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77・祭りの準備

 いつからだろうか、モンスターを見る目が、冷たくなったのは。


 何故なのだろうか、皆がそれに対して、『疑問』を抱かなくなったのは。


 ・・・・・いや。


 抱いているのだ。大勢の人が。


「こんなのって、やっぱりおかしい!!」

「何でもかんでもモンスターのせいにするべきではない!!」

「モンスターは立派な『仕事仲間』でもあり、『家族』でもあるんだ!!」


 そんな思いを抱えながらも、誰にも見せない、悟らせない。

 何故なら・・・・・




「おいっ!! そこのモンスター!!」


「ひっ、はっ、はいぃぃ!!」


「馬のフンの処理をしておけよ。


 ・・・だが、もし馬が一頭でもいなくなっていたら・・・」


「はっ、はい!! 分かりました!!」


 ボロボロの布を纏い、兵士達にペコペコと頭を下げる、少女のエルフ。

彼女の手は度重なる重労働でガサガサ、靴もないせいで、足も痛々しい姿になっている。

 彼女を遠くから見ていた人間達も、兵士達の声が聞こえ、顔を青ざめさせていた。

祭りの前だというのに、住民達の空気はピリピリしている。

 住民達は周りをキョロキョロしながら、『慎重に』祭りの準備をする。

もし変な行動を取れば、見張りをしている兵士達が一目散に駆けつけ、尋問する。

 祭りの支度といえば、これから向かえる賑やかなイベントを控え、皆がウキウキしながら、当

 時を楽 しみにしている。

学校で行われる『体育祭』や『文化祭』でも、学生や教師関係なく、イベントを最大限に盛り上げる為、試行錯誤をしながらもワイワイするのが普通である。

 だが、何年前かに決められた『法律』により、その空気は変わってしまった。


『祭り・祭典が行われる際の準備期間には、兵士達の監視を義務付ける。

 国民達の安全と、危険を未然に回避する為である。


 これは、祭りの準備に紛れ、『窃盗』や『暴行事件』を防ぐ目的である。

 国民達は、兵士の命令・指導を、全面的に信頼、協力する事。』


 だが、祭りの準備をしている時に、誰もそんな犯罪に手を染めようとはしない。

それぞれ、自分達のブースを手入れするだけで精一杯だから。

 なのに、祭りの最中のみならず、準備に取り組んでいる際にも、兵士達が目を光らせている。

それだけなら、「用心深いんだな」で済む話。問題はそこからである。

 もう大勢の民が、国のお偉いさんに、兵士達の横暴な態度や言動に関して、『直談判』をして

 いる。 

その回数は数知れず、直談判に乗り出した住民も数知れず。それくらい、住民達は兵士に悩まされていた。

 いちゃもんをつけられて暴力を振るわれた女性もいれば、身に覚えのないお金を兵士に請求さ

 れた男性もいた。

しかし、何度直談判をしても、何人もの仲間を引き連れて城に乗り込んでも、兵士達の態度は相変わらず。

 それどころではない、日増しに兵士の態度は大きくなるばかりで、普段の業務ですら怠る兵士

 も増える始末。

万引きや窃盗が起きても、何の調査もしない。検問所でお金や物品を着服する兵士までいる。

 その上、不満を訴えた側にも関わらず、直談判した住民の住所を割り出され、兵士達が直々に

 文句を言いに来たケースも。

だから最近では、兵士に何か頼み事をする人もいなければ、目を合わせる人すらいない、話しかける事すらしない。

 それが、王都に住む国民達の、『精一杯の抵抗』でもある。

昔は民にも発言権はあった、しかしそれを、国は『圧力』でねじ伏せた。

 そう、いつの間にかこの王都は、そんな『魔境』になってしまったのだ。

『力』や『圧力』で庶民を押し付けて、自分たちだけ美味しい思いをする。

 それに対して、罪悪感も感じない程、やりたい放題している兵士。

そんな兵士を野放しにしている王都の支配者達。

 こんな状況になれば、何もかもを諦めてしまうのも仕方ない。



「おい、そこの酒場の主人。酒を売れ。」


「えぇ?! で・・・ですが今は祭りの準備で・・・」


「いいからよこせ!!!」


「はっ、はい!! 只今ぁ!!」


 昔は祭りの準備も、この王都の名物で、王都に足を運んでくれた旅人も、民に混じって準備の

 手伝いをする事も。

そして、手伝ってくれるのは旅人だけではなかった。

 まだ庶民と兵士との距離が近い時代は、兵士も総出で祭りの準備を手伝っては、住民達の助け

 になっていた。

しかし、今では祭りの準備になると、旅人達の行動を制限して、準備している光景も見せない。

 何故なのか、それは住民達の誰にも分からない。恐らく兵士にも分からない。

兵士達の面倒を見なければいけない女主人の顔からは、冷や汗がダラダラと流れている。

 何か少しでもミスをするだけで、店の存続に関わる事態にもなりかねない。

不運にも、目をつけられてしまった女店主を、周囲は哀れな目で見ている。

 だが、誰も助けたり、兵士に反論したりはしない。自分達も、巻き込まれるのは御免だから。

・・・ある意味、それが兵士達のやりたい放題を加速させているのだが・・・

 兵士がジロジロと見ているなか、落ち着いて準備に取り掛かれるわけがない。

兵士は住民達がが不審な動きをしないか、目を光らせている。

 だが、その基準がないのも、また面倒なのだ。不審に思えるか、否かは、正直見ていた兵士に

 よる。

だから、悪意のない行動でも、目撃した兵士からすれば、不信に思われてしまう事も・・・


「・・・・・はぁ・・・」


「おいっ!! 女!!

 俺達を見てため息をついたなぁ!!」


「すっ、すみません!! 決してそんなつもりでは・・・!!」


「口答えするなぁ!!!」


 兵士は、相手が女であろうと関係ない。

持っていた木製ジョッキを女に投げつけ、まだ中に残っていたビールが、女主人の髪に降りかかる。


「まったく、最近の民は、我々への感謝の気持ちがなっていない!!!」


 そんな兵士の言葉に、その場にいた全員が、同じ事を思った。




(『感謝』どころか、『迷惑』しかないよ・・・・・)


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