表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/237

76・変わりつつある『人間関係』

「私の覚醒者としての力は弓を射る力じゃないのよ。『矢』の方なの。」


「・・・とすると・・・矢に色々と魔法を加える・・・とか?」


「そう。

 『毒矢』を生成する際は、『矢』に『毒』を塗り込まないといけないんだけど、私の場合はそ

 の『手順』も『素材』も必要ないの。

 矢を弓のツルに乗せて引いている時に念じれば、普通の矢でも『毒矢』になる。

 他にも、『炎』を加えれば『炎矢えんや』に。

 『冷気』を加えれば『冷矢レイヤ』になる。


 ・・・お父さんとお母さんが別れる時にね、お父さんがこの弓をお母さんに託したの。

 お父さんの腕もお母さんの腕も、ほぼ互角だったそうよ。」


「へぇー・・・

 さっすが『覚醒者ファミリー』」


「なかなか語呂がいいじゃないの。」


 2人で笑うラーコと翠。そんなラーコを、グルオフはニヤニヤしながら見ていた。

弟分のグルオフにとっては、姉であるラーコが、歳の近い同性と一緒に喋っている光景を見るのが、初めてだったのだ。

 この地下道に、今まで人を招いた事なんてない。

だからグルオフもラーコも、同い年の同性と喋った事なんて、今の今まで一度もなかった。

 翠も、こんなにラーコと仲良くなれるなんて、正直思っていなかった。

何故なら翠は、旧世界で『信頼できる友人』というものを、つくった事がない。

 学校行事で『班』や『グループ』に分かれても、結局はのけ者にされる。

『いない者』として、話が進められ、勝手に終わっている。

 だから、翠に文化祭や体育祭の記憶が薄いのも、仕方のない事。

小学校三年生の時には、先生が気遣って、翠と仲良くなれそうなクラスメイトに声をかけた。

 だが、口では先生に「分かりました」と言っていたクラスメイトでも、実際に行動に移してく

 れる人はいなかった。

生徒にとって、時と場合によっては先生より、学校を牛耳っている同じクラスの生徒が怖い。

 一度目をつけられると、なかなかレッテルが剥がれてくれず、翠と同じ目に遭わされるかもし

 れない。

そう思うと、話したくても話せなかった。

 『学校』という名の『世界』は、まさしく『閉鎖されたド田舎』の様なのだ。


 そんな場所で、窮屈な思いをしてきた翠が、初めてつくった『同性の友達』は、異世界転生し

 てようやくつくる事ができた。

他愛のない話をする事もできれば、真剣な相談を話す事もできる。そんな、最高の友人を。

 旧世界では、『共通の趣味』で仲良くなるケースが多いが、翠とラーコの場合は、『共通の立

 場』で仲良くなったのだ。

同じ『覚醒者同士』、辛い事も不安な事も語り合える。2人は、そんな相手をずっと待ち望んでいた。


 その横で、2人を見ていたグルオフは、ちょっと複雑な心境を顔に滲ませる。

まるで、『親離れを始めたばかりの子供』の様に。

 グルオフも欲しいのだ、『同性の友達』が。冗談を言ったり、ふざけ合ったりできる友達が。

しかし、グルオフはまだ9歳にも関わらず、背負っているものがあまりにも多すぎるせいで、同じ9歳の男女とは釣り合いそうもない。

 9歳といえば、まだ両親に頼りっぱなしの生き方に、何の違和感も感じない、未熟な人間。

しかし、グルオフはもう『成人男性』と同じくらい、性格も行動もしっかりしている。

 むしろ、大人よりもしっかりしている部分も幾つかある。

そんなグルオフが、9歳の『お菓子についての雑談』や『将来の夢についての雑談』を、自然とできるわけがない。

 恐らく、貴族や王族の子供とも釣り合わない。

それくらい、グルオフが今までに辿ってきた道のりは、常人では決して歩めないような、『イバラで作られた道』

 でも、リータが『愛のある家庭』を望んでいたのと同じように、グルオフも望んでいたのだ。

『何でも話し合える、同性の友達』を。




「・・・グルオフ?」


「えっ・・・??


 あぁ!! あぁ!! ごめんごめん!!」


「大丈夫? もしかして、具合でも悪いの?

 私、一応『回復魔法』も習得してるんだけど、それ使えばどうにかなるかな?

 ラーコ、どうかな?」


「いやぁ・・・それは分からん。クレン、後々の事も考えて、薬一式買ってきてよ。」


「一式ってどれくらいの値段するかな?

 というか、一式って言われても、自分にはさっぱり・・・」


「あぁ、じゃあ僕も行きますよ。ドロップ町で培われた知識もあるから。」


 グルオフにとっては、頼りになる『兄』や『姉』が、一気に増えたような感覚である。


 ラーコに似て、ちょっと危なっかしいけど、多くの人をまとめ上げる力を持つ翠。


 まだ姉にタジタジながらも、頑張って皆の役に立とうと頑張るクレン。


 皆よりも知識が豊富で、いつも冷静に周囲を見る事ができるリータ。


 仲間としては、文句無しのメンバーである。

一癖も二癖もあるものの、『実績』や『経験』の数なら、貴族や王家に仕える兵士の倍以上。

 長年停滞していた問題が、ようやく動き出しそうで、グルオフは不安ながらも、腹を決めた。


 この人達と一緒なら、どうにでもなる。どうにかなる。

 ようやく、父と母の無念が、晴らせる時が来る。




「・・・ありがとう、皆。」


「??」「??」「??」「??」


「・・・僕も、頑張るから、皆も頑張ってほしい。

 僕は正式なる王家の人間として、もう一度城に帰らなくてはいけない。そして、立て直さない

 といけない。


 何よりラーコブやクレンのように、偏見や差別を受けるモンスター達を、人間と同じ位置に立

 たせ、今の偽られた政治を全部、僕の手で変えなければ・・・!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