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頭上の城下町 3

「あ、そうそう。もう一つ、最近流行っている・・・というか、流れてる噂があってさ。」


「お前ほんとそうゆうの好きだよなー

 噂かき集めてる暇あるくらいなら、こっちの仕事に専念してくれよー」


「頑張ってるって、でもずーっと仕事の事考えてたら、頭も心も爆発するから、客との付き合い

 の延長線上で・・・」


「あー、はいはい分かったわかった。

 で、どんな話?」


「最近、城へ頻繁に出入りしている『覚醒者の占い師』がいるみたいなんだよ。

 でも、何でもその覚醒者、『偽物』だそうだ。

 しかも王家の人間ときたら、その偽物を全然見抜けず、言われるがまま大金を渡しているんだ

 とよ。」


「・・・・・それって、最近はもう珍しくないけど、『覚醒者詐欺』ってヤツか?

 王家がそんな馬鹿みたいな罠に引っかかるものなのか?」


「その詐欺師さ、他の村や町でも大金をむしり取って、いかにも「私は覚醒者ですよー」って感

 じのオーラをかもし出しているそうだ。」


 庶民の問題は、語れば語るほど積み上がっていく。

横暴な兵士に詐欺師、それらから自衛しながら生きていかなければいけない。

 味方にできるのは、この苦しみを分かち合える、『庶民同士』のみと言っても過言ではない。

出所が分からない噂であれ、それを2人もすんなり飲み込んでしまう・・・という事は、『思い当たる節がある』という事。

 一見平和に見えていたとしても、人々の心の奥に潜んでいる『不信感』や『不安』は、増して

 いくばかり。

この場所が、辺鄙な村や町に住む人々からすれば、『憧れの場所』になっている・・・というのも、なんとも皮肉な話。

 多くの人が憧れる場所なのに、真っ黒で正体不明の影(噂)は、王都に住む人々の心を蝕んで

 いる。


「・・・なぁ。」


「あ?」


「もしかしたら、お前の言った通り・・・・・

 王家の方で、何かあったんじゃないのか?」


「それを調べたくても調べられないから、こうして噂だけが充満しているんだよ。」


 そう言って、1人は酒を飲み干して立ちあがろうとする。

気づけばもう、酒屋の閉店時間が来ていた。

もう1人も立ち上がると、酒屋の主人に代金を渡そうとする・・・・・が




「ちょっと、兵士さんよ、もうそろそろ店閉めなくちゃいけないんだが・・・」


「うるせぇ!!! しっかり金払ってんだから口答えすんじゃねぇ!!!」


 だいぶ酔っ払っているその兵士は、まだ食べ物が残った状態の皿を、店主に投げつけた。

初老の店主はその衝撃で後ろに転んでしまい、2人の男は店主を庇った。


「おいおいおい!! それが俺達を守ってくれる兵士のする態度なのかよ!!」


 男の1人が反論すると、立ち上がった兵士が鞘を持って3人ににじり寄ってくる。

この展開には、さすがに男3人が集まっても、負けるのはほぼ確実。

 そう思った店主は、その兵士に向かって頭を深々と下げる。


「も・・・申し訳ございません・・・」


 男2人は、横目でその店主の顔を見た。恐怖で顔が真っ青になり、今にも涙が溢れ出そうな目

 をしている。

店主のその態度で、若干落ち着きを取り戻したのか、鞘から手を離した兵士。

 そして、テーブルの上で突っ伏して泥酔している、もう1人の兵士の首元を引っ張り、酒場を後

 にする。

危機が回避できた事で、3人は胸を撫で下ろした。

 そして、店の奥から3人を見守っていた店主の妻と3人も息子が飛び出してきた。


「あなた!!! 大丈夫?!!」


「何なんだ・・・兵士のあの態度!!!」


「ここ最近、妙に横暴になってるよな・・・」


「父さん、腰は大丈夫?!!」


 騒ぎは店の外まで筒抜けで、帰路につこうとしていた酔っぱらい達の酔いは、一瞬にして覚め

 てしまう。

そして、酔っ払っている兵士達に近づかないように、目が合わないように、慌ててその場から立ち去る。

 向かいの店で閉店の準備をしていた女主人は、慌てて店の中へと引っ込んだ。

まだ泥酔状態な兵士は、歩きながらブツブツと独り言を呟いていた。


「畜生・・・あとちょっとで俺も『貴族』になるところだったのに・・・

 『あんな女』がいなけりゃな・・・・・」


 その兵士の独り言を、店を片付けていた2人の男が聞いた。

そして互いに顔を合わせ、互いに青ざめる。

 ついさっきまで、自分達が話していた事は、あながち間違いでもない・・・かもしれない。

もしその噂が事実だとすれば、色々と辻褄が合う。

 その上、他にもある色々な噂にも、ある程度の説明はつく。


「・・・にいちゃん達、本当ごめんな。

 お礼と言っちゃあれだけど、今日の酒代とかは出さなくて良いからさ。」


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」


「・・・・・兄ちゃん達? どうしたんだ??」


 2人は、呆然と立ち尽くしたまま、冷や汗を垂らしていた。無言のまま、ずっと目を合わせて。

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