72・『シキオリノサト』
翠が、そんな自分の疑問を抱いたと同時に、リータも「そういえば・・・」と呟く。
そして、さっき自分が書いた文章に、『○』を足していく
『共ニ守リ○シ○、共ニ戦ウ、我ノ仲間ハ、都ヲ離レタ。不本意ナガラモ、我々ノ未来ヲ考エテ
ノ苦シ○キ○決断デアッタ。
何故、我々ガ敵視サレタノカ、ソレハ我々デモ周知。
ダガ、ソレデモ我ラ○ヲ○使ッテクレタカラコソ、我々ハコノ国二忠誠ヲ誓ッタ筈。
国ノ為トアラバ、○リ○クヲ渡リ歩キ、海ヲモ制シタ。
長年支エ続ケテキタ仲間ト○ノ○別レニハ、モチロン渋ル者モイタ、物言ウ者モイタ。
ダガ、早クコノ都カラ○サ○ラナケレバ・・・去ラナケレバ・・・
イツカ皆○ト○、再ビ再会デキル日ヲ信ジテ・・・・・』
リータが書き足した○の数は、全部で『14箇所』
「なんかこの『○』がずっと気になっていたんで、この文章だけはしっかり覚えていたんです。
かなり古い文献だったので、○の字はだいぶ薄くはなってたんですけど、それにしては、○の
数が多い・・・というか。」
「確かに・・・
ただの描き間違いではなさそうね。」
(ラーコの言う通りね。
ドロップさんは、王都から追い出された身。
だからこそ、文献のなかに、自分達の真相を隠していたとしても、不思議ではない。
それこそ、知ってしまったら子孫達にも関わりかねない、そんな重大なナニかを・・・・・)
『暗号』
それは、推理もののドラマや映画なら、よくあるシチュエーションである。
ただ今回の場合、『暗号』・・・というよりは、『間違い探し』に等しいかもしれない。
実際にその文章が書かれている資料を見たわけではないリータ以外の4人でも、その文章に何かあるのは、何となく分かる。
「とりあえずさ、その○の中にある文字を、一文字ずつ並べてみる?」
もう5人の周りは、あれこれと文字が書かれたチラシでいっぱいだった。
しかし、確実に真相に近づいている。
リータ1人ではどうにもならなかったその文章でも、4人が加わる事で、謎が少しずつ明らかに
なっていく。
王都の内情に詳しい2人では掴めなかった情報や発想を、3人は持ち合わせている。
『自分以外の考え』は、時として『自分の味方』にもなってくれる。
そして、もうこれで5枚目のチラシに書かれた『7つの言葉』は
『シ』 『キ』 『オ』 『リ』 『ノ』 『サ』 『ト』
一見すると、それは何処かの『地名』
そして、その地名に逐一気付いたのはグルオフだった。
「『シキオリノサト』・・・・・
・・・・・いや・・・でも・・・」
「・・・グルオフ?」
翠がグルオフの顔を見ると、彼はかなり悩んでいる様子だった。
言い出しづらい様子ではなく、頑張って記憶の束を掻き回している。
その証拠に、グルオフは頭を掻きむしりながら、「うぅーん うぅーん」と唸っていた。
その表情だけで、グルオフがどれだけ必死なのかが伝わる。
しばらく翠達はグルオフを待っていたが、なかなか言い出さないグルオフに、翠は痺れを切ら
して聞き出した。
「グルオフ、思いついた事があるなら、何でも言ってよ。
不確かでもいいからさ、今はとにかく情報が必要だから。」
「・・・・・実は・・・
僕の記憶の何処かに、『シキオリの里』という『地名』があるんです。」
(やっぱり・・・『サト』って文字があったから、私も『地名』だとは思っていたけど・・・)
「ただ、それが何処にあるのか、思い出せそうで思い出せなくて・・・
確か・・・『絵本』の中で見たような言葉だったような・・・」
「・・・・・・・・・・」
翠は、何故グルオフが言い出さなかったのか、その理由が理解できた。
見覚えがあるものの、それが『絵本の中の単語』・・・となると、現実味がない。
ただ、全く関係のな情報とも言い難い。クレンは、姉に聞いてみる。
「姉さんは? その『シキオリの里』に何か心当たりは?」
「・・・・・なんか・・・私もその単語を聞いたような・・・
ひと昔前、そんな『噂』を聞いた事があるのよ。」
「どんな噂?」
「確か・・・・・『幻の場所』って感じの。」
翠はふと思い出した。旧世界で、一時期流行っていた『都市伝説』
『きさらぎ駅』 『異世界へ行く方法』
この2つの都市伝説に共通するのは、『異世界』
かなりオカルトチックな話ではあるが、いつの間にかその噂は徐々に大きくなり、『映画』『漫
画』の題材もなる。
だが、噂や都市伝説なんて所詮んそんなものである。
いつ、誰が見たか、聞いたか・・・なんて分からない。
最初はただ単に、誰かの『作り話』だったのかもしれない。
だが次第に、それはどんどん形を大きくして、噂では済まなくなる。
翠は前に読んだ漫画で見た、こんなセリフを思い出した。
『『噂』は人間に広められ、大きくなる事を望んでいる。
そうすれば、小さくて形のなかった話はみるみる成長して、大きな形を成す。
それが、噂自身の望み。
だが逆に言えば、自分の話が広がらないのは、噂にとって死活問題
だが、そんな噂の中には
時として『真実』が隠れている事も・・・・・』