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75・目的地は『北東』に

「・・・・・よしっ。


 じゃあ結論から言うと


 シキオリの里がある可能性が最も高い場所は


 此処から『北東』に進んだ場所にある


 ・・・・・と。」


「はい、僕も色々と計算を組み直したりしたんですが、やはり『北東』の方角で、結論が纏まっ

 たんです。」


 シキオリの里の調査から、約一ヶ月が経過した。

その頃には、もう必要な資料とそうでない資料を分別して、地下の一室はだいぶまとまった。

 一時期は足の踏み場もないくらい、紙で部屋が覆い隠されていたのだが。

グルオフとラーコが寝泊まりしている一角は、地下道の四角にある為、例え地下道が発見されたとしても、本拠地が見つけられる可能性は低い。

 だが、そこに新たな住民が3人(翠・クレン・リータ)も加わった事で、部屋が手狭になって

 しまった。

グルオフやラーコは、「賑やかだから気にしないよ」とは言っていたものの、やはり住まわせてもらっている分、『掃除』や『洗濯』も受け持った3人。

 だが、掃除しても掃除して、紙の束は増える一方。

地下道には他に部屋もなく、とにかくこまめに掃除する事しか、溜まり続ける資料の対策はできない。

 掃除するのは至って簡単なのだが、いらなくなった資料を処理するのは、少し苦労した。

身を隠している都合上、無闇矢鱈むやみやたらに火や煙を出す事はできず、とにかく火や煙を隠しながら処理した。

 まるで『ナニかを死守する危ない連中』だが、確かに今の5人は、貴族や王族からマークされ

 ている、『危険人物』である事に間違いはない。

そして、同時進行で『旅の準備』も整えていた。

 これからはラーコ・グルオフも含めた5人で、北東へ向かわなければいけない。

ただ、荷物を運ぶ為の『男手』が2人もいるのは有り難い。


「・・・・・それにしても北東か・・・」


「・・・どうしたの、姉さん?」


「いや、あのね。北へ進めば進む程ね、この時期は涼しくなるのよ。

 場所によってはこの時期でも寒くなるから、体調管理と防寒具の支度も考えなくちゃ。」


 ようやくシキオリの里の場所が『だいたい』だが判明したのは、もう季節が『夏』を迎える。

2人を知る前は、まだ地上は過ごしやすい気候で、そこまで不快感は感じなかった。

 だが、5人があれこれと作業を進めているうちに、いつの間にか気温がどんどん上がっていた。直射日光を避ける為、フードを被りながら外を歩く人が増える。

 ある意味この状況は、地上にいる時には常にフードを被らなければいけない5人にとって、

 『都合が良い』

暑いのは当然皆が嫌なのだが、夏は暑さのせいもあり、兵士も見回りの回数や範囲が減る。

 だからその間に、旅の支度を整えた。

多めに買い出しをしても、猛暑の外を歩いている人は少なかった為、目撃者は少ない。

 それに地下は、地上と比べて『直射日光』が無い為、比較的過ごしやすい。

湿気はうざったいが、強烈な日差しがないだけ、かなりマシである。


 翠は、旧世界と新世界には、あらゆる箇所で共通点がある事を知っていた。

そして、最近新たに知った共通点は、『季節』である。

 「日本ほど、四季の区分ができる国はない」という言葉を、かつて翠は『中学の先生』から聞

 いた。

翠は外国に行った事はないものの、日本には『季節を楽しみ、味わう心』があるのは、幼い頃からよく知っている。


桜が咲けば『お花見』 雨が長続きすれば『梅雨』 蒸し暑くなる頃には『お盆』や『夏祭り』

木々の葉が染まる頃には『紅葉狩り』 冷たい雪が深々と降る頃には『大晦日』や『元旦』


 毎年行われている恒例行事でも、季節の変わり目や季節毎のイベントになれば、大勢の人が参

 加する。

暑くても、寒くても、季節毎のイベントは全国各地で行われている。

 地方のニュース番組を見れば、自分が住んでいる地方ではない県で行われているイベントが報

