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84・作戦の最終チェック

実はグルオフとリータが買い出しに行っている最中、街の様子を改めて確認して、作戦に支障が出ないか、ラーコは屋根の上から街を見渡していた。

 普段見ている街並みな為、地図を大幅を書き換えないといけないくらいの大改革はなかった筈

 だが、作戦に少しでも綻びが出てしまうと、その先の行く末が暗闇に包まれてしまう。

『グルオフ』という名の『最後の可能性』が途絶えてしまっては、ラーコやクレンの行先がなくなってしまう。

 それだけではない、作戦に協力した翠やリータ、ラーコの弟であるクレンにも、何かしらの災

 難が降りかかる。

そう、グルオフが正式に王家へ返り咲けば、モンスターに対する偏見や差別が、少しでも軽くなるのは確かである。

 モンスターに対する偏見や差別が目立つようになったのは、時系列から見てもグルオフ一家が

 王家から追い出されてから。

偽・王家達にとっては、『些細な問題』なのかもしれないが、本人達からすれば死活問題。

 それに、今は目立った反乱は起きていないものの、不満が爆発してしまったモンスター側が、

 いつ反 旗を翻すか分からない。

そうなれば、この国自体に大きな影響を及ぼすかもしれない。最悪、『国家存亡』に関わるくらい、重大な『紛争』に発展する事態も考えられる。

 当然そんな結末、誰だって避けたい。

だからこそ、今はまだ目立った反乱は起きていないのかもしれない。 

 だが、『不満』というものは、『火山の噴火』と同じく、いつ・どんなタイミングで噴火する

 か分からない。

それくらいなら、噴火の原因や、噴火する条件を探り、最悪の事態を防ぐ方法を模索する。

 現にグルオフは、ラーコやクレンに対してだけではなく、この国で下働きを強いられているモ

 ンスターに、『申し訳なさ』を感じている。

反旗を翻すのは、モンスターに限った話ではない。グルオフのような不安や恐怖を抱えている人間達も少なくない。

 そう、この国は一見すると平和に見えるのだが、いつ何処で噴火するか分からない活火山が、

 幾つもある状態なのだ。

・・・ある意味、翠がかつて生きていた旧世界(日本)と同じような環境である。

 グルオフにとっては、『見ているだけでも同罪』という、優しい心の持ち主。

だが、それは決して、グルオフだけではない。クレンは少なくとも、そう思っている。

 そんな純情なグルオフを最後の砦としてしまった翠達にも罪悪感はもちろんある。


だからこそ、翠達は誓ったのだ。


『全力で彼を守る』


 と。




「・・・・・・・・・・ふっ。」


「ミドリさん? どうかしましたか?」


「いやね、グルオフとは、もっと早く出会いたかったなー・・・って思っただけ。」


(・・・それこそ、『転生前』に出会いたかったな・・・)


 翠はパンをいつまでもモグモグしながら、そんな事を考えていた。

そのパンには最初、『アゲザカナ』という、『魚のフライ』が乗っていた。

 だが、食べ方に失敗してしてしまった翠が、上に乗っていたアゲザカナを落としてしまい、仕

 方なくパンだけをモシャモシャする事に。

『家の床』なら問題なく拾えるのだが、生憎ここは『地下道』

 そんな場所に落ちた食べ物を食べる気にもならず、申し訳ないがアゲザカナは処理する事に。


 正確に言えば、翠が転生前に出会いたかったのは、グルオフ・・・というより、『自分を受け

 入れてくれる人』である。

両親以外で、自分の趣味も、趣向も。1人でもいいから。

 同じ趣味を持っていなくてもいい、自分の趣味を笑わず、軽視しない人。

『普通の友人』として、一緒に買い物をしたり、一緒にレストランでテスト勉強をしたり。

 だが、翠でなくても、そうゆう人というのは、なかなかいないもの。

何故なら人間はそれぞれ『価値観』が違うから。

 例えば、


『同じアイドルグループが好きな者同士』だとしても、『好きなメンバー』は違う。

『同じゲーム会社が好きな者同士』でも、『好きなゲーム』は違う。


それはまだ普通な方だ。問題なのは、互いの違いを認め合った上で、一緒に楽しめるか・・・だ。

 人によっては、自分の好きなものを相手に押し付けたり、逆に相手の好きなものを侮辱したり

 する。

それで、ネット全体を巻き込んだ大騒動になるケースも、現代では珍しくなくなった。

 リアルの世界でも、そうゆう諍いによって、友人や恋人を失うケースもある。

そうゆう相談は、SNSでもよく投稿されて、叩かれたり擁護されたり・・・

 『警察沙汰』・・・とまではいかないが、最終的にはもう議論から外れ、罵詈雑言を叩き合う

 修羅場になってしまう。

ゲーム業界だけではなく、アイドル業界やペット業界、あらゆる場所に、他人の主張を耳に入れない人がいる。

 それが目立つようになったのが、ネットやSNSが普及した現代。

現実には面と向かって文句を言えない人々が、ネットやSNSで言いたい放題になる。

 実際、翠を軽視していたクラスメイト達が、『本当の仲良し』だったのか、若干怪しい。


(・・・・・そういえば、あの人達って今頃何してるんだろう・・・?

 まさかあんな場所で、全員くたばる・・・なんて事は・・・)


「・・・ミドリさん? 今度はどうしたの??」


「あぁ、ごめんごめん。なんか、作戦決行を前にして、色々と考えが頭を過ってね。

 いや、作戦決行が怖いわけではないんだ。」


 翠はケーキを食べながら、また転生前の事を思い出してしまう。

何故だかは、本人にも分からない。

 今が一番幸せなのにも関わらず、何故か辛かった時の記憶を思い出してしまう。

それに何の意味もない事は、とっくの昔に本人が自覚しているのに。

 「王都に来たら、とりあえずひと段落かな・・・?」と思っていた翠の計画とは裏腹に、どん

 どん大きく、深くなっていく問題で、思わず過去を忘れそうになる事も。

だから、脳が本能的に、過去を忘れないように、あえて思い出しているのかもしれない。

 どんな記憶にしろ、過去は翠を創り上げた、大切な『材料』である。

クラスメイト達から蔑まれても尚、好きなゲームを愛し続けた結果が、今なのだ。

 だからこそ、今の翠は、クラスメイト達に若干感謝をしている。

『嫌われてしまう程 好きになってしまうものだってある』・・・というのは、人間関係だけの話ではない。

 それを翠の過去は、教えてくれたのだ。


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