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81・『夏祭り』

「・・・ねぇ、クレン。本当に僕達だけ行っていいのかな?」


「本人が「行きたくない」って言ってるんだから、仕方ないよ。

 多分、ラーコと同性同士、話がしたいんじゃない?

 ほら、ここ最近は出発の準備に忙しくて、ろくに話もできなかったみたいだし。」


「・・・僕達も、ご飯だけ買って帰りましょうよ。

 3人が真下にいるのに、「楽しかったー!」なんて言えない・・・」


「あははっ、リータは優しいんだなぁ。」


 あちこちから聞こえる祭囃子の音楽と、活気に満ちた声で物を売る人々で、今日の王都は、い

 つも以上に賑わっていた。

いつもの露店も賑わっているのだが、いつも以上に大きく感じるのは人々の声量だけではなく、売られている商品の『値段』も。

 いわゆる『お祭り価格』である。

ただ、『特別な日』・・・という事もあり、人々は何の違和感も感じる事なく、あれやこれやと購入している。

 売られている商品の大半は『食べ物』だが、露店のなかには祭りを盛り上げる『楽器』や『飾

 り』も売られていた。

大人も子供も、いつもより良い服や装飾品で着飾り、家々も賑やかな装飾で彩られている。

 これこそ『祭りの景色』である。

各々が自分達の家を自慢していたり、子供達はいつも以上に貰えたお小遣いの使い道を頑張って考えていたり、見ているだけでも、お祭りは楽しめるものである。

 いつも以上に良い匂いが立ち込め、2人は地下にいる3人に何を買ってあげればいいか、相談

 しながら店を周る。


「クレンさん!! この『アゲイモ』っていう料理美味しそう!!」


「待て待てリータ、『アゲイモ』を売っている店ならこの先にもあるから、まずはひと通り見て

 から。」


 そんなやりとりをしている2人を、店の店員達は和やかな表情で見ていた。

完全に『兄弟』と思われている。

 はしゃぐリータ(弟)と、それを宥めるクレン(兄)。

もう2人とも十代なのだが、はしゃぐ姿はそこら辺にいる子供達とほぼ変わらない。

 お祭りは子供達にとって、年に数回ある『大きなイベント』でもあると同時に、『最も自由な

 時間』でもある。

両親から「もう寝なさい!」と言われる時間帯まで起きていても怒られない。

 いつも以上に沢山お小遣いをくれる家もあれば、この日の為にコツコツ貯金していた子供も。

こうゆう場所で、子供の性格というのは表れる。

 まだ祭りが始まったばかりだというのに、もう「お小遣いがなーい!!」と言いながら、買い

 すぎた品々を抱えている子供。

ちょくちょく財布を確認しながら、次に買う物を慎重に決める子供。

 同じ王都に住む子供でも、色々と違いが出るのは面白い。


「わぁ・・・いつも見ている筈のクダモノミツも、今日はいつも以上に美味しそうに・・・」






 ドシンっ!!


「いたっ!!」 「うわっ!!」


 店に並んでいるクダモノミツを眺めていたリータの足に、ちっちゃい何かがぶつかってきた。

びっくりはしたものの、リータは少し後ずさっただけで、怪我はしていない。

 リータにぶつかってきた者の正体、それはまだ湯気の出ているクシトリを手に持つ男の子。

男の子はぶつかった衝撃で尻もちをついてしまったものの、手に持っているクシトリは無事な様子で、リータはホッとした。


「大丈夫?! ごめんね!!」


「いっ、いいえ!! 僕もごめんなさい!!」


 男の子は立ち上がると、リータに向かって深々と頭を下げる。

その拍子にクシトリが落ちそうになったのを、リータがタイミング良くキャッチ。

 すると、後ろから男の子のお兄さんが、息を荒げながら駆け寄って来た。


「すいません!! 俺の弟が!!」


「いえいえ、いいんですよ。こうゆう時くらい、思い切って遊びたいもんね。」


 リータが笑顔で弟に話しかけると、その子は顔を真っ赤にさせながら、お兄ちゃんの後ろに隠

 れる。

お兄ちゃんが登場した事で、急に恥ずかしくなってしまったのだ。

 その光景だけで、兄弟の仲が伺える。

クレンとリータは顔を見合わせて、思わずニヤニヤしてしまう。


「沢山楽しむのはいいけど、人に迷惑をかけちゃダメだよ。」


「は・・・はい!!」 「それじゃあ、失礼します。」


 兄弟は、また何処かに行ってしまった。

その光景を見送った後、2人は改めて、今夜の晩御飯を厳選する為、人混みへ乗り出した。

 さっきの少年の二の舞にならないように、人の波に注意しながら。

やはりイベントというだけあって、いつも以上に市場は人で賑わっている。

 もう一見すると『人の塊』にしか見えなく、歩いている地面ですら見えないくらい、人々の足

 で埋め尽くされている。

そして、いつも以上に市場は人の声で溢れている。その騒ぎは、地下にも響きそうなくらい。

 普段の王都の人混みだけで、もう頭がクラクラしていた2人だが、その時の倍以上は人がいる。

リータは思わず、クレンの手を握った。

 ちょっと目を離してしまうと、『兄』が何処かに行ってしまいそうで。

そんなリータの不安を察知したクレンも、「離れるなよ」と言いながら、ギュッと『弟』の手を握り返す。


「リーター、人の足を踏まないように歩くんだぞー」


「はーい。


 ・・・・・?? 兄さん、アレ何??」


 不意に『兄さん』と言ってしまったリータだったが、クレンはその呼び方をしても、ちゃんと

 振り向いてくれる。

リータが見つめている先にあるのは、かなり大きめの『テント』

 彼の目に留まったのは、何故かその周りだけ、人が避けるように歩いているから。

だが、テントの下で暴飲暴食をしている人が誰なのかが分かった途端、2人もテントから目を逸らした。


「・・・兄さん。僕、ミドリさんが祭りに参加しない理由、何となく分かったかも。」


「奇遇だな、自分も。


 ・・・まさか王都が、こんなに荒れているとは思わなかったな・・・

 今まで買い出しとか外の用事を、全部ミドリに任せていたから、全然気づかなかった。」


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