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80・『冷たい』助け舟

ピシィィィィィィィィィィィィィィィン!!!


「うわっ!!!」 「きゃあ!!!」


 突然頭上から降ってきた『氷の矢』は、2人の真横に突き刺さり、そこから『真っ白な霧』が

 立ち込める。

その霧に、青年が目をくらませている隙に、ラーコが翠の手を引っ張り、猛スピードでその場から離れる。

 青年は霧を手で振り払おうとしたが、霧はあっという間に散布して、さっきまで翠がいた市場

 近くにまで、あっという間に霧が広がっていく。

兵士に楯突いた旅人の次は、突如として発生した肌寒い霧。もちろん今は真夏の真昼間、霧なんて発生するわけがない。

 だが、この状況に一目散に逃げたのは、さっき翠が相手をした兵士だった。

「ヒィィィィィ!!!」と情けない声を上げながら、城の方へ走り去っていく。

 住民達は突如として発生した霧に怯えながらも、それ以上に恐ろしい兵士が逃げ帰った事で、

 ホッと胸を撫で下ろしていた。


「・・・もしかして、この霧も、あの旅人さんが?」


「さぁ・・・・・でも、確かにありえるかもね。」


「凄いなぁ・・・」


 馬小屋で休憩をしていた馬達が突然くしゃみを連発した事で、従業員の男性2人も慌てて外に

 出てきて、いつの間にか霧で覆われてしまった街中に、思わず2人で腰を抜かした。


「何だ・・・?! 何なんだ?!

 何か兵士がやらかしたのか?!」


「あ、落ち着けって!! いくら兵士でも、こんな芸当できるわけないだろ!!」


「じゃあ何なんだよ!!」




 市場ではパニックが続いているが、川辺まで逃げた翠とラーコは、息を切らせながら近くのベ

 ンチに腰を落とした。

特に翠の心臓は、まだバクバクしていた。

 また兵士と諍いになる事も予想外だったが、何よりあの青年に話しかけられた事が、まだ信じ

 られない。

翠はてっきり、この国の貴族や王族は、武器を持っている人間には、不用意に話しかけないと思っていた。

 『自分』が大切な人なら、逃げるのは当然の筈。

青年は勇敢なのか、それとも危機感がないのか、はたまた天然なのか・・・

 どちらにしても、何故あんな場所に、身分の高い人間がいたのかも分からない。

しかも、2人が見た限りでは、その青年は『たった1人』だった。

 普通、貴族や王族が街中を歩く際には、最低1人は『ボディーガード』を側に置く筈。

貴族や王族に限らないが、自分達が一番安心できる場所に居たとしても、命の危機に瀕する事も、ありえなくもない。

 特に庶民の上に立つ貴族や王族なら、その脅威が何倍にも感じてしまう。

だから、自分を安心させる為、自分を守る為に、ボディーガードは欠かさない筈。

 あんな街中に1人っきりでいる貴族は、はっきり言ってしまえば『命知らず』である。

騒ぎを聞きつけて、興味本位で来てしまったのか、それとも偶然なのか、もう確かめる術なんてない。


「はぁー・・・・・

 びっくりし・・・



 イデデデデデデデデデデデデデデデデデデデデ!!!」


「私が目を離した隙に何をやっているのかと思ったら・・・

 いい加減兵士にちょっかい出すのはやめなさいって!」


「ず・・・ずみまぜんっでぇぇぇぇぇ!!!」


 翠の両側のほっぺをムニーッと引っ張るラーコ。

あと一週間後には、『例の計画』を実行するのに、今から大騒ぎを越されたら、計画が破綻するかもしれない。

 翠も、ちゃんとそれに関しては頭に入っていた。だが、どうしても許せなかったのだ。

兵士の、あの横暴で傍若無人な態度が。

 ある意味、気に入らない事があれば攻撃してくる、王都の周りを彷徨いているモンスターより

 もタチが悪い。

『違う種族』からの攻撃、『同じ種族』からの攻撃、どちらの方が厄介で、面倒なのか。



翠はあと一週間、なるべく外に出ない事をラーコに誓った。

 作戦決行が近い事もあるが、それよりも翠が危険視しているのは、自分がやらかした事が、あ

 まりにも色んな場所に広がりすぎている事。

しかしラーコは、この噂の広がり様に、「当然よ」と言う。


「ミドリにはまだよく分からないと思うけど、この王都の住民はね、『噂話』が大好きなのよ。

 昨日までは市場内で止まっていた話も、翌日には王都の外にまで広がっている・・・なんて事

 も珍しくないのよ。」


「へぇ・・・『土地柄』ってやつですか?」


 翠はラーコに引っ張られたほっぺを両手で押さえながら聞いた。

引っ張られた痛みで涙目になる翠に、ラーコは「そうかもね」と言いながら、腫れ上がった頬を撫でてあげた。

 口には出せないが、結構痛かった翠。

怒られる事は覚悟していた翠だったが、かなりキツめの説教を受けた。

 翠には兄弟姉妹はいなかった為、こんな小さな諍いをする相手もいなかった。

当然、友達との喧嘩も経験していない。だから翠は、ちょっと嬉しかった。

 怒られて凹んではいるものの、顔はどうしてもニヤけてしまう。

そんな翠を見て、ラーコは(ヤレヤレ・・・)と思うしかない。

 翠のタフさと怖い物知らずは、この短い期間で、ラーコも散々知り尽くしているから。

地下に長年救っていた巨大ネズミを相手にしても、翠は一切怯まず、杖一本で立ち向かった。

 退治できた後、「その巨大ネズミの齧歯げっしが欲しい」なんて言われた時には、ラーコ

 も自分の耳を疑った。

だが、その齧歯はちゃんと使われている。削られ磨かれ、杖の一部になっていた。


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