74・下調べ 開始
とりあえず5人は、『シキオリの里』の情報収集を始める事に。
かつて数多の探検家が探し求めた土地、情報がない方がおかしい。
翠・ラーコ・リータの3人は、とにかくあらゆる場所から情報を集め、グルオフの護衛はクレ
ンに任せる事に。
実は、グルオフの護衛を進んで申し出たのは、クレン自身。
ラーコがいない間に、自分の母の事や、自分の知らない姉の事を聞き出したかったのだ。
姉のラーコに聞きにくい事でも、グルオフなら話してくれる。
もちろん、その会話の内容は、姉には内緒にして。
調べ物をするのに、最も効率が良く、信憑性のある情報が集まる場所は、王都の住民も多く使用する『図書館』
王都にあるだけあって、村や町に付属されている図書館とは比べ物にならないくらい広く、壁
は全て本で埋め尽くされている。
壁にも届くくらい大きな本棚の上にも、ビッチリと本が埋められているその光景に、3人は思わず息を呑む。
「ラーコも、図書館に来るのは初めてなんだ。
てっきり私、ラーコならよく来ているのかと・・・」
「えぇ、普段はグルオフにつきっきりだから。」
「それは・・・大変ですね・・・」
「あははっ、ありがとう、リータ君。まぁ1人になれる時間といえば、市場に食料を買いに行く時
くらいかな。」
翠は、かつて受験勉強や試験勉強の際には、家の近くにある図書館を活用していた。
だがそこは、役所と併合している図書館であり、広さはそれ程ない。
それこそ、学校にある図書館を半分にしたくらいの広さ。
常備されている本も少なく、司書も役所の職員が受け持っている。
それでも翠にとっては、学校にある図書館よりも勉強が捗る場所であり、誰にも知られていな
い『穴場』だった。
試験や受験になると、普段は図書館とは縁のない生徒ですら、こぞって図書館で勉強を始める。
しかし、図書館にも入れる生徒は限られる。我先にと席を確保して、長い間居座る生徒もいる
くらい。
その上、普段から翠を嘲笑っているクラスメイトも、その時期だけは図書室に篭る。
だが、その全員が真面目に勉強しているのかは分からない。
スマホをいじっていたり、おしゃべりを楽しんだり。
テスト期間の時だけ、放課後に図書室が開放されても、必ずしも生徒の為になっている・・・
とも言えない。
すぐ横でクスクス笑われながら勉強するより、狭くてもいいから静かな場所で勉強していた方が、頭に入りやすい。
異世界の図書館にも、多くの人がいた。小さな子供から老人まで、多くの民が食い入るように
本を読んでいる。
『ゲーム』や『ネット』がない新世界で、『読書』は『代表的な娯楽』として、人々の余暇を支えてきた。
司書が受付で案内をしていたり、どの本が何処にあるのかを記した看板も設置されていたり。
図書館自体は、旧世界でも新世界でも変わらなかった。
だから翠も、意気揚々とあちこちの本棚を漁り、『シキオリの里』について、何か情報が載っ
ていないか探る。
ただ、どんな事でも分からない時は『スマホ』で検索していた翠にとって、山のようにある本の中から自分が知りたい事柄を探すのは、ある意味モンスターとの戦いよりも骨が折れる。
本棚から本を取り、自分が探したいキーワードを探す。キーワードがあったら持って行く、な
かったら戻す。
その作業だけで、肩が悲鳴を上げる。しかも、本自体もかなり本格的で、慎重に扱わないといけない。
旧世界のように、コピーして大量生産された物とはわけが違う。
翠は今までの旅路で気づいたのだが、本の値段は旧世界の値段より何倍も高い。
その値段の高さが、いかに新世界では本が貴重なのかを物語っている。
ボタンを押せば本のページがプリントできる機械なんて、ある筈がない。
一枚一枚『手書き』で、ページを畳んで本状にして結び、表紙もきちんと縫う。
その一手間ひと手間を考えるだけで、本の値段が異様に高いのも納得できる。
しかも、図書館に置かれている本の数々は、何年前に購入したのかも分からないような古書も
混じっている。
ちょっとでも力を加えるだけで、破れたり剥がれたりしてしまいそう。
翠が手に取った本の幾つかには、もう『修理された跡』のある。
その修理も、恐らく手作業修理にもお金がかかるのは当然だが、その修理費だけでも、旧世界の何倍もあるのも察せる。
(うぅー・・・・・
結構『シキオリの里』について記載のある本がいくつかあるなぁ・・・
というか、ここ最近ずっとペンばっかり持ってる気がする。)
いつの間にか手にできたマメを見つめながらも、翠は手を休めない。
疲れてはいるが、意外とシキオリの里についての情報が、図書館には多く残っていた。
だから、休んでいる時間が惜しいくらい、3人は熱心に調べ続ける。
だが、3人の力を尽くしても、一日では終わらない。それもそうだ。
シキオリの里について記述がある本が多い上に、図書館自体が広く、あっちこっちに足を運ん
でいるうちに、もう1時間は経ってしまう。
その間のクレンとグルオフは、互いに生まれ育った場所の話で盛り上がっていた。
王都にはないものでいっぱいなシカノ村。村にはないものでいっぱいな王都。
それぞれが、全く違う国にあるような場所で、2人はこの世界に広さを実感する。
2人はある意味、『似たもの同士』
互いのの事情は違えど、ずっと狭い世界に閉じ込められていた、もしくは現在進行形で閉じ込
められている。
だからこそ、世界が余計に狭く感じてしまう。
もし 自分がラーコと立場が逆だったら もし 父親が生きていたなら
もし 偽の王家から追い出されなかったら もし アメニュ一家が守ってくれなかったら
そう思えば思う程、今がどれだけ『奇跡』で溢れているのか、2人は一周回って恐怖を感じて
いた。
もし、その数々の軌跡(奇跡)がなかったら、今の自分達はなかった。この出会いもなかった。
自分達の狭かった世界から、抜け出す術も、その後の行先も分からないままだった。
2人にとって、『出会い』とは『きっかけ』であり、今まで閉ざされていた門を開く『鍵』
だからこそ、2人はこの時間(鍵やきっかけ)を、手放したくないくらい大事に思える。
グルオフ達と出会ってから、ますます肩身が狭くなってしまった翠・クレン・リータだが、それでも後悔なんてしていない。
謎は増え続ける一方でも、分かっていく事も徐々に積み上がっていく。
それは決して、良い事ばかりではないが。でも何故か、後悔はない。