・とりあえず消火だぁ!!!」


 突然夢心地から覚めた兵士達は、まるで蟻のようにバラバラの行動を始め、メラメラと燃え上

 がる炎に対し、何の対処もできずにいた。

叩き起こされた上に、こんな光景が広がっていたら、酔った頭では正確に処理する事なんて、ほぼ不可能。


 だが、まだ翠は屋根の上で待機する。


 そう、この『地下火災』に

 『兵士全員』が気づくまでは・・・


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