 道されるが、どれもこれも歴史があり、祭りの参加者にとっては『大事な日』でもある。

それくらい、日本人は大昔から、あらゆる季節を楽しんで、時間の巡りを実感している。

 外国でも季節のイベントはあるが、日本は47都道府県全てで、独自の季節イベントがある事を

 考えると、『異常』を通り越して『不思議』である。

あまり外出をしない翠でさえ、雪が溶けて植物が伸びてくる時期は楽しみ。

 窓から見える木々や草花の息吹は、部屋の中から見ても朗らかな気分になれる。

寒くなって雪が降れば、テンションが上がる。雪国に住む人々にとっては、『重労働の季節』でもあるのだが・・・


 そして、その習慣はこの世界にもあった。


「でさ、3週間後に『夏祭り』があるんだけど、出発はその後にしない?

 もう今から祭りの屋台を準備しているお店も色々あるし、ぜったい人目に見つかっちゃう。」


 『夏祭り』

その言葉を久々に聞いて、翠の胸の鼓動が高まった。夏祭りといえば、古来から日本で執り行われる、『夏の大イベント』である。

 大きなお祭りになると、毎年地方からも人が押し寄せ、色とりどりの花火が夜空で弾ける。

露店では美味しそうな匂いが人々を誘い、この場を利用して告白したり、プロポーズをするカップルも。

 乙女ゲームでも、『夏祭りイベント』はとても大事である。彼候補や彼女候補と、一気に距離

 を縮められるチャンスである。


 だが、今の翠達は、そんなイベントを楽しんでいる場合ではない。


「ラーコは参加するの?」


「うーん・・・

 まぁ、屋台で出される料理をこっちに持って来るだけにしようかな。外すんごい暑いし、人混

 み嫌いだし。」


「さんせーい!!」


 ラーコも翠と同じような考えの持ち主で、翠はちょっと嬉しくなった。

いい歳した女子が『暑いから』『面倒だから』という理由で、皆で盛り上がれるイベントに参加しない・・・というのも、色々な人から怒られそうな話である。

 だが、夏の楽しみ方は人それぞれ。翠の今年の夏は、大変ではあるけど楽しみで仕方ない。

別に、何か大きなイベントに参加するわけでもなければ、楽しい場所に行くわけでもない。

 そもそも行く道に目的のものがあるのかも分からない、かなりギャンブルな旅になりそうでは

 ある。

それでも、翠はいつも以上に楽しみな夏に、もう行く気満々である。だが、とりあえず行くのは3週間後。

 それまでは、出発までの体力をつけておく必要がある。


「あ、そういえばさ。」


 翠は、ふと思った。


「ラーコも、覚醒者・・・なんですよね。そこ・・・」


 翠が指差したのは、ラーコの『腕』


 ラーコの『覚醒者の証』は、両腕にあった。両腕に刻まれている証の形は、『ボウガン』

 つまり・・・・・


「そうか、姉さんは『弓使い』なんだね。」


「えぇ、そうよ。アメニュ一族の子孫にはね、必ず弓使いが1人誕生する法則があるの。

 そして、その弓使いが当主になる決まりもあるみたいだけど・・・

 もう当主とかは関係のない話かもね。」


「いやいや、そんな事はないですよ。もしラーコさんが子孫を作れば、アメニュ一族は続いてい

 きますよ。」


「あら、じゃあリータ君が私のお婿さんになってくれるのかしら?」


「えぇええ?!! いやいやいや!!! 

 色々と責任が重すぎますぅぅぅ!!!」


 いつもよりも声が2・3倍も大きくなっているリータに、4人は大爆笑する。

翠の気づきと、クレンの直感は全部当たっていた。グルオフはもう見ているが、3人がラーコの武器を見るのは初めて。

 材質は『木』なのだが、明らかに普通の木ではない。見ているだけで『神聖な木』である事が

 分かる。

エルフの武器としては、ピッタリだった。それがアメニュ一家に伝わる『家宝』と言われても頷ける。


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