7・第一人間(?)発見
どれくらい歩いたのか分からない、ただ闇雲に歩いたばかりで、無事に出口まで辿り着ける自信はなかった翠。
しかし、そんな翠にも光明が差した。
(・・・・・あっ! 光だ!!)
森が開け、向こう側が見える場所まで辿り着いたのだ。
翠はホッと胸を撫で下ろし、駆け足で森を抜ける。
そして、森の先に広がっていたのは、何処までも続く『草原』
まるで外国の様な景色だが、翠は思い出した。もうこの世界が、自分達の生きていた世界ではない事に。
道はまばらだけど、ちゃんとある。
コンクリートで舗装はされていないものの、『目印』や『看板』があちこちにある。
試しに翠が看板に近づき、読んでみると・・・
『シカノ村はこの先』
と、文字は若干掠れているものの、読む事ができた。
その文字は、『日本語』ではなかった。だが読む事ができた。
とりあえず翠は、その『シカノ村』で色々と装備を整え、これからを考える事にした。
(ひとまずゆっくり休める場所に行きたいな・・・
・・・というか、この世界に来てからまだ『人間』を見ていないから・・・)
意外と森で採れた収穫も多く、とっとと換金したりしておかないと、重くて自由に動き回れない。
こういう広大な世界を『馬』に乗って颯爽と走ってみたいが、そもそも馬を扱える自信がない為、翠は地道にトコトコと歩く事に。
ただ、こうゆう道をボーッと歩くのもまた良いものである。
日本でも、外国でも感じられないような、不思議な異国感。
改めて、異世界へ来た実感が湧くものの、じっくりとその感覚を味わう余裕は、まだ翠にはなかった。
「・・・おや? 新人の旅人さんかな?」
「あ・・・・・どうも」
Y字路で翠と鉢合わせた『二人の男性』と、『一人の青年』
大きくてどっしりした体つきの男性2人は、気さくに翠へ声をかける。
翠の格好を見ただけで『新人』である事を見抜いた事にも驚いた翠だったが、それ以上に驚いたのは、2人分の大きな荷物を抱えながら、息を切らしている青年。
明らかに2人と体格が違い、痩せほそった体で、必死になって大きな荷物を背負っている様子。
その顔からは、もう体力の限界がはっきり見えているにも拘わらず、2人は平然とした様子で翠に話しかける。
「君、何処出身?」
「あ・・・・・いえ・・・・・
実は私、『記憶喪失』なんですよ。
だから今も、あてのない旅をしている・・・というか・・・」
「えぇええ?! そりゃ大変だぁ!!」
(・・・まぁ、ゲームキャラとかだと『お決まり』だし・・・
大丈夫でしょ・・・多分。)
咄嗟にこんな事を言ってしまった翠。だが、仕方のない事だった。
出会った人にいきなり「私、別の世界から転生してきたんですよー」なんて言ったら、確実に怪しまれる。
最悪、捕まって酷い目に遭うかもしれない。
嘘をつくのも若干リスクはあるものの、翠はどうにかこの場を退けようと、必死になって誤魔化した。
しかし、2人は翠の嘘に全然気づいていない様子で、翠はとりあえずこの嘘を突き通す事に。
「そうか・・・一人旅で大変だろう・・・」
「生まれた場所は? それすらも分からないのか?」
「はい・・・でも幸い、装備とかは自力でどうにかなったので・・・」
それなりに話を合わせているが、自分でもまさか嘘をここまで突き通せる事に、自分で驚いている。
昔から嘘はあまりつかない翠ではあったが、よくゲームでも『嘘を突き通す』というシチュエーションがある為、そのシーンを思い返しては言葉を紡いでいる。
罪悪感はある、だがどう説明すればいいか分からない。そもそも、翠は最初からはこの世界の住民ではない。
そんな微妙な立ち位置をうまく立ち回るのに、この先不安しかない翠。
「・・・ん? お嬢さん、その袋は?」
「あ・・・・・途中で退治したモンスターの素材です。
これがあれば、少しは食い繋げると思って・・・」
「・・・なんか・・・量多くないか? 一人でやったのか?」
「ま・・・まぁ、そんなに強くなかったので・・・えへへ・・・」
スライムやクラスメイト達も驚愕していたが、2人も同じ反応を示した。
「お嬢さんって、レベルはいくつくらいなんだ?」
「え? 『レベル』ですか?
あー・・・・・
すいません、どう確かめればいいんでしょうか?」
「ほら、ソレだよソレソレ。」
そう言って1人が指差したのは、翠の『杖』
一応、スライムやゴブリンの体液は拭き取って綺麗にしたが、まだちょっと汚れている。
翠はなるべく汚れている箇所を見せないようにしながら、説明を聞いた。
「これをさ、地面にトンッて突いてごらん。」
言われるまま、翠は杖を軽く地面に叩きつける。
すると、地面から突然『文字』や『数字』が飛び出してくる。
翠はこの行為が、『メニューを開く為のアクション』である事を学習した。
・・・・・で、肝心のレベルはというと・・・