83・『偽物』の風格は 飾られている
「・・・・・へぇ・・・アレが『偽』の・・・
ふぅーん、割と貫禄ありそうだけど、グルオフには劣るよね。」
「そうですよね、なんか、ギラギラを見に纏っているだけで、実際は『普通の人』みたい。
・・・そう思うと、グルオフって凄いんだね、兄さん。
庶民よりも質の低い服を身に纏っていても、王族オーラがしっかり出ていたよ。」
「あれこそ『本物』だよ。決してお金では買えないオーラだよ、あれは。」
クレンとリータは、2人でコソコソと話し合いながら、その場を速やかに去った。
そう、パフォーマンスや祭りの様子を、特等席で見ている人々こそ、グルオフを地下に追いやった元凶。
『偽・王家』
確かにリータの言う通り、着飾っている高そうな衣服や装飾品を全て無視すると、『普通のお
っちゃん』や『普通のおばさん』の集まりである。
まるで、平日にカフェでお喋りをするマダムのように、パフォーマンスそっちのけで雑談を楽しむ偽・婦人達。
その横では、酒と女だけをジロジロと見ている偽・紳士。
こんな人々がこの国の『顔』だと思うと、2人もやりきれない気持ちになる。
グルオフが王家から追放された事も、余計納得できない。
どんな事情があるにしても、グルオフ一家には一切罪はない筈。なのに、
何故あんなおじちゃんやおばちゃんが国のトップに立っているのか。
何故平然な顔で、城で悠々自適な生活をしているのか。
何故彼らが、庶民や兵士をまとめる立場に立っているのか。
2人は、同じ事を同時に思った。
(もし許されるのなら、今すぐあの席に悠々(ゆうゆう)と座っている連中を引きずり下ろし
て、グルオフの前で土下座させたい。)
そして、一番パフォーマンスが見える席に座っている『一組』こそ、偽・王家のトップ。
この国の全てを牛耳っている
偽・国王。
大きなお腹を抱え、椅子に鎮座しているその姿は、まさに『社長』の様である。
(歩けるのかな?)と思うくらい、ブクブクと太っているそのお腹と、異様なくらい綺麗にセットされている髪や髭。
確かに見てくれは国王なのだが、その作法や態度からは、思いやりの心が一切感じられない。
食べ終わった、もしくは食べかけの料理があるお皿を並べるだけで、「下げてくれ!」の一言もない。
なのに、気に入らない料理は床にボトボトと落とし、皿すらも割ってしまう。
それを拾う使用人達にすら、視線を一切向けない。完全に『自分』しか見ていない態度である。
見ているだけで腑が煮え繰り返りそうな2人ではあるが、地下で待っている3人を
考えると、自然と怒りはスーッと消えていく。
自分の意見を聞いてくれない人物に怒りを向けるよりは、自分の意見を少しでも聞いてくれる人物を思っていた方が、よっぽどマシである。
偽・国王の周りにいるのは、恐らく家族。
偽・妃は、自分の老いを化粧で隠そうと必死になっているのが、その顔面を見れば分かる。
食す料理にも入りそうなくらい、濃くて厚い化粧は、あまり綺麗とは言えない。
本人が満足しているのなら、話は別なのだが・・・
そんな2人の中央にいるのが、『偽・時期国王』となるであろう、1人の『王子』
両親2人は、つまんない顔をしながらも、祭りを傍観している。
だが、息子の王子は全く無関心なのか、ただただ呆然と王都の中央を見ているだけ。
その目は何処にも向いておらず、出されている料理も少ししか手を出していない。
何が気に入らないのか、それとも単にパフォーマンスがつまらないのか。
顔自体はだいぶイケメンで、体格も両親と比べるとだいぶスッキリしているのだが、盛るに盛られた衣服や装飾品のせいで、両親と同じくかなりけばけばしい。
それこそ、庶民と同じくらい、質素な服を着せてあげれば、本来の彼がちゃんと見えそう。
偽・国王一家に出された料理の数々は、露店で売られているような料理とは比べものにならない、豪勢で美味しそうな品ばかり。
明らかに素材から高級品ばかりが使われ、見た目一つを取っても、庶民や旅人が決して口に入
れる機会がないような、お洒落すぎて逆に食べずらい料理の数々。
『芸術品』として見れば特に問題はないのだが、口に入れるのは、ちょっと躊躇われる。
誰しもが、「一流の料理人の料理を食べたい!!」と思うかもしれない。
だが、実際に目にしてみると、何故かその気が失せてしまう。
普段から高級な料理を目にした事がないからなのか、世界がかけ離れているからなのか・・・
偽・国王達は、祭りを楽しんでいない様子だが、国民達は大いに楽しんでいる。
この寒暖差があるのも、よく考えると不思議な話だ。
自分達の土地に住んでくれている国民達がお祭りを心から楽しんでいるなら、土地を支配して
いる上層部も、一緒になって楽しむのが普通の筈。
しかし、国王達の態度は、完全に『他人事』
ただただ庶民が勝手に盛り上がっている様子を、くだらない視線で見ている。
一瞬、本当に国王なのか疑ってしまう程。
「・・・・・何故かな、今急に、ふと『ドロップ町』が恋しくなっちゃった。」
「・・・前にミドリが言っていたな
「『憧れ』は大抵、『理想』とはほど遠い」
ってね。」
「どうゆう意味ですか?」
「『憧れ』通りには、いつだってならないって事だよ。
自分も本当は、姉さんみたいに『武器を扱う覚醒者』になりたくて、悪戦苦闘していたんだ。
でも、実際覚醒者にはなれたんだけど・・・」
「それって、僕が『剣士の覚醒者』になったのと同じじゃないですか。
でも、僕はそれでも嬉しいですよ。頑張った結果、今があるんですから。
・・・・・行く先々で、色々と大変な目に遭ってますけどね・・・」
「確かにそうだが、自分は嬉しいよ。これからも、もっと自分達は頑張れるんだから。
もしかしたら、この国の歴史に、自分の名前が刻まれるかもしれないぞ。」
「ふふふっ。
じゃあ結局、互いに今が一番嬉しいんですねっ。」
そう言って笑い合う2人。
急いで帰ろうとしたのに、色々と話し込んだせいで、せっかく買い込んだ料理が、若干冷めてしまった。
慌てて地下へと戻ると、もう既に『出発の準備』の為、大量の『薪』と『紙』の準備に取り掛
かっている3人の姿が。
(いくらなんでも、早すぎるんじゃ・・・?)と思っていた2人。
だが、ラーコの発言により、すぐさま2人もその作業を手伝う事に。
「ごめんね2人とも、さっきミドリとグルオフとも相談したんだけど・・・・・
『作戦決行』は
今日か明日の未明。」
「・・・・・・・・・・はい??」
「・・・・・・・・・・はい??」